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夢魔の逆襲」(2006/08/31 (木) 03:02:37) の最新版変更点

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※このお話は、リレー小説『[[ゆめくい]]』の続きとして書いたものです。   スレッドの保守を兼ねて書いたので、クオリティの至らない点は、どうかご容赦を。   俺の名は、シーンーヤー。夢を食らう魔の眷属だ。行方不明になった弟バークーを捜している。   くんくん……ふむ、弟の残り香がする。こっちか!? 雛「……うーん、うにゅーが一杯なの……食べても食べても、食べきれないの……」 シ「……弟とかかわったのは、このチビか……? いや、少し違うようだな。……まあ、いい。行きがけの駄賃という奴だ、まずはこいつの夢から食らってやろう!」   雛苺、危うし!! シ「どれどれ……もぐもぐ……うわっ、ぺっ! ……な、何だこの甘さは!? そもそも、苺に練乳をかけて食うことからして信じられん……。ダメだダメだっ、こんな夢全部食ったら糖尿になっちまう……。他を当たろう……」 シ「このチビはどうか……? ううむ、こいつも違うようだな……。どれ、一口……」 金「……うーん、授業が終わったら、まずは吹奏楽部なのかしらー。四時からは卓球部、五時からは新聞部……夜十一時には、パソコン部のみんなとチャットでお話しないとならないのかしらー。……ああっ、土曜の午後のアウトドア部の準備も進めないといけないのかーしら……。はぁ……。ううん、負けちゃダメよ、カナ! 特製のこの玉子焼きを食べて、明日も頑張るかしらーーっ! ……うーん、むにゃむにゃ……」 シ「…………うううっ、苦労してんだなぁ……。ダメだ……この玉子焼きは、俺には食べられねえ……。次を当たるか。…………頑張れよ」 銀「……ふっふっふっ、地位に富に名誉……。全て……全て、私のものぉ。この水銀燈が独占するのぉ……誰も、何者にもぉ、この私の行く手を阻むことなどのできないのぉ……ふふふっ……」 シ「ほう……ようやく食い出のある獲物に出会えたか。では、早速……」   象のような鼻を伸ばし、牙をむくシーンーヤー。 銀「ええっ、何!? 私の夢……私の夢が崩れていくぅ……そっ、そんなっ! 私の家……私の車ぁ! 札束の山がぁ……宝石のプールがっ! みんな……みんな失われていく…………お母様っ…………お父様ぁ!!」 シ「むむっ、何だ、この温かな光は…………この娘の家族か…………そうか、この娘の物欲は、父親の愛情に飢えるあまりの代償に過ぎないってことか…………ちっ、夢は返してやるよ。俺も弟を捜し出さねばな……」 真「……ふふふっ、くんくん……ああっ、くんくん……あなたって、何て素敵なの……待ってぇ、くんくん……ふふふっ、この私を捕まえてご覧なさい……きゃっ、冷たぁい……ふふふ、やったわねぇ、これはお返しなのだわっ、そーれっ……」 シ「……な、何だ、この極彩色にまみれた世界は…………ダメだ、頭痛がする……。こいつは、見なかったことにしたほうが無難か。次へ行こう、次」 シ「むう、何だここは……? 一見したところ、菜園のようだが……」   夢の主を求めて、辺りを探索するシーンーヤー。と、唐突に足元がすっぽ抜ける。 シ「なっ、何ぃ!? こ、これは落とし穴か……くっ!」   すんでのところで、縁にしがみつき難を逃れる。穴の底には、竹槍がずらりと並べられ、天を衝いていた。 翠「大丈夫ですかぁ? ここは、一見さんが来るようなところではねーです。ほらっ、この翠星石があり難くも手を貸してやるですからぁ、さっさとそこから這い出るですぅ」 シ「おおっ、済まねえな……」   差し伸べられた手に、反射的に前足を差し出すシーンーヤー。彼女の手のひらに違和感を覚えたときは、既に遅し。 シ「おわわわわわわっ!!」   びりびりと流れる電気。慌てて手を振り解くと、体勢を崩し、またも落とし穴にはまりそうになる。 シ「いっ、一体何だってんだ、ここはッ!?」   落とし穴から抜け出すと、翠星石の姿は忽然と消え失せていた。 翠「……くっくっくっくっ……くっくっくくくっ……ひぃーっひっひっひっひーー……」   木立を縫って聞こえてくる不気味な笑い声……。   シーンーヤーは、背すじに冷たいものが走るのを感じた。かつて覚えたことのない恐怖の感情に、戸惑う。 蒼「やあ、よく来たね。ささっ、そこに座って」   有無を言わせず、座布団に正座させられるシーンーヤー。蒼星石は、魔物の前に、熱いお茶を差し出した。 蒼「きみ……人の夢を食べて、生計を立てているんだってね?」 シ「そ、それがどうした?」 蒼「いけないよ、そんな怠惰なことじゃ……手に職もなく、ただ消費するだけだなんて。もしも食いっぱぐれたら、どうするつもりなの? まだ若いんだから、もっと生産的にならないと……くどくどくどくど……」 シ「だ、黙れっ……! 俺に構うなッ。俺は……俺のやりたいようにやる。誰の指図も受けないッ!」 蒼「ばかっ……!」   ぱああああああんっ。平手打ちされるシーンーヤー。驚いて食ってかかろうとすると、蒼星石は、ぽろぽろと涙をあふれさせていた。 蒼「先生だって……殴った先生だって、痛いんだ……。いけないよ、そんな自棄になっちゃ……お父さんとお母さんからもらった、たった一つの大切な命だろう? もっと自分を大切にしないと……この世の中には、自分の望むように生きたくったって、ままならない人が大勢いるんだ。先生は、きみには、他人の痛みを知り、自分がどれだけ幸せなのか、ちゃんと自覚できる魔物になって欲しいんだ……!」 シ「そ、蒼星石先生……!」   小一時間説教されたのちに、ようやく解放されたシーンーヤーは、蒼星石の夢の中に入り込んだ当初の目的をすっかり失念していた。 シ「……何だ、ここは……?」   シーンーヤーは、星の海のただ中を漂っていた。足元には、視界の全てを埋め尽くすほどの巨大な水色の球体。そう、我らが地球だ。   シーンーヤーは、夢の主を捜した。無重量の中、尻尾を振って、器用に姿勢を変える。と……。 シ「!!」   光が交錯した。魔物を呑み込んでしまうほどの大きな光の束が、左右に奔り抜けていく。   光の粒子が、シーンーヤーの尻尾をかすめた。激痛が走る。思わず悲鳴を上げる魔物。 シ「なななっ、何だってんだっ、一体何がどうなって……!」   目の前に、巨大な赤い人影が現れ、シーンーヤーは絶句した。頭部の一つ目が光る。それは、さながら全身に金属の鎧をまとった巨人だった。   赤い巨人が、手にした武器を構える。光がほとばしった。   シーンーヤーを狙ったのではない。背後の白い巨人を撃ったのだ。 ?「人が人に罰を与えるなど!」 薔「……私、薔薇水晶が、人類を粛清するというのです……」 ?「エゴだよ、それはっ! 薔薇水晶!」   二体の巨人が間合いを詰める。両者、光の剣を抜いた。文字通り、火花を散らした。   シーンーヤーは、脱兎のごとく逃げ出した。逃げ延びるので、精一杯だった。 シ「はぁっ、はぁっ……いい加減、空腹に耐えかねるぜ……次こそは何か食わねーと、身が持たんな……」 ?「へいよっ、特上握り十人前、お待ち!」 シ「おおっ、これはツイているな。早速いただくとするか。もぐもぐ……うーん、舌の上でとろける。こいつは絶品だ!」 ?「毎度ーっ、上天丼十人前、お届けにあがりましたーっ!」 シ「おおっ、また来たか……ちょうどいい、まだまだ腹の虫が治まらなかったんだ。もぐもぐ……うーん、カラッと揚がったぷりぷりの車エビに、出汁の加減が最高! 甘すぎもせず、塩辛すぎもせず、多すぎもせず、少なすぎもせず……いい仕事してるぜ!」 ?「ちわーっす、有栖軒ですっ。味噌ラーメン十人前、お届けにあがりやしたーっ!」 シ「ええっ、まだ来るの? まあ、まだ何とか入らないこともないが……。ずるずるずるずる……うん、確かにいい味噌使ってんな。コクも甘みも申し分ない。縮れ麺との絡みも絶妙だ……」 ?「お待たせしましたーっ、ピザアリスでーす。ご注文のグルメジャイアント十枚、お持ちしましたーっ!」 シ「おいおい、まだあるのかよ……しかし、ここでへこたれたんじゃ、魔の眷属の名折れってもんだ。もぐもぐ……ううっ、うえっぷっ」   三十分後。店屋物を何とか完食したシーンーヤーは、床に大の字になってあえいでいたところを、食器の割れる音で現実に引き戻される。醤油の匂いが、つんと鼻を突いた。   目を向けると、そちらには、淡い桃色の髪の女性が呆然と立ち尽くしていた。全身をわななかせている。その足元には、ガラス製の醤油注ぎとおぼしき破片が飛び散っていた。 雪「……私の……ごはんが……ごはんが……ごはんが……ごはんが……!!」   殺気を覚えた。シーンーヤーは、立ち上がろうと懸命にもがいたが、膨れ上がったおなかがそれを許さなかった。   私の名は、クーミーコー。夢を食らう魔の眷属。行方不明になった夫バークーと、その兄のシーンーヤーを捜している。   兄弟揃って、一体どこで油を売っているのか……。

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