ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki

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金「…ということから、二重結合は電子を二個ずつ、三重結合は電子を三個共有しているのかしら。」
  現在は化学の授業中だ。その化学の担当である金糸雀は黒板に授業のポイントを書き記していく
金「例えば二酸化炭素や窒素がこれ当たるからよく覚えておくかしら。」
  黒板の内容をノートに写していく生徒達
  教壇から見ると、生徒達はノートと黒板を繰り返して見るため、頭が上下している。
  とその中で机に突っ伏して居眠りをしている女子生徒が一人。
金「(Aさんは前も居眠りしてたかしら)」
  前回の授業でも彼女は寝ていた。いつもなら軽く注意するだけで済ましていたが、
  さすがに何度も居眠りとなると厳しくしないといけない。
  それに他の教科の授業でも居眠りしていたらしいから、これは教師としては見逃せない。
金「(あまり説教はしたくないけど、これもAさんの為かしら)」  
  授業が終わった後、話があるからとその女子生徒を教壇の前に呼び出した
金「Aさん、何でいつもカナの授業中に居眠りしてるかしら?もしかしてカナの授業つまらないかしら?」
  目の前の女子生徒はまだ眠たいのかボーっとしている。
  何だか事務員のスィドリームに似ているなと金糸雀は思った
A「いえ、金糸雀先生の授業はいつも楽しいんですけど…」
金「じゃあ、何で居眠りするのかしら?確か部活には入ってないから疲れてるってことはないと思うけど…」
A「確かに部活には入ってないんですけど、実はバイトが忙しくて…」
金「バイト?ちなみに、どんなバイトをしているのかしら?」
A「マッ○の店員とファミリー○ートのレジとローソ○と…」
金「ち、ちょっと待つかしら!?一体どれくらい働いてるのかしら!?」
  聞いてみると彼女は学校が終わるとすぐにバイトに行き、午後十時まで働くという。
金「それじゃあ、疲れるのも当たり前かしら。一つくらいバイトを減らした方がいいかしら」
A「…でも、それじゃあ……あ!もうこんな時間。次の授業があるので失礼します」
金「あ……」
  結局詳しくは聞けなかった。
  とりあえず次の授業にでも聞いてみようと思い、その時は然程気にしなかった。



金「ふぅ…。今日は遅くなったから、夕飯はお惣菜で済まそうかしら。」
  そして金糸雀はスーパーに来ている。
  目の前には、照り焼きチキン、手羽先、焼き鳥等がずらりと並んでいる。
金「お肉ばっかかしら…」
  落胆しながら、やっぱり卵パックでも買って卵焼きでも作ろうかと悩む。
  その姿は、お使いで何を買うか迷う子供そっくりだった。
  とりあえず卵パックとお菓子をいくつか買い物籠に入れ、レジに向かう
金「(今日はやっぱりオムライスでも作って元気をチャージかしら♪)」
  半熟のオムライスにたっぷりケチャップが乗った所を想像しながら、買い物篭をカウンターに置く。
  それを店員が一品一品手に取りながら袋に詰めていく。
?「卵パックとお菓子で合計1200円になります……って金糸雀先生!?」
金「はい…?ってAさんかしら!?ここで何してるかしら!?」
  スーパーのレジを売っていた店員は、昼間金糸雀の授業で居眠りしていた女子生徒だった。
A「何ってバイトですけど…」
金「バイトってもう十時を過ぎてるかしら。十時以降のバイトは禁止されてるかしら」
A「そうなんですけど。ええっと…。」
客「あのー…。レジまだですか?」
  金糸雀の後ろの客が、焦らすように言う。見れば長い列ができている。
金「す、すいません…。えっと…Aさんのバイトはいつ終わるかしら?」
A「もう少しで終わりますが…」
金「じゃあ、外で待ってるから終わったらすぐ来るかしら。」
A「……はい。」
  そうして会計を済まし、買い物袋を手に下げてスーパーを出た



  暫くして、スーパーから制服姿のAが姿を現す。何となく疲れが見える
A「お待たせしました…」
金「制服ってことは、やっぱり学校終わってからすぐにバイトかしら?」
  金糸雀の問いにこっくり頷くA
金「やっぱり…。こんな遅くまでバイトするなんて、授業中居眠りするのも無理ないかしら。」
A「…あの、その…」
  何かを気にするようにおどおどするA
金「どうかしたかしら?…あ、今回は学校には知らせないかしら。」
A「…ホッ。あの…ありがとうございます」
  もし問題を起こせば内申書に大きく響く。学生としてはなんとも避けたいところである。
金「でも今回だけかしら。その代わり、十時以降のバイトは止めるかしら。」
A「……はい。」
金「よろしいかしら。もう夜遅いから、送っていくかしら。」



  そして二人は金糸雀の車にいる。金糸雀の愛用するMAZDA RX-8は快適に夜道を走る
  助手席に買い物袋、後ろにはAが乗っている。
A「今日はありがとうございました。」
金「カナだったから良かったかしら。真紅先生だったら絶対にただでは済まなかったかしら」
  真紅が憤怒する所を想像して思わずブルッと震えるA
A「本当にありがとうございます。それに送ってもらえて感謝で一杯です」
  前半は前の台詞に比べ何倍の感謝が込められていた。
  それ程にAの想像の中の真紅は怖かったのだろうか…
金「気にすることないかしら。どうせカナの家と同じ方向だったし…。あ、ここかしら?」
  MAZDA RX-8の走りを止めた場所は、質素なアパートだった。
  自分の部屋は二階の端っこだとAは説明した
金「それにしても、電気が点いてないかしら?両親はもう寝てるのかしら?」
  見ると端っこの部屋だけ電気が点いていない
A「……いえ、親は今家にいません。」
金「そうなのかしら!?う~ん…。Aさんは夕飯はもう食べたかしら?」
A「いえ、バイトが忙しいので、いつもご飯は帰ってから食べますけど…」
金「だったら任せるかしら♪」
A「?」


  今、Aの台所にはエプロンを着た金糸雀の姿があった。しかし、サイズは合っていない。
金「~♪」
  台所からは美味しそうな匂いと共にジューッっという音が部屋に響き渡る。
A「それにしてもいいんですか?料理なんか作ってもらって。
  それに材料はさっき金糸雀先生がスーパーで買った物ですし…」
金「気にしない気にしないかしら♪家に帰って一人で食べるより一緒に食べた方が美味しいかしら。」
  茶碗に慣れた手付きで卵を割り、箸で掻き混ぜて鉄板の鍋に移す。再び卵が熱で焼かれる音がする。
  それに炒めておいた玉葱、人参、ピーマン、ケチャップ等を加えたご飯を投入し、
  焼けた卵でひっくり返しながら包んでいく
A「わぁ……」
  テキパキと料理を進めていく金糸雀に感心の声を上げるA。
  その間に小さなコックは既に出来上がった料理を皿に移している
金「完成かしらー。カナ特性黄金オムライスかしら~。」
A「お、美味しそう…」
  Aは完成したばかりの湯気を立てているオムライスを見た。
  その黄金の卵にたっぷりと艶のあるケチャップが乗っている。
  金糸雀のオムライスにはKANAの赤い文字が描かれている。
  自分のにはお決まりのハートマーク。Aは急にお腹が空いてきた。
  金糸雀は既によだれを垂らしそうな顔をしている。いや、垂らしているかもしれない。
金「じゃあ、いただきますかしら~。」
  そう言ってスプーンでオムライスを掬い口に運ぶ。
A「………!」
金「ど、どうかしたかしら?口に合わなかったかしら?」
  そう言って心配そうに顔を覗き込む。
A「美味しいです!こんなオムライス食べたことないです。」
金「それは良かったかしら。さぁ、どんどん食べるかしら」 
A「こんな美味しい料理を作れるなんて、先生はいいお嫁さんになれますね。」
金「いいいいい、いきなり何を言うかしら!?ま、全く、誉めても何もでないかしら。もぐもぐもぐ」
  かなりの動揺をしてから、オムライスを口につぎ込む。
A「先生は結婚しないんですか?」
金「もうっ、しつこいかしら。」
  顔をぷぅっと膨らませながら言う。
金「…でも結婚なんて考えたこともないかしら。」
A「え~。女性なら誰もが一度も考えることでしょう?」
金「う~ん…まぁ、多分もう少し後の話かしら」
  そう言ってオムライスをまた一口食べる。
  オムライスを幸せそうに食べる金糸雀を見て、結婚はもう少し後になるかなと何となく思うAだった。


A「ふぅ…。もうお腹一杯です。ご馳走様でした。」
金「ふぅ、久しぶりに腕を揮ったかしら。」
  料理の片づけを終えると、再び小さい居間に戻る。
金「それにしても、まだ両親は帰って来ないかしら。か弱い女の子を一人放っとくなんて酷いかしら。」
  その言葉に顔を曇らせるA。
A「……実は、この家には私一人しか住んでいません。」
金「…え!?それじゃあ、両親はどこにいるのかしら?」
  Aが上京してきたと言う話は聞いたことはない。とすると一体…
A「……父親は去年交通事故で亡くなりました。」
金「…ごめんなさいかしら。変な事を聞いてしまって…。」
A「いえ、いいんです。」  
金「でもお母さんはどうしたのかしら?まさか、一人になったAさんを見捨てたわけじゃないかしら?」  
A「違います。…母は入院しています。」  
金「え!?大丈夫なのかしら?病気かしら?」
A「いえ、過度のストレスと疲労で倒れたんです。
  突然父の支えを失った母と私は、バイトで生活費を稼ぎながら過ごしていました。
  特に母は私の学費もあるから、私の何倍も働いていたと思います。
  疲労が溜まるのも無理は無かったと思います」
  スカートを力強く握り締めるA。
金「…立派なお母さんかしら。だからAさんは自分の生活費と学費を稼ぐ為にバイトをしていたのかしら。」
A「それもあるんですけど、元々体が弱かった母は、抵抗力がかなり低くなっていたそうです。
  だから風邪や肺炎を起こして、治療費がどんどん重なってきました。
  でも、家にそんなお金はありません。治療費は普段のバイトでも追いつかないくらいの値段でした。
  私は日に日に弱っていく母を見るのが耐えられませんでした。だからバイトの時間を増やしたんです。
  そして何とか治療費を払うことができましたが、母をまだ病院で療養中です。」
金「…………」  
A「だから…。家に帰るといつも一人…。
  友達にこんな質素な部屋も見られたくないので、呼んだこともありません。
  だから、この家に私以外の人が入ったのは久しぶりです。
  それに、人に作ってもらった料理を食べるなんて母が作ってもらった時以来です。
  だから…だから…母の料理の味を思い出して……ひっく…ぐす…」
  ポロポロと大量の涙を流すA。そのAにガシッと僅かな衝撃が伝わった。
金「ごめんなさいかしら…。もっと早く知っていれば…カナがもっと早く知っていれば…。こんなに…
  こんなに寂しい思いをしている生徒を見つけられなかったなんて…教師失格かしら…。」
  金糸雀は泣いていた。Aにも負けないくらいに泣いていた。
  そして抱きしめた。強く強くAを抱きしめた。
  その小さな体に身を預け、Aは大きく、子供のように泣いた。




  チュンチュン……
  小さな居間にカーテンの隙間から太陽の光が差し込む。
金「どうやら、寝てしまったみたいかしら…」
  少し寝ぼけた様子で隣を見る。
  それは目をパンパンに腫らせて眠るAだった。しかし今はすやすやと眠っている。
  その顔を見て思わず笑顔が零れる。しかし、昨日のことを思い出すと胸が痛んだ。
  ふと自分の足元を見ると、毛布が掛けられていた。Aが掛けてくれたのだろう。
  その毛布をそっとAに掛けてあげる。ふと時計に見をやると五時を回っていた
  少し時間が有るので、卵焼きでも作っておこうと思い台所に向かった。
  そして、テーブルに『朝ご飯を作ったから食べるかしら~』と言うメモを残して、金糸雀は学校に向かった


金「おはようかしら~。」
  職員室に入り、挨拶をする。少し眠いのかボーっとしている。
翠「おはようですぅ。って金糸雀、昨日の服と変わってねーですね?……ハッ!まさか…!!」
金「ち、違うかしら。昨日はちょっと…色々あったかしら。」
  まさか生徒の家に泊まっていたとは言えず、言葉を濁す
翠「色々ですか~。ま、今回はそういうことにしとくです。~♪」
  当分はこのネタでからかわれそうだな…と覚悟した所で、自分のデスクに座る。
  そして今朝見た生徒のことを思い出す
金「(それにしても、あんなに辛い思いをしている子がいたなんて…。)」
  辛い現実を突きつけられて、沈み込む金糸雀
金「(カナにできることは何かないのかしら?……あ!)」
雛「ねぇ、金糸雀~?」
金「ひぃ!?」
  突然後ろから声を掛けられて、びっくりする。
雛「さっきから呼んでるのに、返事しないの~。」
金「あぁ、ちょっと考え事してたかしら。…で、何か用かしら?」
雛「えっと…来週の件のことなんだけど…」
金「来週?あぁ、教育委員会の調査のことかしら?」
雛「そうそう、それなの~。昨日から良い授業をしなきゃって考えてたんだけど、
  ちっとも良いアイデアが思いつかないの…。」
金「う~ん…。そんなに拘らないで、いつも通りにやればいいんじゃないかしら?
  少なくともカナはそうするかしら」
  その言葉に暫く考え込む雛苺。
雛「うー…。やっぱりそれが一番なの~。生徒達と仲良く授業ができればそれが一番なの~。
  えへへー、やっぱり金糸雀に相談して良かったの~。」
  満面の笑顔を見せる。いつ見ても眩しい笑顔だと金糸雀は思った。
  まぁ、その笑顔が周りを元気にさせてくれるのだが
金「どういたしましてかしら。…あ、雛苺、カナからも質問してもいいかしら?」
雛「うぃ?もちろんなの~。何でも聞いてなの~」



A「ふぅ…。今日も遅くなっちゃったな。」
  今日のバイトを終えたAは、スーパーの買い物袋を持ちながら、自宅前にくる。そして、鍵を差し込んで中に入る。
A「ただいまー…って誰もいないけど…。」
  ドアを開けると見えるのは真っ暗な暗闇だけ。虚しい気持ちになりながらも電気を点け、居間の小さなテーブルで買い物袋を広げた
A「さて、お腹も空いたし…」
  ピンポーン 突然インターホンの音が小さな居間に響き渡る 
A「誰だろうこんな時間に…」
  まさか不審者だろうか…。時間が時間なので警戒心を強める。
  そして恐る恐るドアの覗き穴から外を見ると…
A「……金糸雀先生?」



金「どうせ一人でご飯食べると思って、色々買ってきたかしら。」
  そう言ってテーブルにAと同じように袋の中身を出していく。シーチキン缶詰、卵、ネギ等種類は様々だ
A「それより何か用ですか?…まさか、昨日のことで何か問題でも…」
  顔を青ざめて尋ねるA
金「大有りかしら。」
A「え!?」
金「生徒が一人で寂しい思いをしているのに、ほっとくなんて教師として見捨てられないかしら。
  だからカナと一緒にご飯を食べるのかしら。…駄目かしら?」  
  予想していたこととは違っていたのでホッっとした。同時に嬉しさが込み上げてくる。
A「金糸雀先生……。いえ、とっても嬉しいです」
金「なら、ボーっとしてないで手伝うかしら。今日の卵は上質かしら。」


  台所には昨日と同じく、台所に立つ金糸雀。やはりエプロンのサイズはあっていない。
  そして隣では、卵、シーチキン、木綿豆腐、片栗粉を掻き混ぜているA。こちらはよく似合っていた。
  こうして見ると、姉妹のようにも見える。
  特に兎の絵がプリントしてあるエプロンを着る金糸雀はAの妹と言ってもばれないだろう。
金「さて、後はこの掻き混ぜた材料を揚げるだけかしら。」
  何やらメモのようなものを見ながら
  そーっと、先程の材料を油の中へと入れていく。
  それと同時にジュワーという音と同時に、材料から大量の泡が出てくる。
A「それにしても、今回は卵料理がメインじゃないんですね。」
金「今回は雛苺に教えてもらった栄養満点の料理のレシピを教えてもらったかしら。
  これで楽してズルして栄養ゲットかしら♪
  Aさんは疲れが溜まっているから栄養付けないと体もたないかしら」   
  そう言って揚げている途中の材料を菜ばしで裏返す。
A「先生…。でもどうして私なんかの為に?」
金「教師は生徒が頑張っている所や苦しんでいる所を見ると、応援したくなるものかしら。
  Aさんはカナが見てきた中で一番の頑張り屋さんなのかしら」
A「…(///)そんなことないですよ。」
金「学校では苦しんでいる生徒や頑張る生徒が沢山いるのかしら。
  授業だけでなく、それ以外の所でも生徒を助けたり、応戦するのも教師の仕事ってカナは思うのかしら。
  だから今のカナにできること、それはAさんの苦しみを少しでも無くすことかしら。」
  そう言ってAを見る。その時の金糸雀はとても優しい目をしていた。なんだか落ち着く瞳だった。
  何だかじっと見られていたのでAは照れた    
A「私ってそんなに苦しんでいるように。こんなに元気なのに~」
  そう言って、力瘤を作る動作をして照れ隠しをする。
A「……でもうれしいです。正直家に一人でいるのって心細いんです。
  だから今日は本当に金糸雀先生が来てくれてよかったです。」
金「まぁ、教師としては生徒に頼ってもらうのは嬉しいことかしら。だからいつでも頼ってかしら。」
  胸を張って、どーんと来るかしら!と意気込む。
A「ふふっ、それじゃあ、頼らせて頂きます。…って先生一個焦げてます!」
金「かしらーっ!」



A「うわぁ…、美味しそう…」
  目の前に並ぶのはなんとも美味しそうな料理だった。
  シーチキンナゲット、卵スープ、サラダ、そしてご飯である
金「えっと…、卵に含まれるたんぱく質は虚弱体質を防ぐかしら、そしてスープのワカメは貧血防止かしら。
  ご飯は玄米を使ったからカルシウムたっぷりかしら」
  雛苺に教えてもらった知識を疲労して天狗になる。正に虎の威を借る金糸雀である
A「へぇ~。昨日に比べて随分健康に良さそうな料理ですね。」
金「雛苺先生はAさんのこと心配してたかしら。全く家庭科でも居眠りしてたなんて相当疲れてたかしら。
  レシピのことを聞いた時に
  『だったらいい料理があるの~。絶対食べさせてなのー』って何度も言ってたかしら」
  結構生徒のこと見てるんだなと感心しつつ、明日ちゃんとお礼を言おうと思うAだった
金「さて、冷めるといけないから早く食べるかしら。」
  既に準備万端な体制にある金糸雀。口もその気持ちを表している。
A「わかりました。だからよだれは拭いてください。」
金「(フキフキ)それじゃあ、頂きますかしらー」
  料理はとても美味しかった。さすが家庭科の先生が薦めることはある。
  二人は料理を食べながら、互いに話し手と聞き手の交代を繰り返していた
金「――それでその時翠星石先生が…」
A「えー!何て大胆かつ恐ろしい悪戯を…」
  金糸雀の話題は主に教師達の普段の様子だった。
  少し秘密的な事も話していたが、金糸雀は然程気にしなかった。
  聞いているAも、これは聞いていいものなのか…と思うところもあったが、
 『黙っていれば大丈夫かしら』という金糸雀の言葉に仕方なく頷いた
A「あ、そういえば今日母が来週中に退院する事が決まったんです。」
金「本当かしら!良かったのかしら。」
  思わずAの手を取りブンブンと振る金糸雀
A「はい!やっと…やっと元気な母を見れると思うと、嬉しくて…」
金「Aさんが一生懸命頑張ったからかしら。お母さんもきっと感謝してるかしら。」
A「はい。もう一度母と一緒にご飯を食べるのが楽しみです。その時はオムライスにしようかな~。」
金「お!Aさんは卵の魅力がわかってきたかしら?」
A「はい!何だか好きになっちゃいました。だから今度卵料理教えて下さいよ?」
金「もちろんかしら!」
  そうして卵同盟(?)を結んだ二人は再び料理を口に運ぶのだった


  料理を全て食べ終わり、料理の後片付けも二人で一緒に片付けた
金「じゃあ、カナはそろそろ行くかしら。」
  その言葉を聞いてドアまで送るA。
A「今日はありがとうございました。帰りは気をつけて下さいよ。」
金「カナは常に安全運転かしら。
  それより、もうすぐお母さんに会うから、体には気をつけるかしら。後バイトも程々にかしら」
A「はい。気をつけます。」
  それじゃあ、バイバイかしら~と言って去る金糸雀を名残惜しそうに見送るAだった



 一週間後

翠「いよいよですね…」
蒼「うん。何か緊張するね…」
  いよいよ今日は教育委員会学校が有栖学園に訪れる日である
真「服もOK!化粧OK。これで準備は万端なのだわ。」
水「あーら。授業中紅茶を飲むの我慢するって本気なのかしらぁ?」
真「ふふふ…。この日の為にずっと特訓してきたのだわ。」
  不気味な笑みを浮かべる真紅。相当自信があるらしい。
  一方、真紅と水銀燈から少し離れた場所では雪華綺晶が何やらそわそわしている。
雪「むむむ…。落ち着かない…。薔薇しぃー?やっぱり駄目?」
薔「…駄目…スタンガンとか銃持ってるの見られたら…クビだけじゃ済まないよ…?」
  勿論銃などを所持しているのを見つかれば、即逮捕である。
薔「…逮捕されたら、ご飯もお腹一杯食べられないんだよ……?」
  その言葉が聞いたのかうなだれる雪華綺晶。
雪「むぅ…わかった。…orz」
雛「そういえば、金糸雀は今日の一校時に教育委員会の人達が来るの~。一番最初なの~」
金「うぅ……緊張するかしら。…でも頑張るかしら。」
  昨日も金糸雀はAの家に行っていた。その時、『明日は頑張ってくださいね』と応援も受けた。
  だから緊張なんかしている場合ではないのだ。  
  金糸雀が気合を入れた時、一本の電話が鳴る。
蒼「はい、もしもし有栖学園職員室ですけど。………え!?」
  大きな声に注目が集まる。
蒼「……はい。…はい。わかりました。すぐに行きます。」
  そう言って静かに受話器を置く
真「何かあったの?」
  真紅が心配そうに訊ねる
  その問いに蒼星石は重々しく口を開く
蒼「実は…ウチの生徒が近くのコンビニで車に引かれたらしいんだ」
教師一同「!!!」
  教師達は皆驚きの表情を隠し切れないでいる
真「それで、その生徒の容体は?」
  真紅が冷静に聞く
蒼「かなりの重体みたいだ。大量の血を流している。…今夜が峠かもしれないって」
  再び教師に驚きの表情が走る
翠「…そういえば、その生徒の名前は何ていうですか?」
  翠星石がおどおどしながら聞く
蒼「確かAって女子生徒だって聞いたけど…」
金「!!!」  
  目を大きく開き、思わず手に持っていたプリントを落とす。
蒼「何でも、信号が赤なのに横断歩道を渡ろうとしたんだって、
  傍にいた目撃者によると何だかボーっとしてたらしいんだ。」
  話を聞いた職員達は、皆困惑の表情を顔に出している。
  とにかくこれからのことを話し合おうと蒼星石が切り出そうとしたその時
  ガラガラ―  
  見ると金糸雀が職員室の扉を開けた所だった
真「金糸雀!どこに行くの!?」
金「…有栖病院まで行ってくるかしら!」
蒼「ち、ちょっと待って!君はこれから教育委員会の調査があるんだよ?」
金「大切な生徒が苦しんでいる時に、そんなことに構ってられないのかしら!」
  そう言って、職員室を飛び出していった。



  今、金糸雀はできる限りのスピードで車を走らせている。
金「(お母さんに会うって楽しみにしてたかしら。
  卵料理教えるって約束したかしら。だから…だから…死なないでかしら)」
  そして有栖病院に着くと、既に手術が始ろうとしていた
金「先生!Aさんは助かるのかしら!」
医者「分かりません…。しかし、全力を尽くします」
  そう言って手術室に入る。金糸雀はそれを黙って見送るしかなっかた


  何時間たったのだろうか。時計を見ると、もう午後三時を回っている。
  ということは六時間以上ここにいることになる。
  手術室の前には金糸雀しかいない。そこで顔を俯きながら待っている。
  その時である
?「あの…もしかして金糸雀先生ですか?」
金「あ…はい。そうかしら」
  見ると、病院の服をきた40代くらいの女性が立っていた
?「私…Aの母です。いつもAがお世話になっています。」
金「…!Aさんのお母さんかしら!?でも何で私の名前を知ってるかしら?」
  素朴な疑問を口にする
母「いつもAが私の所を訪れた時に金糸雀先生のことをよく話してくれたので。」
金「Aさんが…?」
母「はい。あの子があんな楽しそうにしゃべるのは久しぶりに見ました。でも…」
  そこまで言って言葉が途切れる。
母「でも…ひょっとしたら、あの笑顔は二度と見れないかもしれません…。」
金「そ、そんなことないかしら。医者は全力を尽くすって言ってたかしら。だから…絶対に助かるかしら!」
  そう言って手術室のランプを見つめる。
母「そうですね。そう信じます。あなたが支えてくれた娘ですもの。」
金「…カナが支えた?」
母「Aが私の部屋に来た時、いつも言うんですよ。金糸雀先生が来てから毎日家に帰るのが楽しみだって。
  支えてくれる人がいて安心だって」
金「そんな…カナは何も…」
母「自信持ってください。少なくとも私もAも貴方を最高の先生と思っています。」
金「でも…本当に偉いのはあの子かしら…。あんな良い生徒は中々いないかしら」
母「Aは本当にいい子です。私の為に治療代も払ってくれて。
  多分今回の事故もバイトの疲れでボーっとしていた所を車に引かれたと思います。……馬鹿な子です」
金「……本当に馬鹿かしら。」
  その瞬間、一緒にご飯を食べたこと、お互い笑いながら話し合ったこと、昨日自分を応援してくれたこと、彼女の笑顔。
  この数日間で彼女と過ごした出来事が一気に頭に浮かんできた
金「Aさん…死なないでかしら…ひっく。
  また一緒に卵焼き作るかしら……ぐす…お母さんも待ってるかしら。だから…死なないでかしら…」
母「金糸雀先生…」
  そっとハンカチを金糸雀に渡す。
金「すみませんかしら…ぐす。」
  とその時手術室のランプが消え、扉が開いた。Aの母と金糸雀が同時に駆け寄る
金「先生!Aさんは…Aさんは助かったのかしら!?」




  病院から戻った金糸雀はすぐに、校長室に呼ばれた。
ロ「全く、生徒を心配する気持ちはわかるけど、授業を放り出すなんて…。
  教育委員会の人達もびっくりしてたよ。待っていても肝心の教師が来ないんだから。」
金「……すみませんかしら。」
ロ「…とにかく、今回の処分は後ほど知らせるからね。それから教育委員会の人が君に話があるみたいだから、
  、会議室に行くようにね」
金「…はいかしら。」
  失礼しますと言って校長室を出る
金「(もしかしてクビかしら?・・・きっと、そうかしら。
  教育委員会の調査であんなことすれば当然かしら)」
  そう思いながら廊下を歩いて会議室に向かう
金「(でも悔いは無いかしら。だって…あんな素敵な生徒に出会えたんだから…)」
  そして会議室のドアに手を掛ける

金「し、失礼します」
  会議室に入ると、50代くらいの男性が椅子に腰掛けていた。
教育委員会(以下教)「君が金糸雀君かね?」
金「…はい。この度は申し訳ありませんでした。」
  頭を深々と下げる。
教「いや、今は謝らなくていい。今回は個人的な話で君を呼んだのだから。」
  そういえば他にも何名かいるはずだが、会議室には目の前の男しかいない
金「…えっと…個人的な話とは何でしょうか?」
教「いくつか聞きたいことがある。まず、君が授業を放り出したことで多くの人に迷惑がかかった。
  皆それぞれ忙しいにも関わらずだ。そのことを自覚しているかね?」
金「…はい。自覚してます。」
  シュンとする金糸雀。今回のことで真紅達に大きな迷惑を掛けただろう。申し訳ない気持ちで一杯だ
教「ふむ…。二つ目だが、どうして大事な教育委員会の調査対象の授業を放り出したのかね?
  もしかしたら君の将来が狂うかもしれないのにだ」
金「…例え自分が処分を受けようとも、大切な生徒が苦しんでいる時に、自分の将来のための授業なんて
  私には…私にはできません。例え、クビを言い渡されても私は、大切な生徒の傍で支えてあげたい。
  …そう思ったからです。」
  その答えに目の前の男性は、鋭い眼光で睨みつける。終わった…。そう金糸雀が思った時、男が口を開く
教「…合格だ。」
金「………へ?」
  思いがけない言葉に思わず素に戻ってしまう
教「合格だと言ったのだよ。ローゼン校長はいい部下を持ったようだ」
金「あのー…。状況が飲み込めないのですが…」
教「すまんね。ちょっと興味を持ったのでどんな先生か見たかったのだよ。
  自分の将来も犠牲にしてまで、瀕死の生徒に駆けつける教師なんてそういないだろうからな。」
  そう言って盛大に笑う男。その行動に金糸雀は口をあんぐり開けている。
金「(何かキャラ変わったかしら…?)……でも、悪いのは私です。処分は受けるので…」
教「いや、今回はいいだろう。」
金「え!?」
教「私は生徒一人一人を思える教師こそ、真の教師と思っている。それに生徒も応えて頑張ろうとするからだ。  君が来ないと聞いた生徒は、授業中に自習をしっかりしていた。
  しかも授業が終わった後に『金糸雀先生をクビにしないで下さい』
  と頼み込んで来た。…こんなに生徒に思われている教師をクビにするはずがない。ありえないことだ。」
金「みんなが……?」
  大きく目を開いて驚く
教「ということだ。さて、最後の質問だ。君はこれから教師として、どう生徒と接していきたいかね?」
  その問いに暫く考え込む。そして考えがまとまったのか静かに口を開く
金「私は…この学校の生徒を支えていきたい。そして、支えながら生徒の成長を見守っていきたい…です。」
教「…その気持ちを大事にしたまえ、それはきっとこの学校で活かせることだろう。」
金「……はい!」
  大きく返事をする。男はそれを見て頷く
教「では、外で皆を待たせているので、失礼する。」
金「…あのー…、お願いがあります。」
教「……なんだね?」


三日後


真「それにしても、あんな事態を起こしたのに、よく処分を免れたわね」
  デスクで何やら袋にまとめている金糸雀に言う
金「も、もちろんこの有栖学園一の策士金糸雀に不可能はないのかしら」
水「ふ~ん。…それにしても、あんな授業はしたくないわぁ。」
  そう言って、茶菓子を一口
真「ふっ…。愚かね。まさかあんな授業をするなんて」
金「?」
  一体水銀燈がどんな授業をしていたのか金糸雀は知らない。しかし、後から雛苺から聞いて密かに笑うのであった
  とその時金糸雀のデスクの電話が鳴る
金「もしもし…。……え!?本当かしら!すぐに行くかしら」
  そう言ってガチャリと電話を切る。
金「ちょっと用事ができたからこれで失礼するのかしら。」
真「用事?一体どこへ行くというの?」
  たくさんの荷物を抱えている金糸雀に問い掛ける真紅。
金「もちろん。支えてあげなきゃいけない大切な生徒の元に、かしら♪」
  パチッっとウィンクしてから、職員室からタッタッタと出て行った
水「何か嬉しそうだったわねぇ…。」
真「そうね。ま、私たちには関係ないことなのだわ。」
水「それもそうね。あ!真紅ぅ?私の分の茶菓子食べたわねぇ?」
真「もぐもぐもぐ…。ふぃららいのらわ」
  数秒後職員室が騒がしくなったのは言うまでも無い



  金糸雀は有栖病院に来ていた。病院独特の匂いがする。清潔な香りに戸惑いながら一つの病室で足を止める
  ガラガラ―
金「失礼しますかしら~。」
A「あ、金糸雀先生!」
  そこには三日前手術を終えたばかりのAだった。傍で退院したばかりのAの母が会釈する
金「目を覚ましたって聞いたからすぐに飛んできたかしら」
  Aは三日間意識不明だった。自分も聞いてびっくりしたとAは語った
A「……それより先生ごめんなさい。私のせいで色々迷惑掛けちゃって…。」
金「え?何の事かしら?」
  余計な心配をさせたくないので、この間の件は伏せておいたはずだが…  
A「雛苺先生が、さっき来て全部話してくれたんです。私のせいで偉い人に怒られたんでしょ?」
  どうやらばれているらしい
金「全く、雛苺は余計な事言いすぎかしら。少しはAさんのことを考えてほしいかしら」
  ぷぅっと頬を膨らませる。少し怒っているらしい
A「…でも嬉しかったです。」
金「……へ?」
  膨らんだ頬がプシュ~と空気が抜ける
A「先生が私の為に病院に来てくれた事、そして…私の為に泣いてくれた事」
金「え…何故それを…ハッ!」
  傍で母がすいません…といった表情で見ている。
  何だか恥ずかしくなって顔を赤らめる
A「先生顔真っ赤~。可愛いー」
金「お、大人をからかうなかしらーっ」
  子供っぽい金糸雀が大人と言ったのでAはますます笑い声を上げた
金「もうっ、そんなに笑うならせっかく作ってきた。これあげないかしら」
  さっきより頬を膨らませて袋から何かを出す。
A「こ、これは…!」
  それはオムライスだった。半熟でたっぷりケチャップが乗っている。
金「せっかく作ってきたのに。もうあげないかしら。」
A「先生ゴメン。このとーりだから!」
  両手を合わせて頼むしぐさをする
金「ふっふーん。そこまで言うなら特別にくれてやってもいいかしら。」
A「やったー。」
  そのままで冷たいので、看護婦に暖めてもらうようお願いした。  
金「さて三人分作ってきたから。お母さんも一緒にどうかしら?」
母「いいんですか?じゃあ、ご馳走になります。」
  食事の為、小さいテーブルを持ってきてAの左に母、右に金糸雀という感じで
  Aのベットを囲むように座る
金「あ、そういえばこれを渡しとくかしら。」
  そう言って一枚の書類らしきものを渡す
A「何ですか?これ」
金「それは収入が困難な家庭に授業料を一部免除してくれる人が申し込む書類かしら。
  本来有栖学園にない制度だけど、教育委員会に頼んで作ってもらったかしら。」
   昨日教育委員会から電話があり、この制度を導入して良いと許可が出たのだ。
A「先生……本当に、本当にありがとうございます」
母「私からもお礼を言わせて下さい。本当に色んな事まで面倒見てもらって、感謝の言葉も足りません」
金「あ、頭を上げてくださいかしらー。、教師として当然のことをしたまでかしら」  
  いきなり頭を下げられ、おろおろする。とその時に看護婦が入ってきた
看護婦「失礼します。先程のオムライスが暖まりましたよ」   
  看護婦が暖めたオムライスをそれぞれのテーブルに並べる
A「わぁ、金糸雀先生のオムライス…何時見ても美味しそう。」
母「本当ね。私はこんなの作れないわ。」
  二人が感嘆の声を上げる
金「今度細かい作り方を教えるかしら?」
母「はい!ぜひお願いします」
  二人目の卵同盟をゲットすると、売店で買ってきたジュースを配る。これで準備は整った
金「さて、それでは皆々様、準備はよろしいかしら?」
母「先生…。よだれは拭いた方が…」
  またもや、よだれを出現させている金糸雀
金「(フキフキ)……親子揃って痛いツッコミかしら…」
A「………」
  Aも以前の事を思い出して笑いを堪えている
金「とにかく…頂きますかしらぁーっ!」
A「はーい。もぐもぐもぐ…美味しいー」
母「本当。これはぜひともマスターしないとね」
金「当然かしら~。あぁ~ほっぺが落ちるかしら~」
  この時Aは、今の状況は以前自分が望んでいた事と似ているなと思った
  母と一緒にオムライスを食べたいと…言う望みに
  しかし、場所は病院、それに人物が一人多い。
  だが、今の状況こそが自分にとって最高に望んでいた事と思った
  なぜなら、自分の大好きな母と卒業まで自分を支えてくれる大好きな先生が一緒にいるのだから…

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