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駐車場の蒼星石 - (2006/03/03 (金) 22:53:20) のソース
放課後の職員室に、一本の電話が鳴り響く。 蒼「はい私立有栖学園です」 蒼星石は電話を取ると丁寧に応対した。 蒼「はい・・はい・・・えっ!!??」 蒼星石が短い悲鳴を上げた。思わず立ち上がる。周りにいた教師はギョッと蒼星石の方を見た。 蒼「ウチの生徒が…!?どこで?・・・はい・・・はい・・・分かりました!直ちに向かいます!はい・・・ありがとうございます!」 翠「蒼星石先生!?どうしたですか!?」 蒼「ごめん!!今日の会議は遅れるかもしれないって他の先生に伝えといて!!」 翠星石の呼び止める声を後ろに聞きながら、蒼星石は職員室を駆け出した。 地域の住民から電話が来た。ウチの生徒が、他校の生徒と殴り合いの喧嘩をしていると。 場所は近所のスーパーの裏の駐車場。全力で走れば3~4分で着くことができる。 程なくして問題の駐車場に着いた。そこに、一人の男子生徒がうずくまっていた。 制服は、間違いなく蒼星石の学校のものだった。買い物客は遠巻きにそれを見ていた。 蒼「だ、大丈夫かい!?」 駆け寄り、倒れていた男子生徒を抱き上げる。顔は殴られたのであろう、血だらけだった。 「う、うぅ・・・蒼星石先生・・・?」 蒼「酷い怪我じゃないか!どうしたんだい!?」 「か、絡まれちまった…。△△学校の奴らだ・・・。あいつら、自分から肩をぶつけておいて文句言ってきやがった…。 それで、ここに連れて来て殴りかかってきやがった。5対1だぜ…?卑怯だっつの。」 5人に袋叩きにされたのであろう。男子生徒は全身ボロボロだった。 「でも、俺…、あいつらには手を出さなかったぜ・・・」 蒼「え・・・?」 「俺も、もう3年生だしな…。問題起こすわけにもいかないし…、なにより先生たちに迷惑掛けられねぇしな。へへへ…」 男子生徒はそう言うと、折れた前歯をニカッと見せて笑い掛けた。蒼星石も思わず釣られて笑ってしまう。 蒼「はは…君は強いね」 「へっ…先生には勝てねえよ」 蒼「ううん…。君は強い」 蒼星石はハンカチを取り出し、男子生徒の顔を拭いた。 蒼「さぁ、帰ろう。保健室で怪我の治療をしてもらわないとね」 そう言うと、蒼星石は生徒に背中を向けてしゃがみこんだ。 「なんだよ・・・」 蒼「おぶって帰るよ」 「ば、馬鹿言うなっての!!そんな恥ずかしいことができるか!!歩いて帰れる!!」 男子生徒はそう言うと、一人で歩き始めた。しかし、打撲をしているのか全く踏み込むことができず、まともに歩くことができなかった。 「痛て…!!」 まるで生まれたての子馬のようだった。蒼星石は、困ったものだと笑いながら言った。 蒼「そのまま帰るほうがよっぽど恥ずかしいと思うけどなぁ」 「う、うるせーよ!!男が女におぶられて帰るなんて…!!」 蒼「なんだい?もしかしてお姫様抱っこの方が良いのかい?ボクは構わないよ」 「ぐっ…!!」 蒼星石は再び背中を向けしゃがむ。 蒼「ほら、早く」 「ちぃ…」 蒼星石に促され、男子生徒はようやく観念したのか、渋々と蒼星石の背中に乗っかった。 蒼星石はそれを軽々と持ち上げ、歩き始めた。 「お、俺は重いぞ…大丈夫かよ…?」 蒼「なぁに、問題ないよ」 男子生徒は恥ずかしさのため、顔をうずめた。蒼星石の髪の匂いが鼻をくすぐる。 とても優しい、温もりのある匂いだった。 ふと首筋を見ると、汗が滲んでいた。全速力で駆けてきたのだろう。 「なぁ先生・・・」 蒼「ん?なんだい?」 「もし先生があの駐車場に来た時、俺がまだ殴られていたら先生はどうするつもりだった?」 蒼「間違いなく止めに入っただろうね」 「でも、相手は5人だぜ?いくら蒼星石先生が強くても、勝てるとは限らないよ…」 蒼「ボクは暴力を暴力で押さえ込むつもりはないよ。あくまで、止めに入るだけさ」 「でもそしたら、先生も殴られるかも知れないぜ?」 蒼「大切な生徒のために怪我ができるなら、本望だよ…」 この時男子生徒は、蒼星石の本当の強さを知った。 「へっ、やっぱり先生には敵わねぇよ・・・」