池上燐介15


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15.対鬼神



「別に貴様を助けてやったわけじゃねぇ。奴が邪魔だったから潰しただけだ。
 ・・・それより俺は貴様に聞きたいことがある。
 城栄金剛・・・。やつの居場所を教えろ。この辺りに奴らの『基地』があるはずだ。」

『城栄金剛』。聞き覚えのある名前に、俺の体は一瞬ピクリと反応する。
城栄金剛……それは長束の屋敷で耳にした、異能者を人為的に造りだす計画の
責任者の名前だと言う事を思い出すには、そう時間は掛からなかった。
そして機関の人間であった衣田との会話からも感じていたことだが、
やはりこの『山田』という名の元・機関の男も、現在は俺と同じく機関に刃向かう
者の一人であるらしかった。
長束の屋敷で出会った連中といい、俺が思っていた以上に機関に抵抗する人間は
多いのかもしれない。これは機関の目を俺から逸らさせるいい材料にはなってくれそうだが、
この事態が果たして俺にとっての絶対的なプラスになってくれるどうかは、
何となく疑問であるように思えた。

──と、徐々に本筋路線から離れていきながらも回転させていく頭とは裏腹に、
口ではただ沈黙を守っていた俺の態度にしびれを切らしたのか、再び山田が口を開いた。

「・・・どうした?立ち去らねぇと殺すんじゃなかったのか?大人ぶっちゃいるがまだまだアマちゃんだな色男。
いいか、殺そうと思ったらすぐ殺せ。さもねぇと、貴様自身が喰われることになるぜ。」

山田の催促に答えるように、俺は投げかけられた質問への回答を出した。

「返事は、『知らない』だ」

俺が言ったことは必ずしも嘘ではない。
機関に所属する連中の所在を記したと思われるリストは手に入れてはいるが、
そのリストには肝心の名前が記されていなかった。
手当たり次第にリストに表記されている場所に行けば、
その内、城栄金剛とやらに会うこともできるだろう……が、
現時点で俺は城栄金剛の居場所を掴んでいるわけではないのは確かだからだ。

もっとも、厳密に言えばそれも含めて「知っている」の範疇であるのかもしれない。
こいつにリストを渡して「勝手に捜せ」とでも言えば大喜びしたかもしれないが、
俺はそこまでお人好しにはなれなかった。
(まぁ、忠告を無視した人間の質問にわざわざ律儀に答える俺は、
この男が言うように意外と甘い人間なのかもしれんがな……)

「フッ……」

俺は無意識の内に鼻で笑みを零していた。
これは自嘲の笑みなのか、それとも山田に対しての嘲笑なのか、
受け取り方は山田の自由であるが、
実際はその両方を含んでいた笑みであっただろう。

「ご忠告どうも。だが、お前に言われるまでも無く、既に俺の攻撃は始まっているんだよ。
……食われているのはお前だ」

俺の言葉を聞いて、山田は自身の片腕と両足を襲う違和感に気付いたのか、
不意に驚きの表情を見せた──。
いつの間にか腕の関節が血の通わない白色に変色しており、
氷を伴いながら上腕、前腕に向けて侵食を開始しているのだ。
更に両脚部にもそれぞれ足から足首にかけてに氷が付着しており、
地面にも広がった氷と一体となって足の自由を奪っていた。

「……口はもう閉じない方がいいぞ。『くっ付く』とはがせなくなるからな」

この言葉に山田も気付いたようだが、既に左右の頬にも氷が付着しており、
それらは徐々に口、鼻、顎──そしてその先にある首を目掛けて山田の
呼吸器系を侵し始めようとしていた。
俺は既に手袋が外されていた右手を山田に向ける。
手の平からはバスケットボール程の凍気の塊が作り出され、
それは初めて見る人間なら、一瞬でも目を奪われそうな綺麗な輝きを放っている。

「身動きが取れまい。しかし、このままお前が氷に侵食されるがままでいるとは思わない。
だから……こいつを見舞ってやる。少し多目にしてな」
    ダイヤモンド・インパルス
(──『 小 晶 波 』)

心の中で技を唱えた瞬間、今まで手の平の上で滞空していた凍気の塊が発射された。
しかし口に出した言葉の通り、それは一つではなかった。
数にしておよそ八つ程の小晶波が、連続して撃ち出された。

小晶波は放たれた──しかし、それらが山田に着弾する前に、
奴の体で起こった現象を俺は見逃さなかった。
確かに奴の体を侵食していた氷が、一瞬にして『溶けた』のだ。
だが、それでもこの一瞬で足までをも自由に至らせることはできなかったのか、
山田は二つほどの小晶波をその身に受けていた。
もっとも、奴に命中しなかった小晶波はどうしたかというと、
奴の出した『黒い球』に吸い寄せられるかのように吸収され、
更に『氷』から『水』へとその姿を変えていたわけだが。
(恐らく、俺の氷を溶かしたのと同じ原理だろうが……
こいつの能力は熱操作か……? いや、違うな……)

俺の頭を、先程の山田と衣田の戦闘シーンがよみがえる。
(あの黒球を受けたアスファルトは砕かれ、破片は弾け飛んでいた。
溶解したのとも違う、氷結したのとも違う……一体どんなカラクリだ?)

「俺の名は戦場ヶ原・・・。この街で最強の異能者、戦場ヶ原 天だァッ!!!」

『戦場ヶ原』という聞き覚えの無い名に、俺は一瞬頭の上に「?」を出現させる。
それは直に、俺が目の前の山田と呼んでいた男の真の名であることを理解したが、
既に「山田」という名でインプットされてしまった俺の頭は、
自身にリインプットする気がない事もあってか、「戦場ヶ原」というキーワードを
新たに加える事はせず、変わらずに「山田」と呼び続けるのだった。
第一名が違うとはいえ、それが戦闘を解決する理由にはならないのだから。

山田は俺の凍気を吸収し、風船のように膨れ上がった黒球を破裂させた。
既に中身が凍気から水に変わっていた為、破裂し押し出された事で勢いを持った
水粒らは、なんと「氷柱」へと姿を変えてこちらへと向かってくる。
恐らく俺の凍気に触れたことで氷柱と化したのだろうが、
本来であればこの手の技はこちらが仕掛けるもの。
まさか、敵から氷の技を仕掛けられるとは流石に思いもしていなかった……
と、驚く俺の心とは裏腹に、俺の体と能力は目の前の事態に冷静に対応していた。

「自己紹介どうも。今度はこちらが紹介する番だろうが、その前に一つ教えてやろう」

右手の指を軽く動かす──すると、刃をこちらへ向けていた小さな氷柱達は、
瞬時に山田へと向きを変え、逆に山田へ刃を向けて攻撃を開始した。
             フリーフリーズ
「俺は自身の能力を『自在氷』と呼ぶ。元々俺の能力は、氷操作にこそ真骨頂があるからだ。
俺の凍気で作られた氷はもとより、自然界に存在する天然の氷でさえ俺の意のまま……」

俺の右手から、再び八つの凍気の塊が出現する。
更になんと、山田の後方にも同じく八つの巨大な氷柱がその姿を現した。

「俺はこれ以上、力を使いたくはないんでな。先程のように『吸収』されては困る。
だが、今のお前に果たしてこれだけの氷を避ける力が、吸収するだけの力があるかな?」

──小さな氷柱達に続くように俺の手から小晶波が放たれ、
氷柱弾が後ろから山田に向かって接近を始めた。

「冥土の土産に教えてやろう。俺の名は池上 燐介」

(……抵抗無し、か。案外諦めの良い男だ)

こう思っている間にも、俺の放った小晶弾も氷柱弾も山田との距離を詰めている。
──しかし、襲い掛かる氷弾の嵐を掻い潜るように、
一つの黒い物体が俺に向かって来ることに、俺は気がついた。
その黒い物体は、山田が放ったものであるという事は一目で分かる。
(黒球……地面を破壊したあの技か……。
避けるか? いや、避けたところを狙ってまた何かを仕掛けてくるかもしれない。
ならばここは、奴の技を完璧に防ぐのみ────)

俺の右手が鈍く光りだす──。
すると、俺の体を取り囲むようにして透明な『壁』が出現した──。
これは俺が『氷壁(アイスウォール)』と呼んでいるもの。
字の通り壁は氷で作られ、俺を中心として前後左右、上に張られた分厚い氷のドーム。
物理的に空間を隔絶した半球形の防御壁と言い換えてもいい。
例えいかなるものであろうと、この氷の壁を破壊することは不可能。
実際にこの壁を打ち破った者は、これまでに一人もいないのだから。

黒球がどんどんと近づいていくる。
そして黒球が調度俺の頭上に位置した時、天井と言うべきドームの屋根が、
けたたましい音をあげた──。
恐らくあの黒球が屋根の部位と接触し、そこに衝撃を与えたのだろう。
しかしその音は、俺が期待していたものとは違っていた。
これは明らかに氷壁に『亀裂』が入っている音──それも連続的に。
亀裂の音が連続して聞こえるということは、すなわち『氷壁』が外部の圧力に
耐えられずに、崩壊を起こそうとしているということ。
(まさか──アスファルトをあの程度しか破壊できない技が、俺の『氷壁』を!?)

──バァァァァァン!!

驚いている間もなく、ドームの天井で破裂音が鳴り響いた。
俺は咄嗟に両手を頭の上にまで持ち上げ、更に腕を氷で覆い、予想される衝撃を待った。
──直後に両腕にのしかかる重み。
これは落ちてきた天井部分の氷ではなく、それ以外の別の何かであることは明白だった。
俺の下半身は予想を遥かに上回る衝撃に耐え切れず、
そのまま上半身もろとも地面に倒れこんだ。
(────ッ!)

倒れる瞬間にも、背中を氷で覆っていたのでダメージは軽減されたが、
腕と背中を覆っていた氷は粉々になっており、更に体は浅くアスファルトに減り込んでいた。
倒れたまま天を仰ぐと、ドームの屋根というべき部分の氷が破壊されていた。
本来であれば見えるはずのないドームの天井から直接差し込む星々の光が、
あの技の破壊力がどれ程のものかを物語っているようだった。

俺は両手を付き、ゆっくりと立ち上がった。
大きく口を開けた穴から山田の様子を窺うと、既に山田は戦闘不能に陥っているようだった。
敵の状態を確認したところで、俺は自分の額を生暖かい物が滴っていることに気づいた。
指先で拭うと、それは真っ赤色をした水……間違いなく俺の『血』であった。
良く見ると、自分の両腕の前腕部を覆っていた服の袖が引き裂かれ、
そこでもところどころで出血をしている。
(やれやれ……また傷を負ってしまったな……)

血を拭うこともせず、俺は半壊状態の『氷壁』を消した。
そして体の至る所を凍結され、氷柱弾によってところどころを刺されている
山田に向かって歩き始めた。

「褒めてやるよ。まさかあの状況から俺に攻撃を仕掛けてくるとはな……。
流石に面食らったよ」

……反応を見せない山田に対し、俺は続けた。
        アイス・ウォール
「そして、俺の『氷壁』……。こいつをあそこまで破壊したのはお前が始めてだ。
フッフ……俺を驚かせただけでもお前は凄い。こいつを自慢話にして、心置きなくあの世へ行くがいい」

まだ息はあるようだが、放っておいても恐らくこいつは死ぬだろう。
そう一目で思わせるほど、山田の体は重傷であった。
俺はくるりと向きを変え、目の前まで迫りながら、衣田と山田という立て続けに
現れた異能者のせいで、辿り着けなかった自宅へと向かった。

──クラッ。

一瞬、視界が歪み、俺は足を止めた。
(……たったこれだけの戦闘でか。やはり、連日の戦闘のせいかな……)

目を幾度かパチクリさせ、再び視界に捉えた自宅の門に向かって歩き出そうとした、
そんな時だった。

──ズキン。

……異能者の反応。
しかもそれが、急速にこちらに向かって近付いてくる反応を俺の右手が捉えた。
(近いな……しかも速い。こちらへ一直線へと向かってくるじゃないか……。
こいつはこの場所に異能者がいると分かっていないと、無理なスピードだ)

相手がこちらの存在に気付いた上で近付いてくる……
普段の俺であれば悠然と構えて迎え撃っていただろう。
しかし、山田との戦闘で予想外に力を消耗した今の俺には、
これからの戦闘は気乗りがしなかった。
ましてや、既に『反動』の兆候が表れ始めてしまっていたのだから……。
(チッ……それでもやるしかないだろうな。さて……ここに来るのは誰だ……?)