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どうやらこれは夢じゃないみたいだ――――

やや古風な洗面所。流れている冷たい水を顔にかけ、頭が完全に覚めた俺
はやっと夢と現実の境界を把握することができた。そして……

ここ……明らかに俺の家じゃない……

普通の人なら目を覚まし、体を起き上がらせた瞬間に気付くべきことであ
るのに、俺はその重大な、ある意味危機的な事実を今の今まで気付くこと
ができなかった。

洗面所の窓から外を見てみる。清清しすぎる朝の陽気。柔らかな風が鬱蒼
とした竹林を撫で、サラサラと耳に気持ちいい音を奏でる。

家の近くに竹林なんかあったか……?

とにかく、ここは自分が知らない家である事は確かなようだ。そしてこの
家には、俺の知らない女の人――輝夜さんがいる。

思い出せ……俺は一体どういう経緯でこんな所に来てしまったんだ? 必
死で覚めたばかりの乱雑な頭の中を探る。

そういえば……俺はなんか空を吹っ飛んでいたような……?

もう一度冷たい水で顔を洗う。だがそれ以上の事を思い出すことができな
かった。

仕方ない。こんな状態で色々考えたって無駄だ。確か輝夜さんはここの主
だと言っていた。彼女ならもしかしたら、俺がここにいる理由を知ってい
るのかもしれない。
そう思った俺は濡れた顔を拭き、洗面所をやや早足で出た。

「終わったかしら? ――あら? 頭が全然直ってないじゃない?」

あぁ……そういやそうだったなぁ……

このトサカ頭は――なんで自虐してんだ――元から自分の髪型だ。でも、
この事実を今言ったとしたら確実に笑われるだろう。
しかし、説明しないわけにもいかない。なんとか笑われないよう、不自然
に思われないように説明しなければ……!

「あ、え、えっと、これは元から俺の髪型で……」

なんの捻りも無く、そのまま事実を説明してしまったooorrrzzz
よくよく考えれば、どう説明したって事実は事実。事実が都合良く変わる
わけでもないのだから、どうあがいたって無駄だ。つまり、どうあがいた
って結果は同じ。

「あら、そうなの」

先程の俺の説明に、輝夜さんはニコニコしながら一言答えただけだった。
家族の女共もそうだが、女性の考えている事は全然分からない。
もしかしたら、心の中じゃ大爆笑してるかもしれない……

「じゃあ、朝ごはんにしましょうか」

案内された和室には輝夜さんとは別の女の子が二人、朝ごはんが配膳され
ているちゃぶ台を囲んで座っていた。

「あ、良かった~。目が覚めたんですね」
「ふぅん……こいつがお師匠さまの言ってた奴ね……」

まず先に口を開いたのは、髪が長くやや年上かと思われる女の子。やさし
そうな笑顔で俺に話しかけた。
次に口を開いたのは、クセのある黒髪(こっちはショート)で年下と思わ
れる女の子。何かを企んでそうな笑顔で俺に話しかけた。
そして二人に共通して付いているものは……ウサ耳。

あぁ……やっぱりこれは夢だ……

どうやら前半で「これは現実だ」とした俺の判断は間違っていたようだ。
なぜなら彼女達の頭にはウサ耳がついている。見た目の質感から言っても
、おそらく本物だろう。普通の人間には付いていないものが付いていると
いうのは、まさに非現実的な事象である。
仮にこのウサ耳が偽物だとしても、朝食を取り囲むこの団欒の時間にバニ
ーガールになろうなどと考える女の子はいない。……いや、いないわけで
はないかもしれない。だが、この二人の女の子はおそらくそんな人じゃな
いだろう。こちらも非現実的な事象だ。

以上より、これは現実ではなく、夢であると結論する。
国語が得意な俺にとっては、言語を活用して結論を出すことなど極めて容
易なことである。

結果的に、俺が出したこの結論は完全に間違っていたことになるが、今現
在、俺がそれに気付くことはできなかった。

「さぁ、朝ごはんにしましょう」
「あれ? 師匠がまだ来てないみたいですけど……」
「いいのよ。朝の団欒の大切さを知らない永琳なんて放っとけば」

どうやらこの屋敷にはもう一人、師匠と呼ばれている永琳さんという人も
いるらしい。一体、どんな人だろうか……?

「あ、そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。私は鈴仙・優曇華院
  • イナバと言います」

鈴仙・うどん……長くてよく分からなかったが、髪が長くやや年上かと思
われる女の子が優しい口調で自己紹介した。

「私は因幡てゐよ。ま、ゆっくりしていきなさい」

てゐと名乗った、クセのある黒髪で年下と思われる女の子は、年下のクセ
に偉そうな口調で自己紹介をした。
ちょっとムッとした。

「ちょっとてゐ! 初対面の人にそんな言い方は無いでしょ!」

そんな俺の内心を察知したかのように鈴仙・うどん……さんがてゐを叱っ
た。

「まぁまぁうどんげ、朝からそんなにピリピリしないの」

そんな鈴仙・うどんげさんを――あれ? この人こんな名前だったっけ?
 まぁいいや――輝夜さんがなだめた。

「もう……姫様はマイペースなんだから……。
 それで、あなたのお名前は?」

姫様、と言う言葉に多少疑問を抱いた俺だったが、これは夢だ。細かいこ
とを気にしたって仕方がない。
それより重要なのは、今再び名前を聞かれているということだ。
さっきと同じような失敗をしないよう、今度こそ男らしく名乗ってみせる
!!

「こ、言波、か、かかかか、かかかかかかかかか、翔っす!!」

完全に最初の自己紹介よりも悪化していた。やはり、男らしい俺などこの
世には存在しないらしい。
てゐがクスクスと俺を見ながら笑っていた。ちくしょう!!

「翔さんですね、よろしくお願いします」

それに対称するかのように、こちらは清清しい微笑みを捧げてくれた。
あなたは絶対いい人だ、れーめん・うどんさん。

「さぁ、おつゆが冷めない内にいただきましょう」

輝夜さんは落ち着き払った様子で朝食を食べ始めた。自分も目の前にある
おいしそうなごはんに手をつけた。
やっぱりおいしい。

「あ、そうだ!」

食事の最中、今まで黙っていたてゐが急に声を上げた。

「ねぇ翔、お願いがあるんだけど、ごはん食べ終わったらちょっと来ても
らっていいかな?」

てゐは年上に向かって呼び捨て&タメ口で話しかけた。

「てゐ! あんたまたなんか企んでるんでしょ!」
「えー、そんなことないってー( ̄ー ̄)」

てゐは怪しすぎる笑みを浮かべながら、冷麺・饂飩さんの言葉を受け流し
た。

「翔さん、てゐの言う事なんか聞いちゃダメですよ! 絶対ろくな目に遭
いませんから!」

冷や饂飩さんが俺に忠告する。もちろん、俺だってこんな年下の子の言う
事を安易に聞くつもりなんて少しも無かった。

「ねぇ~、翔く~ん、このか弱い女の子、てゐちゃんのお願いを聞いてく
れないかな~?」

突然、てゐが目をキラキラしながら接近し、俺に懇願してきた。

やめろ……やめてくれ……俺は女の子にそんな風にお願いされたら……

「ね~ぇ~、お願~い、お礼もするからさ~」
「わ……わかったよ……」

あぁ……やってしまった……
女の子の頼み事を断れない俺をここまで恨めしいと思ったことはない……

「やった~!!」

一見して純粋に喜んでいるようにも見えるてゐだが、その黒い腹は全くと
言っていいほど隠しきれていなかった。

「あ~あ、何があっても知りませんからね~」

さすがの笊饂飩さんも間抜けた俺の行動に呆れてしまったようだ。

あぁ……本当に俺は馬鹿だ……

てゐのお願いを受け入れてしまった俺。この後は全く嫌な予感しかしない

数学は大して良くない俺だ。この予感はどうか外れていてほしい……

しかし、数学とは全く関係のないこの予感は、残念ながら当たってしまう
ことになるのであった――――