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「ッッ・・・!?」
空が通り過ぎてゆく。
無重力系アトラクションに乗ったときのような不快感が体を突き抜けている。

つまり、私は落ちていた。

何故、私が落ちているのか・・・。
それは私にもわからない。
というか、理解が追いつかない。

私はつい先程まで、本当に先程も先程、ほんの数秒前まではいつも通りの帰り道を通って
少しだけ賑やか過ぎる我が家へ帰るために脚を動かしていたところだった筈なのだ。
それが、道端の猫に目を奪われた刹那。
その刹那で。
世界が、青に包まれた。

「な、にがどうなってんのよっ・・・!?」
この高さ・・・まだ、しばらくは地上につかないのではないだろうか。
というかこれは・・・死ぬんじゃないかな。

「冗談じゃない・・・!」
まだ、まだ私にはやり残したことがあるんだ・・・!
主に、翔へのお仕置きとか!!

下方を見ると、私の落ちる先には木々に囲まれた一戸建ての比較的小さな家があった。

体を空中で猫のように回転させ、足を落下地点にあたる屋根へと向ける。
ただ、いくら頭からの落下を防いだからといって、このまま落ちれば私は間違いなく死ぬだろう。

例えあの家がお菓子の家であったとしても、だ。

いや、弱気になってどうする。
そうだ、私ならきっとできる。
この間だって、歩道橋の上からトラックの背中に飛び降りて帰宅したじゃないか・・・!!

でも、せめてクッションぐらいあればいいなぁ!!

「ッッ!!!」
目を瞑って、数秒後。
私の足の下で木材の折れる「バキバキ」という痛々しい音が爆発的に鳴り響いた。
私の足の骨が折れた音なのかもしれなかったが。

そして、その音がなんの音だったのかを理解するまでには、私は無事、地に足をつけていた。正確には臀部を床につけていた、だけど。

「いたた・・・・・・。」
思わず自身の臀部を擦りながら、自分の落ちた場所を見回してみる。
涙の所為で視界が歪んでいるが、然程気にならない。
改めてよく見てみると、私の今いる部屋は綺麗に整理された洋風の部屋のようだ。

私はどうやら、無事落下地点にあった家の一室に着地したようだった。
天井を見上げると、あまり無事とは言えなくなってしまうのだが、まぁ、私の体は無事なので「無事着地した。」と言っても差し支えないだろう。

とりあえず、留守でなければこの家の人間がそろそろ駆けつけてくる頃だと思う。
事情を説明すれば、きっと天井を突き破った事だって許してくれるはずだ。

どう説明するのか、は別として。

大きく捲れてしまっていたスカートを直しつつ、腰を上げる。
こうやって何事もなかったかのように立ち上がることができるとは・・・
前々から思ってはいたが、もしかして私は人間ではないのではないだろうか。

普通、あんな高いところから落ちたら人は死ぬと思うのだけど。

「・・・・・・ん。」
そこで、ふと自分の足元に黒くて大きい何かがあることに気が付く。
恐らく、人形、なのだろうか。
『恐らく』、『なのだろうか』などと、曖昧な表現になってしまうのは、この場合仕方のないことだと思う。
私の足元に横たわっているそれは、原型を留めていないとは言わないまでも、
曖昧な表現をせざるを得ないほどボロボロのズッタズタになっていたからだ。
大げさに言ってしまえば、「ボロボロの布の塊」と言っても差し支えないかもしれない。

その人形(らしきもの)が着地地点にあり、そのうえボロボロになっているということは。
つまるところ、この人形が私のクッションになってくれた、という事なのだろう。
やはり流石の私もそこまで人間離れしているわけではないようだ。
クッションがあったのなら普通の人間でも十分耐え切れただろう、多分。

暫く自分を必死に言い聞かせていると、唐突にドアが開いた。

「あ、貴女!私の家になんの怨みがあるのよ!?お邪魔するならお邪魔するでもう少しスマート・・・に・・・。」
大声で怒鳴りながら部屋へ足を踏み入れる彼女。
金色の髪。青い服。

そして、彼女の近くを、まるでそれが当然とばかりに浮いている可愛らしい人形達。
絶句してしまった。
もともと口数は少ないほうだが、喋らなければと思っているのに喋れないという経験はそうあるものではない。

が、絶句しているのは彼女も同じだった。
部屋の中に一歩足を踏み入れた瞬間から、目を見開いて動きが止まっている。
それもそうだろう。
自分の家が見るも無惨に破壊されていたのだ。
驚くなというほうが無理な話だろう。

「・・・これは、ですね、不可抗力というかなんというか・・・。」
「・・・・・・・・・わ・・・。」
「え?」

急いで、事情を説明しようとする私の言葉を、彼女が低い声で遮った。
もしかすると・・・スマートがどうとか言っておいて、彼女は私に説明させる間もなく再び怒声を浴びせる気なのだろうか。
それは私からすればできる限り回避したいわけで。
私は再び説明をしようと口を開く。

「だからですね、私は――」

「私のまりしゃぁぁあぁぁぁあぁぁああ!!??」
再び私の言葉は遮られ・・・否、掻き消され。

彼女は私の足元にあった人形(だったであろうもの)に抱きついたのだった。

「いやあああ!!まりしゃぁああああ!!!私の、私のまりしゃぁぁぁああああ!!!!」
「え、い、いや・・・あの・・・?」
「なんで!?なんでこんなことしたの!?ひょっとして怨みがあるのは家じゃなくてこの私になのかしら!?」
「え、え・・・?」
「だったら、だったら直接私を懲らしめればいいでしょう!?こんなの・・・こんなの、あんまりよ・・・・・・・!!」
人形の前に膝をついて、ボロボロと大粒の涙を人形に落としながら血が滲むほど拳を握りこんでいる彼女。
マジ泣きだ・・・信じられないほどマジ泣きだ・・・。
「う、うぅう・・・・・・うぅううぅぅううううう・・・。」
頬をつたう涙を拭おうともせず、遂には唸りだす彼女。
説明しても許してもらえそうにないのは、天井ではなく人形だったようで。
なんというか、人形のように綺麗だった彼女の、悲痛な姿は見るに耐えなくて。


とりあえず・・・私は謝るのだった。