水銀燈は部屋の隅っこに体育座りでうずくまり、膝にその整ったあごを乗せてこちらを眺めていた。
背中を丸めているのでいつもより小さく見える。
しばらくにらめっこが続いた。
おもむろに、水銀燈が立ち上がって鞄の方に歩いていった。
「もう寝る時間だわ」
「鞄の中で寝るのかい?」
えぇ とそっけなく答える。
「私たちローゼンメイデンは鞄の中で寝るのが当たり前なのよ。だから気にしないで。」
「いやでも・・・」言葉が出てこない。
「でも?」水銀燈が続きを促す。
「こ、こっちのベットの方が広くて寝心地が良いと思います・・・よ。」
「鞄の中だって寝心地が良いわ。」
「でもこっちのベットの方が広いしぃ・・・」
彼女はつと眉をつり上げて見せた。
「誘っているの?」
「・・・え?」
「一緒に寝ないかって、誘っているの?」
「そ、そうとも言う。」
水銀燈はにやりと微笑んだ。
「ならそういえばいいのに。おばかさぁん。」
彼女はよいしょとベットによじ登り、布団の中にうずくまった。
「おやすみなさい、イクエ。」
月明かりが2人を照らしていた。

夜中、ふと目が覚めた。
隣からすすり泣きの声がした。
閉ざされた瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、水銀燈の頬をぬらしていた。
彼女の小さな口が動き、「お父様」と囁いた。
僕は居ても経ってもいられず、ぎゅっと水銀燈を抱きしめた。
それから優しく頭をなでた。
しかし、それでも彼女の頬が乾く事はなかった。
最終更新:2008年04月27日 20:53