一体誰にあやまればいいのかよく分からなくなってきた
――日本列島 地下
こつ、こつ、こつ。
どこまで続くのかも分からない長い長い螺旋階段を、カンテラの明かりだけを頼りにすすむ。
光の届く限り階段は続いている。その先に何があるのか見えやしない。
寒気を覚えるような静寂の中、響くのは自分と先導人の足音だけだ。
このまま進んでも気が滅入るだけだ、なんでもいい、何か話をしないか。
僕がそう要求すると、先導人は小さくうなずき、ぽつぽつと話し始めた。
「……ダンゲロスに投稿されたキャラクターの総数をご存じですか?」
ローブの中から出てきたのは、そんな言葉だった。
どんな表情をして喋っているのか、ローブの中の闇は深く、表情は伺えない。
知らない、と僕は答える。
でしょうね、と、先導人は抑揚のない声で同意する。
「本戦のたびに50キャラ以上、外伝も含めればもっと多い。そんなペースで増えていくキャラを把握することなど、不可能でしょうよ」
では、と、平坦な声が闇の中に吐き出される。
「覚えているキャラクターは、何人ほど居ますか?キャラクター名と……設定か、能力か。簡単で構いません」
思い出せる限りで暗唱していく。ついこの間やったばかりの本戦のキャラを、なかなか思い出すことが出来ない。
「……ええ、そんなものです。特に印象に残ったキャラ以外など、一週間もすれば忘れられてしまいます」
寂しいことだ、と僕は思った。
先導人がどう思ったかは、淡々と吐き出される言葉から読み取ることは出来ない。
ふいに、何かをこするような音が耳朶を打った。
「使い捨てられたキャラクター達は、ここで労働バーという名の輪廻をめぐり続けることになる……思い出される日を、夢見ながら」
ぴし、という音。うめき声、何かの擦れる音。
「わかっていますとも、あなたがここに来たのはTAG2の手札を探すためだ。設定も覚えていないような自キャラでも、本戦でたまたま活躍できなくとも、能力やステータスに有用性はあるかもしれない。そういうことでしょう?」
螺旋階段の終わりには、頑丈な扉がそびえていた。
「……どうか、彼らのことを思い出してあげて下さい。勝つための手札でもいい。愛などなくともいい。全員を、なんて言わない。だからどうか」
先導人が扉に手をかける。重い音をたてて、扉が開く。
「一人でも、ここから救い出してあげて下さい」
扉の隙間からさした明かりが、先導人のフードの中を照らした。
見覚えのある設定に、ふと、こいつも僕が作ったキャラなんじゃないだろうか、という考えが頭を過ぎった。
――でも、デッキには入らないな。
そんな考えはすぐに忘れて、僕はデッキを決めるため、扉の中へと進んでいった。
最終更新:2015年09月09日 23:48