【お題「ギャンブル」】

血走った眼をギョロギョロとさせながら震える声で男は言った。
「ボートレース場の負けを取り戻すには・・・ここで勝つしかないんだ・・・」
ここは場外発券場が設置されているとある酒場。ダンゲロスTAG2の試合は全世界で賭けの対象となっており、御多分に漏れず彼も他の客と同じくモニターの実況中継に釘づけだった。
アナウンサー)「お~っと!ここで埴井葦菜は1年であるとの裁定だ!これは勝負が決したか!?」
解説)「まぁ最終的に僕たちも気づいていたから」
酒場の喧騒が一気に膨れ上がる。
「おい!ふざけんな!!本命に一体いくら賭けたとおもあげjtじぇあj!!!」「っくそ!っくそ!!残りの全財産ぶっこんだって言うのに・・・あの二人組のインチキ予想屋め・・・」
突っ伏した彼の手のクシャクシャの賭券が、嗚咽と共にまだら模様に染まっていく。
大勢は決したのだ。したり顔の予想屋のせいではない。実際に大量の掛金を支払った彼の責任なのだ。
そして運命のサイコロが投げられた・・・。
アナウンサー)「こ、これは!な、なんとここでダイス目は96!能力は・・・発動しません!能力は発動しません!!」
解説)「まさかここで外すとは!千載一遇のチャンスを逃しましたね!!」「ギャハハハ!!」
興奮気味に話すモニターの声は酒場の大歓声や阿鼻叫喚でかき消されていた。
「んsぢうgふぁいけんはぃうぎl!!」彼はまだら模様の賭券を天にかざしながら、恍惚の表情で今という時を噛みしめていた。
そして隣の席の二人組の男たちの会話も心地よい音色となって彼に響いていた。
「あ~あ、ここで外すかね、全く。まぁまだ終わった訳ではないから投了だけはしてくれるなよ」
「そうなんですか?でもかなりピンチだと思いますよ、頑張っては欲しいですが」
「だからお前はいつまでたっても@@なんだよ。いいかい・・・」
彼とは真逆の立場の二人組の男たちをせせら笑いながら彼はジョッキのエールビールを高々と掲げながら話しかけた。
「やぁ!君たち!残念だったね!!そう落ち込むなよ!!エールビールを奢るからさ!!」
「ん?それはありがたいね。頂けるものは頂いておこうか。しかし、失礼だが君は支払いができるのかね?」
「ああ、こいつよ、こ・い・つ!」手に掲げたまだら模様のクシャクシャの紙を広げ、指でピンと弾く。
「あ~・・・まだ確定してないけどいいのかね?」
「もちろんだとも!」「お~い!エールを3杯!!」この世の春を謳歌する彼はビールを運んできたギャルにも何やらチップを約束していたようだった。
「ブルジョワへの復帰に乾杯~!」
琥珀色のジョッキが乾杯の音を鳴らした直後、解説の一人の爆笑が沸き起こった。
アナウンサー)「なんと!!転校生が登場しません!!」「転校生が登場しません!!これは予想外です!!」
アナウンサー)「・・・あ~~っと!!ここで投了だ!!投了が来ました!!」「こんな結末を誰が予想したでしょうか!?」
なんと、有利になったと思われていたチームの事前投降ミスにより戦況は激変。一転、投了負けとなったのだ。
酒瓶が飛び交うなか、表情筋をズタズタに切断されたような彼の眼はある1点だけを見つめていた。
「いやぁ!君!残念だったね!!そう落ち込むなよ!!今度は私がエールビールを奢るからさ!!」
「さすが##様!また大当たりですね!!」
「しかし、君。さっきの酒代はどうするのかね?」
瞳孔の開いた彼の眼は次の試合のオッズ表だけを見つめていた。
「なるほど、次の賭けで取り戻すのかね。結構、結構。」
「##様!掛金のない状態で参加なんて・・・っあ!まさか!!」
「DPを賭けるに決まっているだろう。だからお前はいつまでたっても・・・」
注):DPとは(D:大分長い事、P:ぽっくり行くまで労働バーで強制労働)の意味である。
「それで君、次の ソウルキャッチャーズを読めvsノ はどっちに賭けるのかね?」
「・・・ウルキャッ・・を読め・・・」
彼は途切れそうな声でボソボソと喉を鳴らした後に券売機の方へフラフラと歩き始めた。
「そうかい、そうかい。では私も貴方の流れに乗ってみるとしよう。ホレ、さっきの勝ち金を全部賭けて来なさい」
「え?本当ですか??まぁ本命ですけど・・・」
「はぁ・・・、私がこのセリフを言うのは何度目か君には分かるかね?だからお前はいつまでたっても・・・」