『アキビンなヒビ。』
第36話「ビンペリアルクロスってそもそもなんなの?」
希望崎学園の一角、自販機前のベンチにて。
栄養ドリンクのアキビン、アキビン・リポヴィタンサン。
シャンパン風ドリンクのアキビン、アキビン・シャンメリー。
人の姿を得た元・ボトルメールのアキビン、安芸便文。
アキビン二本と一人が、来るべき戦いに向けて相談をしていた。
いや、相談というには空転気味なのだが――なにしろアキビンだし。
「いいかッ!此度の戦い、我々はビンペリアルクロスという陣形で戦うッ!!」
「オオー!いいデスねいいデスね!クロス、つまり十字架!
クリスマスを思い出すよー!ヒャッホーイ!」
「……いや、待って三瓶……もとい三人しかいないのにクロス陣形組めるの?」
熱血漢のリポヴィタンサンが熱く語り、シャンメリーがその熱にあてられてハイになるのとは対照的に、
安芸は困った様な視線を二本に投げかける。尤も、その視線は瓶底メガネに遮られてしまうのだが。
「何を弱気なッ!そもそもこの陣形、要は貴様なのだぞ安芸便文ッ!!
我がドリンクを一気に飲み干すことで、ファイト満点になったところを
更にシャンメリーが盛り上げるッ! すると!貴様の能力は大幅に強化されるッ!
ビンでありながら人の身体を持ち、性別をも有するお前だからこそ出来るアキビン族のトリプルプレイッ!!
これこそがビンペリアルクロスッ!!!」
「ビンのビンによるビンのためのコンボ!絶対かっこいいよハッピーだよーゥ!
ああもう興奮が止まらないデスもうシャンパン出そうだよヒャッホーイ!」
リポヴィタンサンの熱気は最早最高潮であり、頭からは蒸気が漏れている。
シャンメリーも言葉通り内部からシャンパン(風ジュース)の飛沫が湧き出ている――
「……あの、さ。すごーく言いにくいんだけど」
そんな二人の熱気に水を差したくはないのだが、といわんばかりの困惑を隠さずに安芸が告げる。
「……そもそも僕、シャンメリー君の効かないんだけど。一年生だし」
「……ワッツ?」
そう。シャンメリーの能力は『高校三年生』にしか効果がないのだ――!
「え、ええい! 少し計算は狂ったがまだだ!まだ我が輩とのコンボは――」
「あと、僕がリーダーになっても、その。相手を、倒せない、よね?」
リポヴィタンサンの能力は『男性を一時的にリーダーと同等の存在にする』――
リーダーの務めとはつまり、相手をより多く倒すこと。
安芸の能力は『劣勢の時に味方を魔人能力からちょっとだけ守る』――正反対の防御能力である。
「……」
「……」
「……とりあえず、これからどうする?二本とも」
「……購買部にでも行って、湧き出たドリンク下取りしてもらおう……」
「そうデスね……もう大分こぼしちゃってマスけど私……」
リポヴィタンサンとシャンメリーの頭も心も、中身も冷え切ったところで今日の話し合いは終わった。