陰軍SS

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陰軍SS



幸田篤之進1



頭がぐらつく・・。目も開けられないようだ。
人の動く物音は聞こえていた。
“こ、ここは・・?”

“あ・・あぁ・・・、し、知っている。”
何度か経験した記憶がある。遠い昔。いや、最近も、どこかで・・、何回も・・。


「おい、起きろ!!」
ふと目が覚める。
見知らぬ自分の手、足・・・。今回は少し肥満気味のようだ。
そして、見知らぬ生娘が腹に穴を開けられ、倒れていた。
“可哀想に・・。”毎回思う。勿体無いと・・。
手を合わせ、神仏に祈りを捧げる。

ようやく声の主の方向へ振り返った。彼のことは十分知っている。
「やはり、お主か・・。」
古い付き合いになる。歩峰仙蔵だ。
「ふん、また復活させてやったんじゃ。感謝しろよ。」
「へへ・・。前回の俺の死にっぷりはどうだった? 気持ち良さそうだったか?」
「この変態が。」
「まぁ、そう言うなよ。また、ワシが必要になったんだろ?ワシの特殊な性癖がよ。」
「そう言うことじゃ。今回は・・菊門御前試合というものに参加してもらうことになる。」

・・・・・。
・・・・。

「なるほどなぁ、野獣牛兵衛又吉とかいうヤツを倒すと褒美がでるのか・・。」
「あぁ、光圀公は盛大に開催される御予定じゃ。いつもの通り、俺は金を、そして篤之進、お前は快感を・・。」
「仲間になる女子は何人転生させたんだ?」
「3人。」
「はぁ?たった3人?その中から選べってか?」
「綺麗どころは選りすぐってある。お前の好みは充分理解しているつもりじゃからな。」
「そっか~、楽しみだなぁ。今からゾクゾクしちゃう。好きな女子をかばって、ワシの体が切り刻まれていくんだもんなぁ。はぁ~、考えただけで射精しちまうぜ。」
「・・・・。」
「で、女子はどこにいる?」
「馬鹿を申せ、いつも通りお預けじゃ。数日、お前を飢えさせなきゃいけないからな。地下牢で妄想にふけっとれ。」
「あぁ、やっぱり?久々だから我慢できないぜ?どんな娘かな~。体の張り甲斐のある可愛い娘が一人いればいいなぁ。楽しみだな~。あぁ、この体は自慰を何回耐えられるかな~。もう・・早く開かれないかな。興奮して眠れないよぉ。」
「・・・・。ほ、程々にな・・。」


幸田篤之進2



「ね~、○○ちゃ~ん。」
「おぉ、これは幸田殿。如何致した?もう戦いは始まっておりますぞ!!」
「いや、ちょっくらお願いがね・・。ほんの少しの時間で良いんだ。手を握らせてくれないかな?」

脂ぎった顔とキラキラした眼をして、ブツブツしている手を差し出す。

「え・・・?あ、いや。え、遠慮します・・。」
「そんなこと言わずにさぁ。悪いようには絶対にしないから~。」
「嫌!!絶対に嫌です。」
「も~、照れちゃって、仕方ないな。ほら♪」

強引に幸田は○○の手を握った。

「イギャ~~~!!!ダメ!!は、早く離してぇ~~~!!!犯される~~~!!!」
○○は泣き叫ぶが、幸田は気にも留めない。
蹴られようが、殴られようがニコニコした笑みを絶やさずに、手に力を込める。

すると・・。

全身(下半身?)から湯気のようなものが沸き起こり、それは繋いだ手を伝わっていく。
そして、ついには○○の全身を覆ってしまったのだ。

「はい、お疲れ様。」
「ヒ、ヒグッ・・。も、もう許してください・・。ヒィィ・・。」
幸田は笑みを湛えたままだ。
「そ、それに何ですか・・これは?ネバネバして動きづらいし、ちょっと白濁しているんですけど・・。」
「ん~、○○ちゃんの年齢だとそれを知るのはちょっと早いかなぁ~。もうちょっと大人になってからね。うん、すぐに体が慣れるから大丈夫だよ!!安心して戦っておいで。」
「も、もう行っていいんですか?」
「あぁ、これで○○ちゃんは無敵だ!!」
「ヒ、嫌ッ!もう絶対にイヤ~!!!」

逃げるように○○は去っていく。

「さてと、こっちも準備しなきゃな。」
十字架・数珠・御札などの宗教道具を身に纏い、コカイン・マリファナなどを一気に服用した。
「えぇっ~と・・メッカは。む~、あっちで良いか!!うん、たぶん合ってる。」

幸田は祈る、世界中のありとあらゆる神に。
○○が無事にここから生還できることを。
そして、激しい快感が少しでも長く続くことを。


白金剣流斎1



「血の池地獄で鬼退治と洒落込んでいたのだがな。またぞろ窮屈な肉の檻に閉じ込められるとは思わなかった」

腐臭と精液と血の臭いが入り混じる闇の中にあって、目を覚ました男が涼やかに口を開く。

「ふっ、死者には亡者生活を満喫させるのが世の道理であろう?ふっ、まあとやかく言っても起こされたものは仕方がない。
 それに人に説教するほどには枯れてはいないしな…単刀直入に聞くが、さて何がお望みなのだね御老体?さっさと済ませて寝たいのだが」

昼寝していたのを無理矢理起こされた程度の感慨で物を言い放つ男の態度に、この奇怪な儀式の首謀者、屍術師 歩峰仙蔵は不快気に眉間にしわを寄せた。

「ええ~い。開口一番がそれか!揃いも揃って転生魔人衆と言うのは口が減らん奴らばかりよ。少しは再び生を与えてやった事に感謝して欲しいものじゃて」

「ふっ、それがな御老、死後と云うのも中々に愉快な所でな。くそ坊主の説法の世界はあれはあれで嘘ではなかったのだよ。何せ斬っても斬っても敵が沸くのが素晴らしい。
腹も減らんので心赴くままに刃が振るえるのだ。御老も一度死んでみることをお奨めするぞ」

そう簡単に感謝はできん。と、軽く肩を竦めて不敵に唇の端を上げる青年の言葉はどこまでも涼やかであった。
憎々しげに向けられる歩峰仙蔵の視線を夢想の境地で受け流す。

「ふふん、何時如何なる状況であっても自分を保ち、自分の言葉で話す。これが私のオゥエッスアーァルと言う奴でな。ふっ、覚えたての南蛮語ではあるがどうだ?」


「オゥエッスアーァル?訳がわからん!!日本語をしゃべれ!ふん まあ良い戦機知外め。貴様はまだそういう意味では、あの曲者揃いの魔人衆の中ではマトモな方かの」

皮肉気に男を見据える歩峰仙蔵。気を取り直したように男に告げる。

「喜べ。貴様に最凶の男を斬らせてやる。もっとも貴様が本当に”白金剣流斎”であればだがな。15人の転生魔人衆と共に野獣牛兵衛と16人の武芸者の首を刈ってまいれ」

その言葉に僅かに男”白金剣流斎”の表情が動く。それは愉悦かはたまた・・・

「承知。素っ首都合十六をこの胸糞悪い城の人柱として捧げよう。数分前はわが身の不幸を呪ったものだが上出来だ。
何が目的かは知らぬが、この血宴斬舞、私の血を滾らすには十分なものだ。ふっ、精々上手に使うが良い」


「やる気になったのなら何より。ふむ、しかし時にお主…そういう台詞は服を着てから言う方が…いや、着ないで言うのがオゥエッスアーァルなのか?」

歩峰仙蔵に告げられ、む?と白金剣流斎が顎に手を当てて初めて自分の首より下を見る。そう、復活したての転生魔人は生まれたままの姿で蘇るのだ。

「イヤン。これはむしろ南蛮語でTOLoveゥール」

ともあれ此処に野獣牛兵衛を斬る男…白金剣流斎は転生を果たしたのだった。


白金剣流斎2



白金の一族が操るという剣術は、門外不出の秘剣術である。
華麗。かの楊貴妃すら霞み。
豪胆。かの武蔵坊すら凌ぎ。
剣速。かの小次郎すら劣る。

二刀にして宮本武蔵を超え。
既に神の境地に至ったとすら噂される。



白金の瞳。全てを捕らえ。
あらゆるまやかしは無意味と成る。

奈落より蘇りしこの男、万事如才なく。


その二刀の煌きの後に、全ては消滅す。


白金剣流斎3



天恵経テ地穿チ刀ト成ル。是即チ、阿頼耶識也。

魔人の能力は阿頼耶識からくる者だと、ある者は言う。
森羅万象を司り、ヒトその物とさえ呼ばれる阿頼耶識は、その深淵に至った者の願望を、等しく適えると言われている。
世に蔓延る魔人達のその不可解な能力は、生まれながらに阿頼耶識の深淵に繋がった者達だかこそだと。

ある霊木より作られた木刀がある。
天と地の恵みを貪欲なまでに取り込み、遂に千年という永きに渡り世に存在した霊木より作られたその木刀は。
霊木に宿った、世界を形造る天地の力と、その力に惹かれ集まった多くの魂達の、記憶という名の根源。
その二つを受け、物質でありながら阿頼耶識と繋がる刀と成った。

その力は、森羅を超えて神羅に至り、万象を変す。謂わば、持つもの全ての願いを適える神器である。


神代より続く家系に、白金と呼ばれる者達が居る。
多くは知られてないが、始祖より秘匿され、脈々と受け継がれた剣技・・・そして、かの霊刀を受け継ぐ一族だ。
その名は時代の節目に多く見られ、そして霞のように消えていく。存在すら定かではないとすら言われる者達。


だが、確かに居たのである。確かに居るのである。白金という名の伝説は。




天兆五輪菊門御前試合。
地下闘技場で行われる四年に渡る菊門御前試合の歴史を総括するべく催された一大行事の場に、その男。白金剣流斎は居た。
外見は、年のころは二十歳前後。腰まで届く長髪を後ろに結い、鮮やかな浅黄色の羽織を着流す、涼やかな美男子だ。

凡そ、強者とは見えぬその容貌。だが、その剣は流麗にして神速。
両脇に挿した霊刀と、神刀『鏡面殺』から繰り出される多彩な剣技は、多くの偉大夫達を切り捨ててきた、確かな剣豪である。
だが、そんな白金剣流斎にもかつて敗北があった。

野獣牛兵衛又吉。将軍家指南役であった漢であり、歴代最強とも呼ばれる侍でもある。天衣無縫の野獣家の麒麟児
白金剣流斎はそう遠くない昔。この男と戦い、そして敗れた。


彼の脳裏には、未だその時の光景が、まるで閃光のように焼きついていた。
力及ばず膝を地に尽け、死を覚悟しながらも、紛う事なき強者と闘えたことに満足していた美剣士はだが
その後、野獣牛兵衛又吉より発せられた言の葉により、全てを失った。
その言の葉は今も、病に死し、そして蘇った今も、彼を蝕んでいた。


曰く、貴様の剣に、殺す価値などない。

その日より、日の本の地に、一人の修羅が生まれた。



今、彼の目の前には、かつて己を一言の元に切り捨てた最強の侍、野獣牛兵衛又吉が居た。
死してなお思い続けた、人生全てをかけた確かな漢が、すぐそこに、悠然と在った。

この思いは恋心にも似ているなと、白金は、刹那の内に思った。

「野獣牛兵衛又吉!」

万感の思いを込めて、心意と共に名を呼ぶ。
受けて野獣牛兵衛又吉は、真一文字に結んだその唇を、笑みに歪ませた。

「我が人生を全て懸けたこの太刀。受けきれるものなら、受けきってみせよ!」

今こそここに思いを遂げよう。
白金剣流斎と野獣牛兵衛又吉の視線が中空にて交差する。




永遠とも思える瞬間。この時、白金剣流斎はその人生において最高の至福に満たされていた。


撫羅娘淘花1



ここは、生ける亡者の住む結界内。かりそめの命を与えられた彼らの生活空間。
来る戦いに備え剣を磨くもの、陰謀を張り巡らすもの、勝利後の褒美に思いを馳せるもの、
しかし、そのどこにも属さず生前と全く変わらぬ日常を送るものがここに一人。

「はう~、かわいいよ私、かわいいよ私、お母さん~大好きだよ~」

鏡に映った自分にべたりと張り付き愛の言葉を投げかける異国の男、撫羅娘淘花。
しかしその顔と声は完全に女性のそれであり、ドレスの上からでは彼の性別と本性を
見抜く事は困難だろう。

「まーた、お主は気持ち悪い事しとるのう」
「幸田さん、人の自慰行為中に上がり込んで来ないでよ。私に欲情したの?」
「馬鹿いえ、いくら着飾ってもお主はワシの守備範囲外じゃ。新しい仲間が転生したんで
お主に伝えに来たんじゃよ」
「本当?すぐ行くよ。ありがとう幸田さん、私のオッパイ揉んでもいいよ!」
「いらんわ」

新たなる仲間の下には既に彼以外の全員が集まっており、淘花もまた仲間と顔合わせ、
――はせずにそのすぐ横で倒れている転生を受け入れる器となった女性、その腹部に
顔面から飛び込み、空いた穴に顔を埋める。

「はうう~、幸せだよ~。ここにいれば毎日の様に新鮮なモツがもらえるんだよ~」

仲間達のあきれ返った目や、転生後いきなり目の前で繰り広げられる事態に驚愕する
新参者を気にせず食事に没頭する淘花。婦人の内臓を喰らい続けそれ以外の食事を
一切断つ事により女性に近づいていく己の肉体に母の姿を重ねる日々。
淘花にとってはモツと母のドレスと鏡こそが世界の全てであった。

「天国のお母さん、淘花はいま幸せです。私を捕まえようとする怖い人はいないし、
この国の偉い人は大きな鏡と撒きたてのモツをタダでくれます。こんな日がずっと
続くといいな」


撫羅娘淘花2



「わかってないなあ」
私は臨戦態勢の味方の皆さんに声を掛ける。
「わかってなとはどういう事ですか淘花さん」
返事をしてきたのはメンバー内でも一、二を争うヘタレかつ常識人の仁朗太くん。
他のメンバーも返事こそしないが、戦意を削ぎかねない私の言葉に耳を傾け、疑問や不快感を顔に示している。
「んじゃ聞くけど仁朗っちは今回の戦いで本気出してる?」
「なっ・・・当たり前です!確かに自分は支援系ですが、それでも自分の出来る事を
全力で行いますよ」
「はう~、ダメダメだね仁朗っち。頑張るのはいいけど全力じゃいけないよー」
「何がですか」
「だってさ、ここで皆が全力を見せちゃ野獣牛兵衛に手の内全部読まれるじゃない」
「確かにそうですが、だからといって手を抜いちゃこの戦いにも勝てませんよ淘花さん。
なんせ相手は我々と実力も人数も全くの互角」
「別に完全に手を抜けとはいってないよー、でも相手がこちらの半分の戦力なら七割
ぐらいの力で完全勝利できる計算だよね?」
「そうですが、しかし実際には」
頭は悪くないんだけど私の言葉の意を察してくれない仁朗太くん。これ以上おしゃべりを
しているとさすがにマズイので私は彼の反論しようとする口を押さえつけて要点だけを
語ることにした。
「仁朗太くん、そして皆安心して。敵はもう半分はいないも同然だから」
「むーっ!むーっ!(淘花さん、胸が顔に当たってます!)」
「あなた達は男だけを相手にしていればいいよ。女は全部私が相手するから。大丈夫、
誰が相手だろうと私は女にだけは絶対に負けない」
「ぐむーっ!(血を浴びていない時の淘花さんって結構いい匂いだなあ)」
「じゃあ行ってくる、お互い無事な姿でこの試合を終わらせようね」
仁朗太くんの額にキッスしてやり、最高にカッコよく決めた私はいざ敵陣へと切り込む
のだが、一番大切な事を言い忘れていた。振り返り、慌ててその事を伝える。
「言っとくけど、後日に行われる野獣牛兵衛戦の時は私は出ないからね。
アイツとは以前死魔薔薇でやり合ったけど、私じゃ絶対に勝てないってもうわかったから。
た、頼んだからね!絶対頼んだからね!その分ここで一番活躍するからっ!」
「なんぞそれー」
全員盛大にずっこけた。ゴメン、でも怖いもん野獣牛兵衛。


仁朗太



江戸城地下闘技場。幾多の血を吸い取ってきたこの呪われし地で、今宵、人ならざる者どもの、新たな宴が始まろうとしていた。
否、既にはじまっている。『紫ちゃんと愉快な仲間たち』は既に戦闘態勢に入っている。殺気、怒気、狂気。それらが入り混じり異様な空気を醸し出していた。
『亞琉府唖琉弩八凶仙』もそれに呼応するかのように動き出した。目的は敵の殲滅のみ。眼は既に尋常のそれではない。
だが、一人、柳のように殺気を受け流す男がいた。長い黒髪、浅黄色の雅な羽織。剣鬼、白金剣流斎その人である。
「仁朗太。」
「はい。」
「準備はできておるか。」
「万事、滞りなく。」
「よし、持ってこい。」
仁朗太がこの戦いで帯びた任務。それは兵糧であった。この戦いが長期戦になると読んだ白金は兵糧の大切さを皆に説いた。そのせいでなんの戦闘能力のない仁朗太が戦場に駆り出されることになってしまったのである。
今、白金はお食事時間なので(腹が減って仕方がないので)周囲の殺気とかは一切意に介していなかった。それよりも腹が減っていた。
「こちらにございます。」
「うむ、握り飯か。それもただの握り飯ではない。一見なんの工夫もなく握ってあるようにみえるがその実固すぎず、もろ過ぎず、非常に巧みに握られている。さらには使用されている米だ。よっぽど良質な米を使ったのであろう。普通の米では出せぬような光沢がでている。これは米が良質なだけではないな、炊き方も一流なのであろうな。」
などな長ったらしい解説を一息で言った末に白金はおにぎりを口に入れた。
「ムウ…!」
「どうかなさいましたか?」
「米の握り具合は完璧、塩加減の配合も申し分ない。酢を使っているが、酢のキツイ香りを巧みに抑えてある。ふむ・・全体的にわざと香りを抑えてある・・・・・・・いや待て・・・・・・かすかに・・・かすかに何か香りをつけてあるぞ!このわずかな香りが、この何もなんの味も匂いもなきものに、鮮やかでふくよかな風味を与えているのだ・・・・・。この香りはなんだ?』
しばしの間考え込み、そして
「おのれ!!この剣流斎の味覚と嗅覚を試そうというのかっ!!」
「そ、そんなつもりは。」
「全く生意気な。一体この香りはなんなのだ。問題はこの香りだ、木の実だ…木の実をもいで酒に漬けておいて、木の実の色と香りのついたその酒をツユのなかに入れた!!そうだな!」
「はい…その通りです。」
「問題は木の実だ、木苺でもない、すぐりでもない、さくらんぼでもない・・・・・・・・・・・・・コケモモでもない・・・・・・」
くわッ。と白金の目が大きく見開かれた。
「桑の実だ!!そうだろう!!」
「はい。そのとおりです。」
見事に正解を得て実に満足そうな顔をする白金剣流斎。彼の職業は剣士である。
「ふっふ…この剣流斎を試しおって、生意気な小僧だ。」
勝ち誇った表情をして呟く白金剣流斎。
「ふふん。いいだろう。この味なら合格だ。この握り飯を皆の者にも振舞ってやるがよい。」
「ははっ」
白金剣流斎におほめの言葉を頂き感動する仁朗太。彼はこのあと新しく炊けた米を味見した時にあまりの出来の良さに感動して死んだ。が、イメルの能力のおかげで助かった。


仁朗太2



「年貢が払えない」

気が付いたら同じ田んぼばかり耕作
そしていつも同じ田んぼで死ぬ
諦めずに痩せた田んぼに挑戦するけど、すぐに稲が枯れるよ


侍階級があれば楽に人生の岸まで着くけど
何回やっても、何回やっても、年貢が払えないよ
あの侍、何回やっても避けれない
後ろに回って大人しくしてもいずれは飢えに殺される
百姓一揆も試してみたけど侍相手じゃ意味がない!
だから、次は絶対、勝つために僕はおにぎりだけは最後までとっておく


気が付いたら人生ももう少ししかない
そして、いつもそこでおにぎり食べる
諦めずに百姓一揆までたどり着くけど、すぐに仲間なくなる

侍階級があれば、楽に人生が過ごせるけど
何回やっても、何回やっても、年貢が払えないよ
落ちる農民は何回やっても起きれない
後ろに下がって鍬をとってもいずれは刀に殺される
百姓一揆も試してみたけど侍の刀はくぐれない
だから次は絶対、勝つために、僕はおにぎりだけは最後までとっておく


(払えないよ、、、)


ぽぽ=あJ



あー。俺、何やってんだろ。
なんか、向こうのほう、色々とひでー感じになってんだけど。

なんか、よくわかんねー奴は、カウンセリング終わったと思ったら、すぐどっか行っちまうし。
本当、俺、何しに来たんだろうな。まぁ・・・・・・関係ないか。


煙草を蒸かしながら、ぽぽ=あJは思う。
ふーっと吐き出した煙が、空中で輪になって、血の匂いが立ち込める闘技場内に、消えていった。


俺さー。なんか、頑張ったよな?

だってさ、俺、今までずっと、基地外共の話しを聞いてたんだぜ。
正直、よく我慢してたと思うよ。
俺が基地外になるかと思ったことも何度かあったけど、よく踏みとどまったと思うよ。


だから、死んだ後くらいは、いい目見るのも、別に良いはずだよな?
だってのに、なんだって、こんな所に居るんだよ。まじありえねえよ。


つーか、俺はもうちょっと報われるべきだよな? 俺頑張ったよな?
なんかもう、別に、頑張る必要ないよな?

(自分にカウンセリング中)


塀化衛門



塀化衛門と呼ばれていた男がかつて江戸に居た。
呼ばれていた、と言うのには、この男、名が判らなかったのである。
ある蒸し暑い夏の夜、見回りを行っていた町奉行の若人が出会った男。それがこの男である。
半ば千切れ既に衣服とすら呼ぶのも怪しい、正に布切れといった形のものを身にまとい。
髪は好き放題に伸び、体中から、酷い悪臭を漂わせていた男。

当の若人が、死人かと見間違えたのも無理はないだろう。

そのあからさまに問題のある幽鬼の外見から、捕縛されそのまま牢へと入れられた男である。
塀化衛門という名は、その時、何をと問うても答えない――名前すらも――この男に対して、誰と知らず、呼び始めた名だった。
とにもかくにも、何に対しても気力を見せないといった男で、どのような事に対しても反応といった反応を返さないことから
この男が居た牢の番をする者達の間では、アヤカシに化かされて、可哀想に、心を喪ってしまったのではないかと、噂されていた。
そして、時がたつままに、何もせず、食事すら受け付けず、7日の内に、餓死してしまったと言う。

とりあえずは、その男、名前も定かではない奇怪な人間の人生は、そこで終わった。
だが、話はここでは終わらなかった。


今この、四年の節目となる会に、その男は居た。
相も変わらず亡霊のような身なりのその男からは、意思の形といったような物は、全くと言っていいほど感じることは出来ない。


だが、この日この時において。この男を知るものは驚愕することとなるだろう。

――男の手が動いた。
しわがれ、骨ばかりと成った木乃伊のような手が、確かに動き、虚空を求める。
顔全体を隠すほどの髪の、その隙間から、男の瞳がちらついた。その瞳は、ギラギラと、鮮烈に煌いている。
ゆったりと、男が立ち上がる。辺りの空気が、瞬間、変わったような、そんな錯覚。
両手の、その伸びきった爪をだらりと両脇に下げ、男は前傾姿勢を取る。


刮目せよ。
力と云う物を。
かつて、ただの一度も振るわれることのなかったその力。この男の、努力と言う名の力の凄まじさを。


服部伸蔵



服部伸蔵には未練がある。それはもう、凄まじい未練が。
その未練と言うのは、簡単に言えば、所謂、女衆に好かれたいといったことである。
何を隠そう、彼は忍者であり、忍者と言えば、くのいちである。異論は認めない。

とにかく、生まれた頃から周りにくのいちが、それはもう凄い格好のくのいちが沢山居て
見る人が見れば羨ましい、なんというか、煩悩たっぷりの少年時代を歩んだ彼であるからこそ、彼は無類の女好きであった。
だが、そんな彼には悩みと言うか、問題があった。

地味だったのである。


暗殺、諜報――職業柄、なんとも歴史の表舞台に立ちにくい忍者と言う人種であるが、その中でも彼は、特に目立たない人間であった。
なぜかと言うと、彼は、忍者ですらなかったのである。具体的に言うと、唯の鍛冶屋だったのだ。


地味な忍者の中にも、スター的な存在は居る。
それは、服部半蔵だとか、そういった、歴史に名を残すような者達。いや、忍びの者としてそれでいいのか甚だ疑問はあるが
闇に紛れ、小太刀を自在に操り、手裏剣やクナイで敵を討つ。そんな華々しい活躍をし、歴史を変えた者達。
彼の仕事は、そういった人間が使う、手裏剣やら、クナイやらを造ったり、改良を加えたりする、所謂、縁の下の力持ちといった物であった。
当然、里の女子達はそういった『目立つ』忍者ばかりに目を向けるし、外の殿様方もそういった者達ばかり使う。
同じ服部だと言うのに、なぜ私だけこんなにも目立たないのだろうか。なぜあいつらばかりぶつぶつぶつ・・・

生前の服部伸蔵は、常日頃そんな事ばかりを考えていた。



そして、今もそんな事ばかりを考えていたりするのである。

「ちくしょー。結局女子との出会いらしい出会いもないまま死んでしまったではないか。かくなるうえは、もう誰であろうとも関係などない!
生きている奴らどもは全員私が作った刀の錆にしてくれる! モテる男も、俺に見向きもしない女共もだ!  ・・・・・・というわけで、センセ、おねがいしやす」

そう言って、服部は、傍らの侍から刀を受け取り、金槌を手に取った。

一つたたいては女が欲しい

二つたたいては池面死ねよ

三つたたいては私格好良い

四つたたいては・・・・・・以下略


未来からの来訪者、矢塚一夜1



四度死んだが、まぁなんだ。死ぬのも悪くないな。
矢塚一夜。外見年齢は二十歳を少し超えた所だが、実質御年七十一歳のこの男は、何処か達観した精神で呟いた。

だが、殺されるのは好きではない。


凄剣エクスカリバールを手に持ち、眼前を見据え、矢塚一夜は、その能力を使用せんと、意識を集中した。


死ぬのはいい。もう慣れた。
だが、殺されるのは癪だ。私の死体が、敵の手に渡り、好き勝手に蹂躙される。
考えただけで怖気が走る。それならば――



――私から、死んでやる。


未来からの来訪者、矢塚一夜2



あの兆五輪菊門御前試合を新たな肉体がかけめぐる。


ひと昔の素敵で不思議な物語

他人の死には前向きで
自分の死には後ろ向き


そんな少年(?)がタイムリープを覚えたら。

71歳 戻ることのできない現代。


矢塚「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」




臭う。
生き物が腐っていく臭いだ。
腐った臭いは死んでいく者の臭いだ。
死んでいく者の臭いは我々生者には受け入れ難い臭いだ。

一人。
年端もいかぬ少女が一人。
腐臭をまとった少女が一人。
綺麗なべべを着た少女が一人。

不思議。
なぜ戦場にこんなにも似つかわしくない少女がいるのか。
少女は私を見つめてる。
澄んだ目をして見つめてる。

違う。

自分自身が少女から目を離せないだけ。
ああ・・・
少女が何かを呟いた。

骨々録?
かんかくがとおざかっていく

かゆ
うま


山崎“豪雷”正宗



かつては豪雷と呼ばれ、称えられた大剣豪も、今では、化生の類となっていた。
斬り、喰らった者達の数は既に本人も覚えていない。


外道に堕ちる前までは、ごく普通の人間だったと思う。
剣の扱いに、多少人より長けたくらいの、自分は、そのような程度の男だった。
歯車が狂ったのは、何時からだったか。

とうの昔に狂っているのは、確実なのであったが、人間であったところの山崎は、からくりの様に、止まることも無く
死して蘇った今も、何かを求めて、彷徨っている。
亡者となっている今の山崎を突き動かしているのは、生前の未練であるわけだが。
どうやら、地獄から現世に戻ってくる間に、その未練が、なんであったのかを、忘れてしまっているようだった。

(足りない、足りない。)

頭の中に響く声。それは、自身の声であったのだが、何処か、別人のようにも聞こえた。
何かが足りない。何が足りないのか。判らないのがもどかしい。

(足りない。未だお前は足りない。足りないなら埋めよ。喰らえ。)

声は、だんだんと大きくなっていって、山崎の、今はもう欠片程しか残っていない意識を、飲み込んでいく。



だが
瞬間。山崎の心に、光が灯った(あJの能力)



何もかもを思い出した山崎は、生前――未だ、壮健であった頃を思い起こさせるような、俊敏な動きを見せた。
彼は何かを嗅ぎ取ったのである。それは、糞の匂い。求めて止まなかった、芳しい糞の香り――。




嗚呼。
思えば、生きている頃、様々な者をこの口に喰らってきたが――
――やはり。腹を満たすには





「排泄物に、限るなぁ」


ついでに、未来から来たオオツキも山崎は食べてしまったが。
それはまた別の話。
目安箱バナー