A-44:42-00537-01:吾妻 勲:星鋼京 さん

「おいしい時間」



  • おいしい時間

―いつかどこかのあるところ。

―小さなお店がありました。

―静かできれいな丘の上。

―甘くてステキないい香り。

―おいしい時間の始まり始まり―。


―*―

空が白んで少し後、今日はとっても良い天気。
小さなお店も起きだして、いつもの準備を始めます。
白い煙が輪になって、小さな屋根から一つ、二つ。

お店の周りのきれいなお花、お世話をするのはお姫様?
いえいえステキなその人は、小さなお店のおかみさん。
きれいでとってもいい香り、おいしいお菓子を作るのは、
お話の中の王子様?
いえいえステキなその人は、小さなお店のだんなさん。

小さなお店のご主人は、二人のステキな若夫婦。
お店の扉が開いたら、今日もお店の始まりです。

―*―

まっさら青い空の下、さらさら風吹く丘の道。
大きな荷台に缶載せて、コトコト坂を上ります。
大きなからだのおじさんは、牛乳屋さんのおじさんです。
お店の前でおじさんは、今日も二人にご挨拶。

「やあやあ、おはようお二人さん!今日もステキな日和だねぇ!」

大きなからだのおじさんは、お日様みたいなにこにこ笑顔。
大きな缶を軽々抱え、お店の中へ運びます。

「やあやあ、おはよう牛乳屋さん!いつもおいしい牛乳を、届けてくれてあ

りがとう!」
「おはようございます牛乳屋さん、いつものお礼にお一つどうぞ」

お店の二人もにこにこ笑顔。並んで袋を差し出します。
かわいい袋の中からは、甘くて香ばしい、いい匂い。
おじさんついつい嬉しくて、くるりと回ってきれいにお辞儀。

「これは嬉しい、ありがとう!」

さらさら風吹く丘の道。コトコト坂を下ります。
道の途中でおじさんは、袋の中身を見てみます。
そこにはとっても色とりどりな、おいしそうなクッキーが!
おじさん味見と一つまみ。さくりと広がるクッキーの、何とおいしい事でし

ょう!
おじさんあんまり嬉しくて、急いで家に帰ります。

「何ておいしいクッキーだろう!急いで家に帰らなきゃ、帰る前になくなっ

ちまう!」

―*―

お日様少し、傾いて、時間はそろそろお茶の時間。
扉の影から除くのは、小さな小さな女の子。

「あらあら小さなお客様」
「やぁよく来たね、いらっしゃい」

二人はにっこり微笑んで、お店の中へ誘います。
小さな小さな女の子、何も言わずに俯いて、なんだか少し、悲しそう。

二人は少し考えて、やっぱりにっこり微笑みます。

「さぁさぁ小さなお客様、こちらでお茶を出しましょう」

お店の裏の、小さなテラス。
白いお洒落なテーブルに、お揃いの白いティーセット。
ポットが静かに注ぐのは、柔らかな色のミルクティー。
お皿の上に乗せられたのは、大きなふかふかシフォンケーキ。

「それではどうぞ、お客様」
「おいしい時間をごゆっくり」

ふんわり漂う良い香り、
ちょっと大きなティーカップ、ゆっくり口を近づけます。
一口飲んだ女の子、ぽろぽろ涙をこぼします。
二人は優しく微笑んで、どうかしたのと訊ねます。

「どうして私に優しくするの?私は何も、持ってないのに」

二人は静かに答えます。

「優しくしたいと思ったら、優しくすれば良いんだよ」

小さな小さな女の子、涙をこぼしているけれど、にっこり笑顔になりました


おいしい時間はゆっくりと、あっという間に終わります。
夕焼け赤い、丘の道。
小さな小さな女の子、ゆっくり家へと帰ります。
小さな小さなポケットに、二人がくれた白い花。

優しい気持ちに包まれて、今日も一日終わります。
明日もきっと、良い天気。

―*―

―いつかどこかのあるところ。

―小さなお店がありました。

―静かできれいな丘の上。

―甘くてステキないい香り。

―「それではどうぞ、お客様」

「おいしい時間をごゆっくり」―。




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最終更新:2008年06月29日 06:02