A-42:33-00750-01:黒野無明:無名騎士藩国 さん

「めぐり、つながるうた」



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少年は夢を見ていました。
とても悲しい夢。見ているだけでつらくなる夢。
そんな夢を見る日は、いつだって少年は眼を開き、夢から目を背け逃げ出します。
ただ、そんな世界で、いつも少年に届く音色がありました。夢の中、見ていられないほど辛い光景。ただ、それだけがある世界のはずなのに。世界に響く歌がありました。
それは、力強く、それでいて優しく暖かい歌。誰かのために歌われる歌。
けれど、その歌では少年の心を守ることはできませんでした。
だから少年は怖くて、いつも逃げていました。
何度も、何度も、何度も歌声が聞こえなくなるまで……。

そして、世界から歌が無くなりました。ただ、視界には暗く、悲しい不条理がまかり通る、誰もが逃げ出さざるを得ない光景だけ。たとえ、そこから逃げても誰も責めることの出来ないような光景。ですが、そんな光景を目の前にして、少年の心には恐怖や絶望とは違う思いが生まれていました。

それは、怒り。知らず少年は怒っていました。世界への強い怒り。でも、少年には何の力もありませんでした。
だから、少年は歌を歌いました。世界へのせめてもの反抗。お前の中には絶望しかないわけじゃない、と少年は伝えたかったのです。

彼は歌い続けました。いつまでも、いつまでも、いつまでも……。
どれだけの時間が経とうとも、彼は歌い続けます。喉が枯れても、歌おうとします。けれど、彼は無力でした。どんなに歌っても世界は変わらず、ただ自分が苦しむだけ。彼は、諦めそうになりました。

そのときです。世界から歌が溢れ出したのは。
彼の歌を聴いていた人達が居たのです。
彼の歌を聴いて、世界と戦うことを決心した人達がいたのです。
その歌は、人の誇りを、人の優しさを歌い、世界から悲しみを無くすために歌われていました。
彼は、その歌を聴いてもう一度戦うことを決めました。
もう、諦めない。もう、逃げない。そう誓いました。
闇が晴れ、悪夢が終わろうとしました。

そこで、彼は夢から目覚めました。
そして、彼は気づきました。
この世界にも、あの世界と同じように悲しみが溢れています。けれど、どんなに悲しみが溢れようと、人が協力し合えば、どんな困難も越え、どんな悲しみも越えられるのだと…。

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最終更新:2008年06月21日 06:36