A-39:22-00419-01:里樹澪:ビギナーズ王国 さん

「約束をした青年」



あるところに、盛大なお祭りをすることで有名な国がありました。
祭り好きな王様がいつもお祭りを開いていたのです。
国中に太鼓が鳴り響き、通りは踊り子が練り歩き、広場にはお店が溢れていました。
しかし、あるとき王様が変わりました。
新しい王様はお祭りが大嫌いだったのです。
すぐにお祭りをすることを禁じてしまいまいした。
兵隊に命じて、お祭りをしようとするものは皆捕まえてしまったのです。
太鼓の音は聞こえなくなり、踊り子は通りに出なくなり、お店も広場から消えました。
国に住む人たちは、お祭りが出来なくてさびしい気持ちになっていきました。

静かになってしまった国に、お祭りが好きだった一人の青年がいました。
彼はいつも思っていました。
もう一度太鼓が鳴り響く音が聞きたい。
あの踊りをもう一度見たい。
広場に溢れるテントが、そこに集まる人の笑顔をもう一度。
青年はそう決めました。
彼にはお金はないし、賢くもありませんでしたが、身軽さと祭りを思う気持ちだけは国一番でした。
なんだ、二つもあるじゃないか。青年はそう思いました。
そして、歩き出したのです。

青年は太鼓の名手だった人に会いに行きました。
彼は困っていました。子どもが屋根の上から降りられなくなってしまったのです。
屋根に上るのは青年には簡単なことでした。なんなく子どもを助けてあげました。
太鼓叩きは喜んで、青年にお礼を言いました。
でも、自分には太鼓を叩くくらいしかできないし、今はそれができないとも言いました。
青年はそれならばお礼の代わりに、僕が死んだら太鼓を叩いて送ってくださいと言いました。
太鼓叩きは不思議に思いながら、それくらいならと青年と約束しました。

青年は次に、国一番の踊り子に会いに行きました。
彼女も困っていました。家にねずみが出たのです。
彼女はねずみだけは大の苦手でした。
青年は笑いながら、すばしっこいねずみを退治してあげました。
踊り子は青年にお礼を言いました。
でも、自分には踊りしかないし、今はそれができないとも言いました。
青年はそれならばお礼の変わりに、僕が死んだら踊りで送ってくださいと言いました。
踊り子は首をかしげながらも、それでいいのならと青年と約束しました。

青年はそのあとも、身軽さをいかして、自分にしか出来ないことで国中の人を助けてました。
そしてそのたびは「自分が死んだら」と約束をしました。
皆縁起でもないと言いながら、首をかしげながら約束をしてくれました。
そして遂に、国の中で青年と約束していないのは王様だけになりました。
青年は、最後に王様に会いに行きました。
王様は青年がお祭りを好きなことも、皆と約束していたことも知っていました。
王様はそれに怒っていました。
青年はすぐに捕まえられて、死刑にされてしまったのです。
その前に、青年は王様とも約束しました。
僕が死んで王様は嬉しいのなら、一つだけ約束してください。
もし、今日の夜にお祭りが開かれたら、お祭りを認めてください、と。
王様は笑いながら、いいともと約束しました。
何を約束していようとも、兵隊たちが捕まえてくれると思っていたからです。
青年は最後に笑顔になって、約束ですよと言いました。
それが、青年の最後の言葉でした。


その日の夜。
青年が死刑になったという話は国中に広がりました。
でも、皆兵隊を怖がっていました。。
いつまでたっても、誰も青年との約束を守ろうとしませんでした。
王様は自分の思ったとおりだと笑いながら、ベッドに入って寝てしまいました。

最初に響いたのは太鼓の音でした。
太鼓の名手は子どもが寝顔を見て、子どもを助けてくれた青年を思い出したのでした。
そして、子どものために約束を守ろうと思ったのです。
太鼓の音に導かれるように、国一番の踊り子が通りに躍り出ました。
久々に聞く太鼓の音に、どうしても躍りたくなったのです。
手に持った鈴でリズムを取り、太鼓に合わせて躍りながら歌いました。

二人が通る後ろから、次々に人が現れました。
太鼓に合わせるように笛吹きやバイオリン弾きが出てきました。
踊り子の弟子も仲間も、かつてのように踊り始めました。
もう立派なパレードです。

パレードが広場に着いたら、テントがいくつも立っていました。
煌びやかに飾り付けられ、人を呼び込む声が響き渡り、かつての活気が溢れていました。
パレードはそれを見て、一層大きく演奏し、美しく躍りました。
お祭りが戻ってきたのです。

騒ぎを聞きつけた王様はベッドから転げ落ちました。
そして、窓の外を見て驚いて、すぐに兵隊を呼びつけてなにをしているんだと怒りました。
兵隊たちは言いました。青年と約束していたのです。
お祭りを始めてもだれも捕まえないようにと。
それを聞いた王様はついに観念しました。
青年との約束どおり禁止令は解かれたのです。

こうして、一人の青年のおかげで国にお祭りが戻ってきました。
そして、もう二度とお祭りがなくなることはありませんでした。




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  • ○020003201:忌闇装介:akiharu国
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    いいお話でしたが、青年が生きていてくれればもっとよかったです。 -- (忌闇装介@akiharu国) 2008-06-21 15:42:13
  • ○26-00500-01:月光ほろほろ:たけきの藩国
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    ○青年は死んでしまったけれど、その笑顔とお祭りはずっと残るのですね。
    悲しいけれど、素敵な物語です。
    -- (月光ほろほろ@たけきの藩国) 2008-06-29 12:29:49
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最終更新:2008年07月04日 06:49