A-37:00-00565-01:那限逢真・三影:天領 さん
「ある旅人のお話」
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それはどことも違う場所。
どことも違う時間。
全てがこことは違う世界。
そんな世界で当てもなく旅をする旅人がいました。
旅人は心のどこかが欠けていて、旅人は虚ろな心で旅をしていました。
ある時、旅人は樹の下で雨に打たれていました。
とても冷たい雨なのに、旅人は雨の中でぼんやりしていました。
ふと気がつくと、同じ樹の下で倒れている女の子がいました。
旅人は気紛れで、そう本当に気紛れで女の子を助けることにしました。
助けられた女の子は旅人の後ろをついて歩くようになりました。
不思議になった旅人は、ある時女の子になんでついてくるのかと尋ねます。
「貴方が私を助けたから、私も貴方を助けたい」
旅人は困りました。
別に助けて欲しい事はありません。
「じゃぁ、どうして私を助けてくれたの?」
旅人はますます困りました。
助けたことに理由なんかありません。
それはただの気紛れで、自分が好きに助けただけです。
旅人がそう言うと女の子は笑って答えます。
「じゃぁ、私も好きに助けます」
その笑顔が綺麗だったので、それでも良いかと思うことにしました。
でも、そんな楽しい時は続きません。世界はいつでも理不尽です。
ある時、女の子は旅人を庇って死んでしまいました。
旅人の心は哀しみでいっぱいになりました。
でも、心のどこかが欠けた旅人は何でそんなに哀しいのか分かりません。
旅人は哀しみを抱えたまま、再び旅に戻りました。
ある時、旅人は街に立ち寄りました。
旅人はそこで不思議な刀を見つけます。
その刀は妖刀で、狐娘姿の精霊が一人憑いていました。
精霊は今まで寂しかったので、二人はすぐに仲良くなりました。
仲良くなってしばらくしてから旅人は知りました。
精霊が動くのも大変なくらいに弱っている事に。
旅人は哀しくなり、運命に逆らうことを決めました。
でも、運命を変えるなんて、口で言うほど簡単ではありません。
旅人は何度も何度も失敗し、その度に何とかしようと思いました。
何故なら、旅人の傍にいつも精霊がいたからです。
精霊は弱っているからといって、旅人から離れることはしませんでした。
旅人は精霊を助けたくて、寸暇を惜しんで頑張りました。
ある時は原因を探して人や書物を当たりました。
ある時は薬を探しに遠くの地へ行きました。
ある時は治療できる人を探して世界を越えました。
そしてとうとう旅人は、精霊を助けることができました。
元気になった精霊は楽しそうに走り回って喜びます。
旅人もそれを見て嬉しくなりました。
でも、心のどこかが欠けた旅人は何でそんなに嬉しいのか分かりません。
旅人はその答えを探して、再び旅に戻りました。
ある時、旅人はある国でできる限りの人を助けようと働くようになりました。
旅人はそこで一人の妖精を助けます。
でも、旅人はそのことを忘れてしまいました。
旅人にとって、その妖精を助けたことは当たり前のことだったからです。
旅人は頑張って働きました。
自分が少し犠牲になれば、欠けた心が埋まると思ったのです。
でも、いつしか旅人は周囲の人から嫌われるようになりました。
旅人はそれが嫌になって、今までの事は無駄だったのかと考えるようになりました。
そんな事を考えていると、旅人は一緒にいる影に気がつきました。
旅人もすっかり忘れていたことですが、それは旅人が以前助けた妖精でした。
全てが嫌になっていた旅人に、その妖精は笑いかけてくれました。
妖精は助けられてから、ずっと旅人を見ていたのでした。
旅人はずっと傍にいてくれたのに、それに気がつかなかった事に哀しくなりました。
そして、この妖精を助けられたのなら今までの事は無駄ではないと思いました。
旅人は妖精の事を助けてあげたくなり、妖精についていく事にしました。
自分が助けてもらったから、妖精を助けてあげたくなったのです。
ああ、かつて出会った女の子はこういう気持ちだったのか。と旅人は思いました。
心のどこかの欠けた旅人は、大切な何かを思い出したような気がしました。
旅人はもう一度頑張ってみようと思い、再び旅に戻りました。
そして、旅人はある時気がつきました。
どうしてあの時哀しかったのか。
どうしてあの時嬉しかったのか。
どうしてあの時大切な何かを思い出したような気がしたのか。
それは、いつも傍に誰かがいた時でした。
そして、そういう時はいつも何かを頑張ろうと思った時でした。
旅人は思いました。
人は守りたい何かがあれば頑張れるのだと。
それに気がついた旅人は、また旅を続けることにしました。
貴方にも守りたい何かがありますように。
そして、それのために一生懸命頑張れますように……。
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最終更新:2008年07月04日 06:49