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A-36:39-00709-01:西田八朗:アウトウェイ さん

「木の話~帰郷~」



砂塵舞う金の海
男は一人砂漠を歩いていた
纏っている外套は、幾年幾月経ったものか、襤褸にしか見えない
ボサボサに伸びた白髪と白髭には、砂と埃がこびりついていた
日に焼けた肌は赤黒く、腕も脚も細く、とても目前に広がる砂漠を踏破できるとは思えない
次第に歩みも遅くなり、瞳の輝きも薄れていく
しかし、彼の歩みは止まることはなかった


彼は戦士であった
かつて彼の世界では大きな戦争が起きた
彼の故郷は、主戦場から遠く離れた地にあったが、彼は戦士としての自分の使命を果たすために、妻と子を残し戦場へ向かった
戦場へ向かう彼を、妻は涙を隠し、再び会えるよう祈りを込めて、ハープの音に歌を合わせて彼を送った
子は、彼に、家族の名を刻んだ手製のハーモニカを渡して、戦場でも自分達を忘れないことを願った

長い、長い戦争はそれから40年も続き、旅に出た戦士は老人となった
戦争が終り、老人は故郷へ帰る旅を始めた
故郷が滅んだ事は、戦争の最中に知った
しかし、彼は、思い出の中に残る故郷の姿を求めた


かつては緑溢れる新緑の大地であった故郷も、長く続いた戦争の影響か、砂漠となっていた
かつて毎日の様に音楽が鳴り止まなかった故郷では、最早人影すら無く、吹きすさぶ風の音が耳に入った

それでも彼は、歩みを止めなかった
歩みつく先が、自身の終りであろうとしても、彼の歩みは遅くはなれど、止まる事はなかった
自分でも分からない何かが、彼の足を止めなかった

かつて彼の家があった其の場所で、彼は足を止めた
彼の家に寄り添う様に聳え、深い緑の葉をつけていた大樹は、その影すら残していなかった
かつて彼の家に響いていた、妻のハープと子の鈴の音も、最早聞こえるはずも無かった

彼は涙を溢した
どうして自分は戦場へ赴いたのだろうかと
かつての自分は血気盛んに戦う事を、自身の宿命としたのだろうかと
彼の慟哭は止まず、此処まで歩いてきた足は、急に力を失い、前を見続けてきた瞳は下を向いた


其処に芽が生えていた


深く、それでいて若い色をした芽であった


彼は涙を流した
あぁ、この砂漠にも、また新しい生命が生まれているのだと
この砂塵舞う故郷にもまだ待っていてくれたものがいたのだと

彼は自身の懐に、よろよろと手を延ばし、中からハーモニカを取り出した
刻まれた家族の名に指を這わせ、彼はハーモニカを吹いた
戦場でも手入れを欠かさなかったハーモニカは、未だ音を忘れてはいなかった

響くメロディーは愛のメロディー
彼が家族と共に響かせていた音
砂塵舞う黄金の砂漠の中に、彼の耳に響くのは懐かしき家族の音、彼の脳裏に広がるのは深緑の大地
あぁ、私は帰ってきたのだ


深き緑と若き力を宿した芽は、彼の音を聴き、彼の喜びの涙を浴びて

やがて大樹となる




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