A-34:26-00497-01:志水高末:たけきの藩国 さん

「星かがやく夜」



――雨の降る夜遅く、空を見上げる少年がいました
――酒臭い男は問いかけます

「こんな時間にどうした」
「明日、晴れるか心配なんです」
「明日、何があるんだ」
「七夕です。織姫と彦星が会えるか心配で」

――空には一面の雲、星々のまたたきをさえぎっていました
――少年は空をにらみつける
――雲よ去れとでも言いたげに

「君は、どうして二人が会えるか心配なんだ」
「二人は、一年に一度しか会えないんです」

――少年の目は、責めるように男の目をとらえます

「会えなかったら、悲しすぎます」

――男は諭すように答えます

「大丈夫、宇宙(そら)はきっと晴れているはずだ」

――少年は空の向こうにある、宇宙を見上げました

「では、この空が曇っていても、二人は会えるんですね」
「たぶん・・・な」

――少年は目をふせ、去っていきます
――男の目には、少年の背中が怒っているように見えました

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――男は同僚に頭を下げ、飛行機からドライアイスをまいてもらうことにしました

「もーほんとこのとおり、お願いします」
「また、何に使うんですかこれ・・・ 変なことじゃないでしょうね」
「まさか、ちょっと雨を降らそうかと」
「何考えてるんですか、今日は七夕ですよ。嫌がらせですか」
「今のうちに雨を降らせてだな、夜晴れればと思って」
「出来るんですかそんなこと」
「やれるだけやってみたいのよ。一生のお願い!!」
「それもう五回くらい聞いてますけど」
「じゃー今度こそ本当」
「それでは、こないだの代理出席してくれってのは嘘だったんですね」
「いや、俺九回分くらい命があるから」
「どこの猫ですかそれは。大体なんで僕なんです」
「ウチで飛行機飛ばせるの守り手くらいしかいないし、他の連中は真面目だからなぁ」

壁にかけられた時計を見て、彼は顔をしかめる

「とにかく時間無い。今すぐ手配して飛ばしてくれ。よろしく!」
「あ、ちょっと!?」
「やってくれなかったら、あのこと嫁に吹き込んでやる」


――男は次に、星を見る場所を作ってもらうことにしました

男は上空に舞い上がった飛行機を満足げに眺め、背の高い男に話しかける
「今晩、田園地帯に近いひまわり畑で七夕祭りを強行する。あ、川に近いところがいいかな」
「あれ、でも今夜雨って話じゃ」
「雨は昼間降らせる。きっと大丈夫だから会場の方頼む」

男はそれだけ告げて走り去る
「マジ・・・?」
後に残された背の高い男は、呆然とその姿を見送った


――男は料理人に、ごちそうを作ってもらうことにしました

男は資材を積んだトラックとすれ違いながらほくそ笑み、建物裏手から厨房へ入る
「姉上、ちょっと宴会用というか、炊き出しをお願いしたいと・・・」
「え、今から?」
「夜までに」
「いや、出来ないことは無いと思うけど、材料とかどうするのよ」
「適当に漁って下さい。組合長言いくるめて」
「あの人なら簡単に騙せそう・・・って、おい」
「じゃ、よろしく!」


――男は一人で星を見るのはつまらないと思い、みんなを呼ぶことにしました

「で、このチラシを配って回れば良いと」
「そういうことだ」
「なかなか大変そうですが、やりがいがありますな」
無精ひげの男と腹の出た中年紳士は笑いあう
「それじゃ、美味い酒のために頑張りますか」
「そうですな」
駆け出す二人に手を振り、男は山の向こうに雨が降り始めているのを見て、笑う

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少年は手に持ったお祭りのチラシを眺める
いつもなら茜色に染まる空には、少し雲が残っていた
本当に今日晴れるのだろうか
そんな思いは彼を憂鬱にさせる
少年は今日、友人と共にお祭りで騒げる気分ではなかった

「よう少年」
「あ、昨日の・・・」
「今夜は晴れるぜ」
「宇宙ならいつも晴れているんでしょう」
「そうじゃないさ。今夜、この地は晴れる」
「・・・・・・」
「俺の丸一日分の努力だ。ちゃんと見てくれよ」

少年の目には、手を振りながら去る男の背中が笑っているように見えました

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少年は結局、お祭りの会場には行きませんでした
ですが、家の窓から見た夜空にはベガとアルタイルが

「少し、雲が残ってるじゃないか」

少年は笑う
きっと今頃、織姫と彦星は一年ぶりに再会している事を思い浮かべ
ついでに、ちょっと酒臭い男を思い出して

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「あの、なんでウチ使ってるんですか」
「道場広いからいいじゃん」
「そうそう、あのキッチンすごい使いやすかったわよ。ね」
「そうですねー。わたしもあんなの欲しいな」
「美味い酒に星空。後は風呂があれば完璧ですな」
「風呂と言えば、藩王さまのところに露天風呂があるって言ってましたね」
「マジか 行くしかねぇな」

夜はふけていく
夜空にまたたく二つの星は、一年ぶりに出会えた事を祝うように輝いていた




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最終更新:2008年06月21日 06:23