B-19:00-00565-01:那限逢真・三影:天領 さん
「今、傍にいない君へ」
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窓辺の机の上に手帳が置いてある。
手帳には詩とも手紙ともつかない言葉が書かれていた。
私は宛てたいけれども宛てられることのない言葉を読み進める。
『故郷が無くなるとはどういう気分だろう?
君は言った。「故郷は胸の中にあるから」と。
確かにそれは正しいし、君ならそう言うだろう。
でも、本当にそれだけなのか?
私も故郷を離れて久しいのは同じ。
私は自分で故郷を発った。
自分の住まいを離れ、友人たちと別れを告げた。
そこには後悔も未練もないし、私の故郷の風景は変わっていない。
でも、君は自分から故郷を出たわけではない。
自分の意思とは関係なく故郷と友人から離された。
それがようやく戻ってみれば故郷は見る影もない。
私には推し量るしかできないが、きっとショックだったろう。
頭で納得したとしていても、心が哀しいことに変わりはないはずだ。
私は君と君の故郷を語った時の事を思い出す。
初めて故郷の話をした時、君は胸ポケットで顔を輝かせて笑っていた。
百円ショップに行った時、君は「今は妖精の服を作ってくれる人がいないから」とピーターパンの服を探してきた。
迎賓館で改めて君の故郷に行きたいと言った時、君は元気に返事を返してくれた。
慰労会に参加した時、君は自分の水のみ場に案内してくれた。
どれも思い出しても、私は君が嬉しそうに見えた。
私はそれがなんだか嬉しかった。
だから、君と一緒に君の故郷を見てみたかった。
君が嬉しそうに故郷を案内してくれるところを見たかった。
そんな君と一緒に、君の故郷を回ってみたかった。
……そして、当日、君の案内で故郷へ行った。
君が見せてくれた過去の世界で、君は楽しそうに友達と会話をしていた。
あれだけ嬉しそうだったのに。
あれだけ楽しそうだったのに。
それが無くなってしまった。
君は胸の中に故郷があるからもういいと言うけれど、それでいいはずがない。
私は君と話をしたかった。
でも、目覚めてみたら私は一人きりだった。
今、私は君のことが心配だ。
君に会って話がしたい。
あんな事があった後、何も言えずに別れてしまったからいつもよりも心配になる。
君は今どこにいるのだろう?
君はまだ、ウェールズにいるのだろうか?
故郷の友達を心配して悲しい思いをいないだろうか?
それを隠して元気そうに振る舞っていないだろうか?
私の見えないところで君が泣いていたら私は悲しいから。
私と話して君の心が少しでも軽くなるのなら私は嬉しいから。
何より、私は君に話したいことがあるから。
私は君としたいくつもの約束を果たしたいから。
故郷を離れた私にも親友が一人いる。
どんなに遠く離れても、変わらぬ友情を与えてくれる親友が。
きっと君にもいただろう。
でも、今は行方がわからない。
なら、一緒に探したい。
たとえ故郷は無くなっても、友達全てが消える事はないだろう。
君を私が助けたように、君の友達も誰かに助けられているかもしれない。
だから私は君と一緒に探したい。
故郷を無くした君の故郷を。
それで君がまた笑えるのなら。
そんな君を見て、私がまた笑えるのなら。
そして、一緒に見つけたい。
君が安らげるような場所を。
君の新たな故郷となる場所を。
君とともに歩める場所を』
私は詩とも手紙ともつかないメッセージを読み終える。
おそらく、この言葉がそのまま相手に届くことはないだろう。
私はそれが少し哀しくなった。
だから私は誰も読む事がないであろうこの言葉に、小さく言葉を書き加える。
『これを君が読むことはできないかもしれない。
でも、『想いが伝わる』事が本質のこの世界なら、君に想いが届くだろう。
――今、傍にいない君へ、この想いが届きますように……』
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最終更新:2008年07月01日 03:52