B-16:15-00752-01:久遠寺 那由他:ナニワアームズ商藩国 さん

「黒耳猫のお花見」



昔々、砂漠の下にある小さな国に黒耳猫という猫がおりました。
黒耳猫には遠い東の国に住むお姫様のお友達がいます。
お姫様に負けないくらい立派な人になろう。
黒耳猫はそう決めて毎日物語を書いて暮らしています。

ある日、黒耳猫は庭に咲いたお花を見て思い付きました。
そうだ。素敵なお弁当をこさえて、お姫様と一緒にお花見をしよう。
そう思い立つと居ても立ってもいられなくなり、黒耳猫は小さなペンを机において町に出ました。

お弁当を作るなら必ず町のもの、山のもの、海のものをいれなさい。

遠い昔にお母さん猫に教わったことを思い出して、黒耳猫はまず町のお店に入りました。
わたしはお姫様とお花見に行くのでお弁当をこさえます。町のものは何がありますか?
うちは新鮮な卵が自慢だよ。ただ、今は丁度切らしていてね。欲しいのなら自分で取りに行くと良いよ。
お店のお兄さんに教わった通り黒耳猫は原っぱへ行きました。
そこで放し飼いにされているめんどりはとても短気。
黒耳猫はめんどりたちに散々蹴られたりつつかれたり。ようやく卵を一つ、貰いました。
つやつや大きな白い卵はきっとお日様のよう黄身をしているのでしょう。

次は山のものです。
黒耳猫は砂漠の果てにある高い高い山を登ります。
この山は夏でも雪が積もっていて、珍しい野菜が採れるからでした。
崖から滑り落ちそうになったり高い場所で目を回したり。
たくさん危ない目にあった黒耳猫は、雪の残った谷間で鮮やかな緑色の野菜をみつけました。
それは雪の下から顔を出して春の香りを運ぶ先触れです。
お姫様はこんな野菜を食べたことがあるかしらん。
ゆっくり山を下りながら黒耳猫は思いました。

最後は海のものです。
砂漠の下にある国には真水なのに海の魚が採れる不思議な湖がありました。
小さな船で湖に出た黒耳猫の前に、いきなり怖い怖い湖のぬしが現れてこういいました。
黒耳猫よ、何処へ行くのだ。
わたしはお姫様とお花見に行くのでお弁当をこさえます。海のものは何がありますか?
海には何でもあるとも。例えば、ウインナーのような味のするタコ。美味いぞ。
ぬしさん、それをわたしにくださいませんか。
ならん。海に住む者はわれらの仲間。どうしてもというなら代わりにお前の大切なものをよこすのだ。
見上げるように大きなぬしの前で、黒耳猫は一生懸命考えました。

わたしの大切なものは何だろう。
物語を書くペン。
お姫様に貰ったお花。
それから。

黒耳猫はぬしに答えました。
わたしの大切なものは物語を考える心です。でも心は上げられません。
なんと不届き。ではお前の命を貰ってやろう。
ばっしゃんばっしゃん、怒って大きな波を立てるぬしの前で黒耳猫の小さな船はまるで木の葉のよう。
黒耳猫はそれでも一生懸命、船をこいで岸を目指します。
何故なら、お姫様ともう一度会いましょうと、約束したからでした。
そうしてどのくらいの時間が流れたでしょう。
気が付くと黒耳猫はもといた岸に打ち上げられていました。
そして水で一杯になった小さな船の中を赤い色をした小さなタコが泳いでいるのを見付けました。
それは湖の主からの贈り物。大変なときでも諦めない。
その気持ちをしめしてみせたご褒美に黒耳猫にくれたのでした。

ぺこりと湖に向かって頭を下げた黒耳猫は大喜びでおうちに帰ります。
町のもの、山のもの、海のもの。材料は揃いました。
あとは素敵なお弁当をこさえるだけです。
黒耳が作ったのは黄色でふわふわの卵焼き。鮮やかな緑色のおひたし。ウインナーの味がする小さな赤いタコ。
それからお姫様と同じ名前の、うす桃色の甘いお菓子。

できた!
黒耳猫が国中を駆け回ってこさえたお弁当はとても美味しそう。
それを食べるお姫様のことを思って、黒耳猫は元気いっぱい。お弁当を大切に抱えて、遠い東の小さな国へと旅に出ました。
とことこ、とことこ。
いつかと同じ、月がまん丸になる頃。
暖かいお庭で、黒耳猫はお姫様と再会しました。

こんにちは。お姫様。
あ、黒耳猫だ。なあに、あちこち汚れて、おかしいの。
お弁当をこさえるために、それから長い旅の間に、黒耳猫の灰色の毛はあちこち逆立ったり汚れたり。
それでもお姫様の笑顔が嬉しくて、黒耳猫はにっこりお弁当を差し出しました。
お姫様、お弁当をこさえました。一緒にお花見をしましょう。
うん。私もお花見は大好き。
それからお姫様と同じ名前をしたお花がたくさん咲いたお庭で、お姫様と黒耳猫はお腹いっぱいお弁当を食べて、楽しくお花見をしたのでした。

それで黒耳猫、今日のご用はなあに?
お花見をしてそれから…あれ。お姫様とあったら忘れてしまいました。
まあ、黒耳猫ったらやっぱりおかしい。
くすくす笑ったお姫様と黒耳猫はお喋りしながら暖かいお庭でひなたぼっこ。
そのうちにすやすや眠ってしまった二人に、うす桃色の花びらがふんわり、毛布のように散っては積もっていくのでした。

おしまい。




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  • ○25-00707-01:古島三つ実:羅幻王国
    ○個人口座:1マイル
    ○黒耳猫のお姫様を思って頑張るところが幸せそうで可愛らしいです。お弁当一緒に食べられて良かったです。 -- (古島三つ実@羅幻王国) 2008-07-02 19:20:56
  • ○04-00096-04:夜國涼華:海法よけ藩国
    ○個人マイル:1マイル
    ○黒耳猫くんの真っすぐなとこに惚れました。心の強さを感じ、その真っ直ぐさに『がんばれ、がんばれ!』と応援していました。
    最後、桜のお布団で眠る二人は本当に幸せそうでした。 -- (夜國涼華@海法よけ藩国) 2008-07-03 02:25:58
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最終更新:2008年06月20日 23:06