B-05:04-00085-01:青にして紺碧:海法よけ藩国 さん

「気がつけば『よけ祭り』」



 それは、ある日の藩国での出来事。

「陛下ぁ!」

 海法よけ藩国藩王:海法 紀光の執務室のドアを、ある人物が荒々しくドアを開けた。

その名は青にして紺碧。数字は3以上数えられないという困った特徴を持つ、(一応)藩国の摂政だった。

「………来たか」

海法はつぶやく。全く、どうせ追いかけてくるならゆかりたんにしてほしいよ、というのが本音だ。ゆかり、というのは海法の個人ACEにして王妃(予定)だ。

「き、今日こそこの書類にサインを!」

紺碧は右手に掲げた書類の束をばっさばっさと振りかざす。

「紺碧さんや」
「なんでしょうか、陛下?」
「それ、何枚あるか今数えてみて」
「は、はい。それでは、えーと1、2、3……ええと……」

床にしゃがみ込み、書類の枚数を3まで数えてはまた先頭に戻る紺碧。その姿を見やりながら、執務室の窓を開ける海法。そしてそこから身を躍らせ、飛び降りた。
 藩王に逃げられた、もとい職務を避けられたと紺碧が気づいたのはそれから3分後のことだった。

「……へ~い~かぁ~!」

書類の束を握り直し、とにかく政庁の外へ闇雲に駆け出す紺碧。なんとしても今日こそは、この書類にサインをしてもらわないと、このままではどんどん職務がたまってしまう。

「待ってください~!へ~い~か~!」

藩国中に響かんばかりの大声で叫びながら、紺碧は走る。

「なんだなんだ?」
「ほら、いつものあれよ。陛下が職務を避けて、紺碧さんが追いかけてるの」

入国したばかりの不離参が、鬼の形相で走る紺碧を遠くに見やる。それについて簡潔に説明する森沢。

「ああ、藩国の年中行事とか言うあれですか。でも、紺碧さん、陛下の行方はわかるのかな」
「……追いかけ慣れてるからねぇ」

「紺碧さん、これをっ!」

通りかかった秘書官:蒼のあおひとが紺碧に何かを投げてよこす。

「おお、これはぽてち!かたじけないあおひとさん!」

封を開けてぽてち(ポテトチップス)をばりばり食べながらなおも追いかける紺碧。ぽてちは紺碧の好物の1つで、ヒマがあればしょっちゅう食べている。

「紺碧さん、これを!」
「ありがとう近衛さん、ってうわっぷ!」

国民:近衛カケルが投げつけたのはこねかけのうどん粉だった。それが紺碧の顔面にクリーンヒットした。

「あれ?勝手によけ祭りでも始めたと思ってたけど違うの?」

 よけ祭り、とは国内で突発的に起こるイベントで、傷んだオレンジや別れた恋人の写真、請求書など、投げつけたら嫌がられる物をそれぞれが投げ合い、それを避けるというものだ。

「なに、よけ祭りとな?」
「今回は標的役を摂政様が務めるらしいよ」

瞑想通信で誤った情報があっという間に国内全土に流れていく。設定国民たちは手に手にいろいろなアイテムをもってメインストリートに現れる。そこにマラソンランナーよろしく現れた海法に、簡易給水所を設けて水を渡すゆかり。海法はにっこり笑ってありがとう、といいながら水を飲み、また走る。その後ろから追ってくる紺碧に向かって、国民達&ゆかりがいろいろな物を投げつける。

「ちょ、ちょっと待ってみんな、なんでそんなにいろいろ投げつけてうわっ!」

四方八方から飛んでくるさまざまなアイテムを避けながら走る紺碧。しかしたまに避けきれず後頭部にヒットする。今当たったのは出せなかったラブレター100通の束だ。投げつけたのは誰だ?

「あれはなんですか?」
「晋太郎さん、あれはよけ祭りと言って……」

よけ祭りを見たことのない個人ACE:夜國晋太郎に説明する夜國涼華。

「不毛だな」
「そうやね、でもどんなときでも娯楽って必要やろ?」

追われる藩王と追う摂政を一言で片付けるソウイチロー・黒崎と、勘違いの答えを返す黒崎克耶。これで会話が噛み合っているのだから不思議だ。

「なあ、紺碧さん」
「ぜぇ、ぜぇ、な、なんですか殿下?」

殿下こともう一人の摂政:嘉納が紺碧を呼び止める。

「いろんな物を投げつけられても、その手の中の書類は汚さないところはさすがだけど。それ、俺たちがサインしても問題ないんじゃない?」
「へ?」

嘉納が、プリントアウトしたテンダイスのとあるページを取り出す。

「あ、“*摂政は摂政の持つ全ての権利と藩王に忠誠と輔弼の義務を持つ。”でしたね……がくっ」

 嘉納の一言でぐったりと倒れる紺碧。

「この書類は俺がサインして返しておくから、紺碧さんは思う存分、祭りの的になるといいよ。じゃあね」

 ひらひらと手を振ってその場を去る嘉納。地面に倒れた紺碧をぐるりと取り囲んで、国民達がにこやかににじり寄る。

「それでは、みなさん、どうぞ!」

ゆかりのかけ声で、紺碧に向かって一斉にいろんなアイテムを投げつける国民達。みんな一様に楽しそうな表情をしている。

「い、いいんだ。国民のみんなが楽しんでくれるならそれで……」

投げつけられた腐った卵とよけキャベツにまみれ、埋もれながら紺碧は本日最後の一言を発した。




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  • ○04-00118-01:ツグ:海法よけ藩国
    ○個人口座:1
    ○いろんな物が飛んでくる中、いろんな人達が登場する、藩国の日常生活を見たようなお話だと思いました。
    -- (ツグ@海法よけ藩国) 2008-06-29 20:16:21
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最終更新:2008年06月15日 15:18