A-15:26-00500-01:月光ほろほろ:たけきの藩国 さん

「翼が欲しかった少年」



あなたには誰にも負けないものはありますか?
自慢できるものが無かったら、それはいけないことなのでしょうか?

 *―*―*―*―*

昔々、鳥に憧れた少年がいました。その子は空を夢見て、自由に空を羽ばたくことを願いました。自分は地面に足がついていて、ひどく、こう、不自由な感じがしました。
(あれだけ自由に飛べたら楽しいだろうな)と思いました。
(空を飛べたら、みんなもすごいって言ってくれるぞ)とも思いました。
少年には他の友達のように自慢できるものが無かったのです。走るのも一番じゃないし、頭もそんなに良くない、と思っています。
(あぁ僕が鳥だったら空を飛べるし、楽器だったらキレイな音で鳴るのにな…)
でも少年は鳥でも楽器でもありません。だから一番になるためにも、まずは空を飛びたかったのでした。でも、悲しいことに飛べなかったのです。
少年は方法を考えました。僕にも翼があればいいのだろうか、と。
少年はさっそく自分の羽根布団の中からふかふかの羽をたくさん取り出すと、のりを使ってぺたぺたとホウキに貼り付け始めました。2本あるホウキは、白い羽毛におおわれます。両手に持つと本当に翼が生えたみたいで、少年は嬉しくて笑いました。そうしてそのまま、靴を履いて外に出ます。そう。空を飛ぶために。

空は吸い込まれそうな青。
夏の高い雲は、そこにあるだけで胸が高鳴ります。少年はじっと真上の空を見上げます。
目の前全てが空になると、まるでそのまま上っているかのよう。
遠くに鳥が見えました。
少年は気持ちを固めると、勢いよく両手を動かし、羽ばたき始めました。
空を、飛ぶために。

時間が経ち、太陽が沈みかける時間になって、夕日に照らされた少年は手を動かすのを止めました。
目は未だに空を見据えています。そうしないと、たまった涙がこぼれてしまうのでした。
何が悪いかは良く分かりませんでしたが、飛べなかったことはよく分かりました。
ホウキについた羽はほとんど飛び散ってしまって、そのことも気持ちを沈ませます。
(お母さんに、あやまらなきゃ)
少年は歯を食いしばりながら帰りました。大声で泣きたい気持ちを我慢して。

家の前に、少年のお母さんが待っていました。怒られると思って身構えた少年でしたが、お母さんは怒らずに言いました。
「どうしたの?お母さん、今日掃除できなくて困っちゃったじゃない。あなたのすることだから、なにか意味はあると思うけど。話してみて」
少年は最初から全部しゃべりました。空が好きなこと。他の友達のように自慢できるものが無いこと。空を飛べたら、みんながすごいだろうと思うこと…話しているうちに悲しくて、お母さんの笑顔があったかくて、少年はずっと我慢していた涙をぽろぽろとこぼしていました。
全部をしゃべって、そのまましゃくりをあげる少年に、お母さんは言いました。
「みんな違って、だからこそ素敵なのよ」と。
少年はよく意味が分かりません。鼻をすすりながら、お母さんの顔を見ていました。
お母さんは言います。
「あのね、あなたは空を飛ぶことはできないけれど、鳥はあなたみたいに地面を早くは走れないわ」
「でも、僕は楽器みたいにキレイなおとは出せないよ」
少年の言葉に、お母さんはにっこり笑って言いました。
「あなたは楽器のような綺麗な音は出せなくても、楽器よりもたくさんの歌を知っているわ。みんな違って、だからこそ素敵なの」
「みんな違って、だからステキ?」
お母さんは少年を抱きしめて言います。
「ええ。みんなできることも違うし、得意なことも違うわ。でもそれは良いことなのよ。
あなたにはあなたにしかできないこともあるの。だから7つの世界にはたくさんの人がいるのでしょうね」
少年はお母さんの良い匂いに包まれながら、星の出ている空を見つめました。
不思議と、もう空を飛びたいとは思わなくなっています。
(だって、僕にもみんなと違うところがあるだろうし)
お母さんは扉を開けて、少年を招きます。
(みんな違って、だからステキなら、僕だってステキなんだ)
そうして少年は、彼の居場所である地上に戻ってきました。

 *―*―*―*―*

あなたがそこにいるだけで、助けられている人はいるんですよ。
みんな違って、だからこそ素敵なのです。




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最終更新:2008年06月29日 05:30