A-12:34-00430-01:薊:リワマヒ国 さん

「ふたつの光」



遠い昔。遠い世界のどこかに、人と星が共存する世界がありました。
その世界の国々には光が溢れ、花も虹もきらきらと輝いて見えました。
しかし、いつの頃からか世界には少しずつ影が広がり始め、国は次第に闇に覆われていきました。


月の住む国も、闇に覆われた国のひとつでした。
常闇の中ではどれほど明かりを燈そうとも光が広がることはなく、光源を離れた光は深い闇に吸収されてしまいます。
暗闇で過ごす日々が続く内に花や作物は枯れ、人の心も荒んでいきました。
この闇を晴らすためにはとても強い光が必要だったのです。


月は輝けぬ我が身を嘆き、光を捜しに旅に出る決意をしました。
今の自分にできることはそれだけだと。
どこかにきっとこの闇を退けられる光がある。そう信じて月は旅立ちました。


いくつもの国を渡り歩き、月は世界の現状を見て回りました。
周辺のいくつかの国は同様に闇に覆われてしまっていましたが、どうやら強い輝きを放つ恒星の住む国では闇に対抗することができていたようです。
月は行く先々で話を聞き、強い光を持つ星を捜し求めました。
そして光溢れる国でひときわ強く輝く星、太陽と出会ったのです。

月は太陽に縋りました。
おねがいします。助けてください。
太陽は月の必死な懇願に動かされ、月の故国へとやってきました。


深い闇の中で、月の願いと人々の期待を一身に受け、太陽はまばゆい光を放ちました。
すると国を覆っていた闇は太陽の光を吸収しきれずに消滅し、やがて夜へ、朝へと変わっていきました。

人々は心から太陽に感謝しました。
月も涙を浮かべながら太陽にお礼を言いました。
ありがとうございます。あなたのお陰で国に光が戻りました。


しかし、ひとしきり喜ぶと人々は不意に闇の恐怖を思い出し、震えました。
そして国を去ろうとする太陽を引き止め口々に願い出ました。
どうかこの国に留まり私たちを護ってください。

太陽は言いました。
あなたがたのように闇に苦しめられている人がいるのはこの国だけではないのだろう。
だから私は自分を必要としている大地を照らすために旅をしようと思う、と。

共に行かないかと差し出された太陽の手を、月はとることができませんでした。
近づく者すべてを焼き尽くしてしまいそうなほどの、あまりにも眩しい光を知ってしまったから。


月は言いました。
私は語部となりましょう。
あなたが去った後も人々があなたを忘れぬように。
あなたの光を私が人々に語り継ぎましょう。

月は太陽と別れ、その身に受けた太陽の残光を大地へ伝えることを選びました。
人々が闇に怯えぬように。
太陽の輝きを忘れてしまわぬように。


太陽は今も力強く輝き、闇を払い続けています。
月は太陽の後に続き、柔らかな光で大地を照らしています。
希望の光は確かにあるのだと人々に伝えるために。

<了>




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最終更新:2008年06月11日 11:22