A-11:14-00288-01:深夜:後ほねっこ男爵領 さん

「冬を追い払った男の子の話」



これはどこか遠くの、ずっと昔のお話。
冬は長く雪が降り、春と共に小川は流れ、夏の日差しはすぐに消え去り、秋が訪れる頃には山は冬支度を始める。
そんな、北の国のお話。

その国の冬は長く、そして、毎日のように雪が降りました。
お日様が照る日は少ないのに、雪はあとからあとから降ってきます。
ですから、その国に住む人たちは、冬の間、ずっと肩を寄せ合って、暮らしていました。
だけど、そんな暮らしがどうしても嫌になった一人の男の子がいました。
だって、雪が降っている間は、外で遊べませんし、友達にも会えません。
雪が降らない日は、色々な用事を、急いで済ませてしまわなければいけません。

男の子は思います。
あんまりにものんびりやってくる春がいけないんだ。
すぐに何処かに行ってしまう夏がいけないんだ。
せっかちに冬を招く秋がいけないんだ。
だけど、何よりも悪いのは、間違いなく冬です。
何一つ楽しいことの無い、長くて暗い季節。

男の子は、冬にしては珍しく晴れた日に、旅へ出ました。
冬を追い払うための旅です。
引き止めるみんなの腕を振り払い、後ろも振り返らずに。
雪の上に残る男の子の足跡だけが、てんてんとその後を追いかけていきました。

男の子は、真っ直ぐに冬のいる北には向かわず、夏のいる南を目指しました。
なぜなら、男の子の住んでいる国より北は、あまりにも寒く、そして、沢山雪が降るため、とても歩いていける場所ではないからです。
男の子は、夏の力を借りようと、思ったのです。
北の国の人たちが一番待ち望むのは、春の訪れですが、一番楽しむのは、夏の強い日差しだからです。
優しい夏ならば、きっと、男の子を助けてくれると、そう、思ったからでした。

雪が降っても、山があっても、気にせず男の子は南を目指します。
やがて、雪は雨になり、はっきりとわかるほどに暖かくなっていきます。
どんどん暖かくなり、やがて、服が必要ないほど暑くなった頃、男の子は太陽が降り注ぐ海辺にたどり着きました。
そこが、夏のすみかでした。

夏に会って、男の子は言います。

「夏さんにお願いがあります。
 僕の国は、冬にいじめられています。助けてください」

 夏は言いました。

「君たちを助けるといっても、冬は私の友達だ。
 どういうわけがあるにしても、冬の邪魔は出来ない」

男の子は困ってしまいました。
まさか、夏と冬が友達だとは思わなかったのです。
それを見かねた夏は言いました。

「私には、冬が君たちをいじめるとは、とても思えない。
 きっと、何かの間違いだと思う。
 会って話せば、誤解も解けるかもしれない。
 私の力を分けてあげるから、冬と直接話してきなさい」

そう言うと、夏は男の子に、自分のかけらを分けてあげました。
男の子の身体は、ポカポカと温かくなり、それだけで冬の寒さを遠ざけました。
その温かさに、力をもらい、男の子は、今度は北に向かって歩き始めました。
来た道と、同じように、山があり、やがて雪が降り始めましたが、今度はへいちゃらです。
なぜなら、男の子から伝わってくる夏の力を恐れて、一歩進むごとに、雪と寒さは男の子の周りから逃げだしてしまったのですから。
簡単に男の子は、北の国に帰りつき、そして、更に北の、冬のすみかを目指します。

雪と風はドンドン強くなり、寒さも厳しくなっていきます。
気が付けば、周りは、降り続ける雪で真っ白な壁に囲まれたようになり、吐く息さえ凍って、男の子の邪魔をするようになりました。
しかし、ここで帰ってしまっては、今までの苦労も全て水の泡です。
男の子は、歯を食いしばって歩き続けました。

とうとう男の子は、冬のすみかにたどり着きました。
男の子は、冬に言いました。

「お前のせいで、僕の国は迷惑してるんだ。
 お前なんか、どこかに行ってしまえ」

冬はビックリして言いました。

「まさか、そんな風に思われているとは、思いもしなかった。
 知らぬまに人を苦しめていたなんて、私はなんておろかだったのだろう」

ごめんよ、ごめんよ、と泣きながら、冬は何処かに行ってしまいました。
ひときわ寂しい場所に住んでいた冬は、誰かに面と向かって怒られた事がなかったのです。

こうして、冬はいなくなりました。
いきようようと男の子は北の国に帰りました。
そして、一年、二年と、年は過ぎていきました。
男の子は、すぐに自分の間違いに気が付きました。

春の訪れの喜びは、ぼんやりとしたものになりました。
夏の日差しは、ただ暑いだけになりました。
秋の実りは、前よりも美味しくなくなったような気がしました。
そして、冬に肩を寄せ合って分け合った暖かさは、もうどこにもありません。

なくしたものを元に戻すため、男の子は、再び旅に出ました。
もう一度、冬を見つけて、今度は謝るために。

これで、このお話はおしまいです。
え? 男の子が冬を見つけられたかって?
もちろんです。だって、あなたの家にも、ちゃんと冬がくるでしょう?
それが、男の子が冬と仲直りできた証拠です。




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  • ○11-00232-01:雅戌
    ○A-11:「冬を追い払った男の子の話」
    ○個人口座:1
    ○あ、小さい子に聞かせてみたいな。と素直に思えるお話でした。
    特に男の子に、感情移入し易いお話なのではないかと思います。
    オチがもう少し強ければ理想的ですね。面白かったです。 -- (舞花@スタッフ(代理投票)) 2008-07-01 01:43:06
  • ○27-00518-01:od:ヲチ藩国
    ○個人口座:1マイル
    ○「冬にしては珍しく晴れた日」リアル北国ってこんな感じなんですよ……寓意とリアルの同居が素敵です。 -- (27-00518-01:od:ヲチ藩国) 2008-07-03 23:56:25
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最終更新:2008年06月11日 11:22