A-06:13-00274-01:槙 昌福:よんた藩国 さん

「虫愛でる姫君」



これは僕の夢のお話です。

その日、僕は蝶でした。

春の日差しをその背に浴びて、風とワルツを踊ります。

甘い花の香りに誘われて、僕は一人の姫君に出会いました。

それは虫愛でる姫君と呼ばれる、可愛らしき姫君でした。

姫君は私を手に乗せて

「ちょうちょさん。ちょうちょさん、あなたの羽はどこまで飛べるの?」

と言いました。

「そんなの分からないよ。」僕は答えました。

姫君は少し悲しそうな顔をして

「そう、私にもあなたの様な羽があったらよかったのにね」

と言いました。

僕は不思議に想い、くるりと触覚を丸めて尋ねます。

「どうしたのさ。どこか行きたいところがあるのかい?」

姫君は言いました。

「どこへでもいいの。私が『変わってる。変な子ね。』と皆に言われない所なら」

姫君の瞳から、ほとほと涙がこぼれ、触覚を伝い、私の口へと入りました。

それはとても寂しく悲しい味でした。
僕はこんなことは間違ってると、そう思いました。

だから、僕は言いました。

「僕は僕がどこまで行けるか知らないんだ。だからそれを確かめに、旅に出ようと思う。」

姫君は頷きながら言います。

「そう、あなたの旅が良い旅になることを祈ってるわ」

僕は羽を広げて言いました。

「なにを言ってるんだい?どこまで行けるか知りたいんだろう?じゃあ一緒に来てくれなくちゃ!」

そうして、僕らは悲しき運命を砕く旅に出ました。

/ * /

7つの海を越え、4つの大陸を渡り、幾つもの季節が過ぎました。

姫君は美しく成長しましたが、虫愛でる国はついに見つかりませんでした。


「もう、駄目かもしれないわね」姫君はいつかのように悲しげな表情で言いました。

そのときです

「お前なんか出て行っておしまい!」

1匹の、人の大きさもあるような巨大な芋虫が、大きな大きな家から追い出されていました。

芋虫の名はザムザといいました。彼はある朝目覚めたら芋虫になっていたのです。

姫君は倒れたザムザを助け起こして言いました

「大丈夫ですか?お怪我は?」

ザムザは、その言葉に身を震わせると、おいおいと泣き始めました。

虫になって以来、初めてやさしい言葉を掛けられたのです。


/ * /


僕の夢はそこで覚めました。


そうして僕は思うのです。

『考え』が人と違うからといって、『姿』が人と違うからといって

幸せになれないのは嘘ではないかと。嘘にしなければならないと。

だから、子供達よ。お休みなさい。

そして、もし夢で彼らに会えたなら

そっと、僕に教えてください。

姫君達が今、笑って暮らしてるのかを。


おわり




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  • 06-00806-01 :空馬 :レンジャー連邦
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    こーゆー話好きです。虫愛でる国あったらいいですね。(無ければ作ってしまえい!) -- (空馬@レンジャー連邦) 2008-06-26 12:56:20
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最終更新:2008年06月29日 04:11