A-38:39-00709-01:西田八朗:アウトウェイ さん

「林の話~冒険~」



林の中にはオバケが居る

町中で、そんな噂が広がったのは、春の初めの頃
風が強い日の事だった

この町には、一本の大樹を中心にして広がる林がある
大樹はこの町の観光名物で、林に隣接するように大きな公園も作られた
その公園で、ゴミ回収をしているオジサンが、林の奥から奇妙な音が聞こえた、って言っていたことが噂の元だ
やんちゃな子供達が噂に興味を持って林に向かったけれど、誰も居ない筈の林の奥から変な音が聞こえたと、顔を真っ青にして帰ってきた

そんな林の入口に、少年が一人立っている

この町では見かけない肌の色をしている
彼は最近この町を訪れた少年だ
つまりは異邦人である

彼はまだ、この町に友達が居ない
肌の色が違う
瞳の色が違う
髪の色が違う
耳の形が違う
手足の形が違う
得意なことも無い
故に人の輪に入る勇気がもてない

だからオバケを見つけてこようと思った
皆が怖がるオバケを見つけることで自信をつけたかった
故に彼は林へ歩を進めた


ゆるりゆるりと夜の空気が肌を撫でる
怖くて汗が流れてきた
まだオバケは見ていない

じとりじとりと林の空気が肌に張り付く
じめじめとして気持ちが悪い
まだオバケは見ていない

かさりかさりと落ち葉の音が耳に付く
恐る恐る足を踏み出す
まだオバケは見ていない

ぶおぅぶおぅと不思議な音が聞こえてくる
だんだん近づいていくのがわかる
まだオバケは見ていない

そして少年は大樹の前に出た
まだ、オバケは見ていない

大樹には大きな穴が開いていて、そこから音が聞こえてきている
その大きな穴から光が外に漏れている
ここまで来たんだと、少年は、その小さな手を強く握って、大樹へと近づいていく
そうして大樹の穴を覗き込む…


そこに小さなハーモニカがあった


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小さな穴から入ってきた月光を、年老いたハーモニカが映していた
同じ穴から吹き込んだ風で、年老いたハーモニカが声を出していた

少年はそれを見て、くたりと膝を着いたあと、しばらくしてから不思議な音を出すハーモニカに引き寄せられた
触れてみると何か傷が付いている
吹いてみると何か少しだけあったかい気持ちが胸にしみこんだ

しばらくして少年は、年老いたハーモニカを大事そうに胸に抱き、今度は怖がらないで林を進んだ


翌日、少年は仲が良さそうに遊んでいる町の子供達を見て
自信の勇気を胸に抱き
輪の中に入ろうと走りだした




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最終更新:2008年07月04日 06:50