B-14:14-00798-01:たらすじ:後ほねっこ男爵領 さん

「人の良い男の話」


原作:南天@後ほねっこ男爵領 さん 絵:南天@後ほねっこ男爵領 さん
※こちらの作品は、後ほねっこ男爵領の皆さんの合作となっております。

むかし、むかしあるところに。

一組の夫婦と馬が1頭、犬が一匹住んでいました。
男は真面目な働き者でお人よし。
男の奥さんも真面目な働き者で、料理上手で器量よし。
二人は、小さな畑に小麦を作り細々と暮らしていました。

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そんなある日、夫婦の家に子供を連れた女の人がやってきました。
女の人は、子供に食べさせるものが無い。出来れば少し小麦を恵んでほしいと言いました。
「それは大変だ」
そう言って、男は取れた小麦をパンにして分け与えようと奥さんに言いました。
奥さんは、そうですねと言ってパンを作り、女の人はそのパンを抱えて嬉しそうに帰っていきました。
夫婦は良いことをした、と笑いあいました。
しかし、次の日にまた別の人が食べ物を分けてほしいとやってきました。
男は、それは大変だと言ってまたパンを分け与えました。

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その話を聞いて、毎日毎日男の家にパンを求めて人がやってくるようになりました。
その度に、男は妻にパンをつくらせ無償で分け与えました。
しかし、元々夫婦二人で食べる分と市場に売る程度しか作っていないのに、皆に分け与えてしまったため、市場に売る分はおろか自分たちの食べる分も減っていきました。
奥さんは、男の分は減らさずに自分の食べる分を削ってパンを作り続けました。
しかし、男はそれに何一つ気づかずいいことをしたと満足していたのです。

しかし、ついに小麦も底をついてしまいます。
でも、男は困っている人には無償で分け与えてしまいます。
二人で少しずつためたお金を。
二人で作った小麦畑を。
ついには、二人で住んでいた家まで分け与えてしまいました。
それでも良いことをしたと笑う男に対し、奥さんは何も言いませんでした。
住むところも無くなった夫婦と馬と犬は新しい住処を探して歩いていました。

その時、突然夫婦は声をかけられました。
声をかけたのは身なりのいい中年の男。
中年の男は、夫婦の連れている馬がとてもいい馬なので王様に差し上げたいと言いました。
男は二つ返事でどうぞ、と言いました。
奥さんは何か言いかけて、結局黙ったままでした。
中年の男は喜び、夫婦と犬と一緒にお城まで馬を連れて行くことになりました。

王様は連れてきた馬を見て、とてもいい馬だと喜びました。
更に夫婦の連れていた犬を見て、それも欲しいと言い出したのです。男は犬もどうぞと差し出しました。

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奥さんは、男の顔を見つめていましたが、結局何も言いませんでした。
そうこうしているうちに、お昼になり王様のお腹が鳴り響きます。
男は、王様に向かってこう言いました。
「王様、私の妻の作るパンはとても美味しいのです。是非王様に食べさせたいと思います」

王様は、その提案を二つ返事で受け入れました。
奥さんは、お城の厨房で作ったパンを王様に差し出しました。
そのパンを食べた王様、その美味しさに感激したのです。
「これは美味いパンだ。国一番といってもいいだろう」
更に、こう付け加えました。
「このような美味いパンを毎日食べられたらどんなにいいだろう。このような素晴らしい妻が私にもいたならば」
「では、妻をどうぞ。これで美味しいパンが毎日食べられます」
男は、馬や犬をあげたときのように妻を王様に差し出しました。男はいつものように満足そうにしています。
もう奥さんは、泣くことも怒ることもしませんでした。
ただ、最後に男に向かってこう言ったのです。

「私も犬も馬も、あなたのことが大好きでした。
 でも、その気持ちさえもあなたの自己満足の道具にすぎなかったのね」

こうして、男は一人ぼっちになりました。
いい事をしても、ちっとも幸せになりません。
そしてようやく男は気がついたのです。自分の満足のために、一番幸せにしたいと思っていた奥さんを不幸にしていたことに。
男は王様に会いにお城へと駆け出しました。そしてこう言ったのです。
「王様、私が一番幸せにしたいのは妻だったのです。他の物は何でも差し上げますから妻を帰してください」
「その言葉を待っていた」
王様は、奥さんの様子から男の性格を見抜きわざとあのような態度をとっていたのです。王様は男に、奥さんと馬と犬を返し、更に新しい犬と畑を与えました。
今も男の隣で奥さんは笑顔で美味しいパンを焼き、馬や犬と一緒に暮らしているそうです。


おとぎ話の最後はいつもめでたし、めでたし。

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最終更新:2008年06月26日 10:44