※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

存在理由【執筆者/藍奈】







「おはようございます」

今日も仕事。毎日仕事。
たまには休みが欲しいけど、そんなこと言ってられない。
職業柄、休みなんて許されない。

(大ちゃんは・・・まだか)

周りを見回しても愛しの大ちゃんの姿は見当たらない。


「昨日の事、謝りたいんだけどな~」

「何を謝るの?」

不意に耳に入ってきた声は俺の探していた人の声で、ゆっくりと振り返ると、そこにはやっぱり大ちゃんがいて。

「だ、大ちゃん!お、おはよう」

「おはよう。で、ヒロ何かしたの?謝るって言ってたけど」

「あ、いや別に。うん。何でもないよ」

言えるわけないだろ。謝る相手は大ちゃんなんだぜ?心の準備というものが。

「おはよう。貴水くん」

「オハヨウゴザイマス」

当たり前のことのように大ちゃんの隣に立って俺に挨拶をしてくる。
大ちゃんの隣・・・・オレの居場所。

「ねぇ、大介。ちょっと彼と話がしたいんだけど、いいかな?」

俺と話?悪いけど俺には話なんてないんだけど。
新堂の言葉に少し顔を歪めた大ちゃんは小さく頷く。
その様子に違和感を感じた俺は少し心配になる。

(大ちゃん・・・?)

何かあったのか?それとも昨日の事・・・?

「じゃ、貴水くん。ここじゃ何だし、外出ようか」

「ここじゃできない話?」

なるべくならここにいたい。大ちゃんの近くにいたい。

「僕は大丈夫だけど、君が困るんじゃないかな?」

(俺が困る?)

一体何の話をしようとしてるんだ?でも、今の俺にとって困る話といえば、大ちゃんからの別れ話ぐらいだ。

「まぁ、別にいいっていうんなら、ここで話すけど・・・・・」

「けど?」

「大介の為にも、ここではちょっとね」

そう言って大ちゃんのほうをチラリと見ると、また俺の方を向いた。
大ちゃんの為と言われれば従わないわけにはいかない。

「わかった。けど、早くしろよ」

「努力するよ」

俺は新堂の後ろについてスタジオを出ていった。

「・・・大丈夫かな。ヒロ」

2人の後ろ姿を不安そうに大ちゃんが見つめていた。





「で、話って何?」

スタジオを出て少し歩いたところの休憩所に着くと同時に、俺は新堂に問い掛けた。

「うん。・・・何て言ったらいいか、よく分からないんだけど・・・」

どこか遠回しな言い方をする新堂。
俺が困って、新堂が言いにくい話・・・って何なんだ?

「はっきり言えよ。大ちゃんとの事?」

「そうだね。はっきり言った方がいいのかもしれない」

俺の言葉に何か吹っ切ったのか、少しずつ話しだす。

「単刀直入に聞くけど、君と大介は付き合ってるの?」

「そんなの付き合って・・・・」

俺と大ちゃんは、付き合ってるのか?
新堂に言われて俺は少し考える。俺と大ちゃんの関係。
自信が・・・確信が持てない。

「質問が悪かったみたいだね。じゃあ、君と大介はセックスする仲だよね?」

「・・あぁ。それが?」

「僕が口を出すことじゃないのは分かってる。けど、見てられないんだ」

「だから何が?」

コイツの言いたいことが分からない。だんだん、腹が立ってくる。

「貴水君。君には悪いけど大介の為だと思って、もう大介と関わらないでほしい。仕事以外で」

まるで頭を殴られた気分だ。
関わるなって何?俺に大ちゃんと別れろっていうのか?
もう俺は、大ちゃん以外の人を愛せないのに。

なのに!!

何がいけないんだよ!?
俺が男だから?
相手が誰でもない大ちゃんだから?
だから別れろって?
何だよ・・・・一体、何が起きてるんだ?
俺は、どうすればいいんだ。
俺に、どうしろっていうんだよ?

「ヒロ?大丈夫?顔色悪いよ?」

どうやって戻ってきたのか分からない。

目の前には大ちゃんがいて、心配そうに俺の顔色を見ている。

「ね、ヒロ?・・・・って、ちょっと!ヒロ!!」

気付いたら俺は大ちゃんを抱き締めていた。

(温かい・・・)

「ヒロ?・・どうしたの?ねぇ、ヒロ?」

離したくない。この腕の中にいる、温もりを離したくない。

大ちゃんを失いたくない!!

知ってる?大ちゃん。
俺さ・・・俺、もう大ちゃんなしじゃ生きられないんだよ?
大ちゃん。


   タスケテ


「・・・でもない。何でもないよ!なに~大ちゃん、俺のこと心配してくれてんの?」

「な、何バカな事言ってんの?!ほら、準備してよね!」

「照れてる大ちゃんもカワイイv」

そう言って俺の少し前を歩き出した大ちゃんに、再び抱きついた。

「わっ!ヒロ!?離れてよ。動けない!!」

「ヤ・ダ。絶対離さねぇ」

例え大ちゃんが嫌って言っても、俺は離さないし、離れない。
絶対に。一生、大ちゃんの傍から離れない。
離れたく・・・ないんだ。
いつまでたっても俺が腕を放さないと分かると、大ちゃんは観念して俺を引きずるようにしてセットの方へと歩きだした。

「ヒロ・・・・重い」

文句を言いながらも小さな背中で俺を支えて歩く姿に俺は少し笑えてきた。

「何笑ってんの?人がせっかく連れていってあげてるっていうのに」

「あはは、ごめんごめん。ありがとう、大ちゃん」

「別にいいよ。慣れたし」

セットにつくと、俺より先に戻ってきたであろう新堂が待っていた。
俺は新堂の顔を見たくなくて、大ちゃんから離れると今日歌う曲の歌詞に目を通し始めた。
俺の後ろからは新堂と何か話している大ちゃんの声が聞こえてくる。
ときどき、笑い声が耳に入ってくる。
この場から逃げ出したい――

スタッフにそろそろ始めると言われ、俺は大ちゃんに声を掛けた。

「大ちゃん、始めるみたいだけど・・・」

「え?あ、うん。わかった」

とは言うけど、大ちゃんは新堂と話すのをやめない。

(大ちゃん・・・俺の事はどうでもいいのか?)

少し寂しい思いをしながら、再度声を掛けてみる。

「大ちゃ~~ん。歌おうよー」

「あーハイハイ。でも、歌うのはヒロでしょ?」

大ちゃんは新堂との会話を切り上げて準備を始める。
今日歌うのは『SCANDALOUS BLUE』。
スタッフから合図があって、大ちゃんが音を奏でる。
そして、俺は歌いだす。

「・・・・心は君を求めて」

1番のサビに突入。歌い始めてから気付いたんだけど、この歌は今の俺には正直言ってキツイものがある。
歌詞という名の言葉や意味が俺の心に重くのしかかる。
そして、心に響いてくるのもまた事実。

ねぇ、大ちゃんはこの曲どういう気持ちで弾いてるんだ?
他の人はどうか分からないけど、大ちゃんは分かるだろ?
この曲、俺と大ちゃんみたいだろ。
大ちゃんには俺の気持ちって伝わってないのか?
大ちゃん。俺、大ちゃんのこと本気なんだ・・・・本気で愛してる。
でも、結局は俺の一方通行。大ちゃんはきっと・・・俺のこの気持ちを知らない。

「あやまちで終われない・・・・・」

終われない・・・というより、終わらせたくないな。
新堂の言葉が頭から離れない。


ダイスケトカカワルナ



頭の中で木霊する。
考えたくないのに考えてしまう。
俺は大ちゃんを失ったらどうなるんだ?
答えはまだ出ない。いや、出せない。

出したくない!!

考えると恐くなってくる。
俺にとって大ちゃんは必要だけど、もしかしたら大ちゃんにとって俺は必要ないかもしれない・・・・
ラストのサビに入る。


愛だからいけない 行き止まるAffection
それでもいい はぐれても もう君なしでは歩けない
追いかけて探して 瞬間のHalation
儚さが音をたてる 二人の夜に・・’Cause It’s Scandalous


歌い終わった瞬間、俺の中で何かが壊れた気がした。
演奏を終え、大ちゃんが近づいてきた。

「ヒロ、すごく良かったよ!心に響いて・・・・」

大ちゃんが息をのむのが分かった。

「どうしたの?大ちゃん」

問い掛けたら大ちゃんは静かに俺にこう言った。

「どうしたのって、ヒロこそどうしたの?」

「俺?」

大ちゃんの手が伸びてきて俺の頬に触れる。

「何でヒロは・・・泣いてるの?」

切なげな瞳で見つめられる。
俺が・・泣く?
大ちゃんの言葉の意味が分からず目元に手をもっていく。
確かにそこは濡れていた。

俺は無意識のうちに涙を流していた。

「あ、俺・・」
「ヒロ、楽屋いこうか」

大ちゃんは俺の手を握って楽屋を目指して歩き始めた。





「落ち着いた?って、ちょっとチガウかな?」

笑いながら替えの冷たいタオルを俺の目の上にのせる。

(あぁ~~気持ちいい)

まさかこの年になって泣くとは思いもしなかった。
最後に泣いたのはいつだっけ。
もう、今となっては思い出せない。

「・・・・ねぇ、ヒロ。どうしたの?急に」

大ちゃんの声が近くでする。
たぶん、俺の前か横にいるんだろうな。

「・・・・」

大ちゃんとの事を考えてたら泣けました、なんて言えない。
言ってもいいんだけど、大ちゃんの事だから「バカじゃないの?」で片づけられそうだし。

「ヒロ。もしかしてさぁ、あの歌詞が原因?」

その問いに俺はハッとする。

(やっぱり、大ちゃんも・・・・)

大ちゃんも俺と同じように思ってたのかな?

「あの歌詞、僕もビックリした。何か、ボクとヒロの事みたいだなって」

「大ちゃんもそう思ってたんだ」

「うん。ヒロも同じでしょ?」

「・・・・ああ」

沈黙が2人を包む。
室内には時計の音だけが空しく響いていた。
長い沈黙の後――時間にしたら短い――大ちゃんが重く閉ざした口を開いた。

「ねぇヒロ。1つ聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」

「さっき・・・新堂と2人でスタジオを出ていったとき、2人で何を話してきたの?」

口や顔には出していなかったけど、大ちゃんは気になっていたのだろう。
でも、あの話を大ちゃんにどう話せというんだ?ムリだろ・・・

「それに、昨日の事も気になるんだ」

「アレは昨日言ったじゃん。したかったからシただけだって」

少し投げやりな気分で言うと大ちゃんが声を張り上げた。

「違う!!!絶対に違う!!」

「・・・何が違うわけ?」

「何って、よく分かんないけど。でも、ヒロはそんな人じゃない」

勝手・・・だと思う。
大ちゃんはズルイよ。
「何となく」で俺の核心に近付いてくる。・・・ズルイよ。

「ヒロ。答えて。新堂と何があったの?」

「言ってどうなる?」

「それは・・分からないけど、とにかく知りたいんだ。ヒロが今、何を言われて何を考えてるのか。・・・涙の理由を」

俺は少し考えてから大ちゃんにこう告げた。

「言っても大ちゃんには一生分からないことだよ」

自嘲気味に言う俺。

今、君のその瞳には俺はどう写ってるんだろう。
俺は自分が情けないような感じがした。

「どうして決めつけるの?せっかく力になってあげようと思ったのに」

力になる?大ちゃんが、俺の?
何だよ、ソレ。こういう時だけ年上ぶって。
大ちゃんに何が分かるんだよ。俺の何を知ってるっていうんだよ?!

「もういいよ。何を話したかなんて新堂に聞いたら分かることだし。ヒロに聞いた僕がバカだったみたいだね」

大ちゃんは何をイラついてんだよ。イラつきたいのは俺のほうなのに。

「・・・大ちゃん」

俺はタオルを取り、大ちゃんの目を見つめた。汚れのない綺麗な瞳を。

「大ちゃんにとって、俺って何?」

「え?何言ってるの?」

俺の唐突な質問に大ちゃんは戸惑いの色を隠せないみたいだった。
当たり前だよな。いきなり、そんな事聞かれたら誰だって戸惑うだろうな。
俺だって、もし大ちゃんに今の言葉を言われたら頭がパニックになるだろう。

でも、俺はもう限界だった。

大ちゃんの行動。新堂の台詞。
疑惑、不安、恐怖、怒り、嫉妬、愛情―
いろんな感情が交錯して俺の心を支配する。

「俺にとって大ちゃんは・・・大介は大事な愛しい人で、何よりも一番大切にしたい人なんだ。大介にとって、俺ってどんな存在?俺と大介の関係って何?」

本当は口に出してはいけないのかもしれない。
でも言わずにはいられない。
俺にはもう、どれが真実なのか見極めることなんてできないから。
そして何よりも、疲れたから。考える事とか、怒ることとか、いろんな事に。

「ヒロ、僕にとってもヒロは大切な人だよ?どうして今更そんなコト聞くの?」

(そんなコト・・・)

結局、「そんなコト」で片づけられる存在なんだよな。大介の中の俺は。

そういうのって偽善じゃないの?

口で言うのって簡単なんだよな。明らかに俺と大介の「大切」の重みが違うんだよね。

「じゃあ、大介。俺と大介は付き合ってるの?」

「は?そんなの付き合ってるに決まって・・・」

「ホントにそう言いきれる?確かにさ、俺と大介は想いあってるしエッチだってしてる。けど、だからといって付き合ってるの?って聞かれたら、一瞬考えるだろ」

「・・・・・」

「それに、大介は俺が気付いてないと思ってるみたいだけど・・・新堂と寝ただろ」

「!!」

図星かよ。
ま、予想通りというか何というか。
実は昨日の夜、俺は仕事が終わってから先に仕事を切り上げていた大介に車を運転しながら電話をした。
会って話をするために。
だけど、それは叶わなかった。
何コールかした後、電話の向こうから聞こえてきたのは「電源が入っていないか、電波の届かない・・」というお決まりの内容。
こういう場合、大抵が前者の方だ。
これだけで新堂と寝たという確信には繋がらない。

決定的なものがいる。

だが、俺は今朝見つけてしまった。
その決定的となるものを。

「大介のその服、遠くからだと隠れてわかんないけど、こうやって近くにいると見えるんだよね。ソレ」

俺は大介の首筋を指差す。
そこには、小さいけれど大介の白い肌にはキレイに映える赤い印。
昨日なかったものが今日はある。

―動かない証拠。

どんどん青ざめていく大介の顔。もう、ごまかしは効かない。
大介、もう逃げられないよ?どうするんだよ。
俺はそれ以上何も言わず、黙っていた。大介が本当の事を話してくれるのを。
しばらくして、大介が話しだした。そして俺は大介の言葉に衝撃を受けていた。

「あ~あ。バレちゃった。そうだよ、ヒロの言う通り。僕ね、昨日新堂に抱かれたんだ。ヒロも凄いけど、新堂も凄くてさぁ。もう、気持ち良すぎて僕ヘンになっちゃったよ」

笑いながら言う大介に俺は何も言えなかった。
目の前にいるダイスケは、俺の愛したダイスケとは違う。別人だ。

「ねぇ、ヒロ。新堂に言われなかった?僕と関わるなって」

何で知ってるんだ?俺は言った覚えなんてないし、新堂と大介の会話には出てこなかった。
それなのに知ってるってことは・・・まさか。

「あれはね、僕が新堂に頼んだんだ。さすがに自分から、それもヒロにあんな台詞言えないでしょ?だから・・・」


    パンッ!!


乾いた音が楽屋に響く。
気付いたときにはもう、大介に手を上げていた。
そして、俺は・・・また一筋・・・・涙を流していた。

「もういいよ。大介が誰と寝ようと、俺には関係ないことだよな」

「ひ・・ろ・・・?」

「別れようか。大ちゃん」

「・・・・」

「そのほうが都合がいいんだろ?」

「そうだね。別れよう、ヒロ。今まで楽しかったよ。ヒロと一緒にいれて、仕事ができて、楽しかった。バイバイ、ヒロ」

大ちゃんは俺に背を向けると静かに出ていった。
俺は・・・・・その場に座り、泣き崩れていた・・・・・・







「っ・・・ばいばい・・・・大ちゃん・・・」










⇒NEXT
|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  

更新履歴

取得中です。