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*存在理由【執筆者/藍奈】 ---- 俺が この世に生まれてきた 『存在理由』 それは・・・ 街で大切な人を見かけた。嬉しくて近づこうと歩き出して、すぐ止まる。 見てしまったから。君の隣には俺の知らない男。楽しそうに笑っている2人。 「誰だよ・・・ソイツ」 1人呟くと、その光景から目を逸らして人波に逆らって歩き出した。 何も考えたくなくて・・・・・何も見たくなくて・・・・・ただ、ひたすら歩いていた。 「ねぇ、ヒロ。・・・ねぇ・・・・<b>ヒロ!!</b>」 「ぅわっ!な、何だよ」 「何だよじゃなくて、僕の話聞いてた?」 「え?あぁ、うん。聞いてたよ」 「・・・・ならいいけど」 話?そんなの聞いてるわけないじゃん。昨日の事が頭から離れない。 大ちゃんの隣にいた男。あれは誰?大ちゃんの何なんだ? 考え出したらキリがない。 さっきから俺の頭の中は、その事でいっぱいで仕事に集中できない。 (大ちゃんに聞くのが一番なんだけどな) 聞くチャンスならいくらでもある。だって、俺と大ちゃんはいつも一緒だから。 でも、知りたい反面知りたくないとも思う。 というより、怖くて聞けない。これが本音。 「はぁ・・・・」 頭が痛くなってくる。近くにいるのに、すごく遠く感じてしまう。 「なに溜め息ついてるの?ヒロには、そんな暇ないんだからね!」 手に封筒とMDを持って近づいてくる大ちゃんは、難しい顔をして俺に小言を言ってくる。 「溜め息ぐらいしてもいいじゃん。それより、大ちゃん。それ何?」 「・・・・・やっぱり聞いてなかったんだね?さっきの僕の話」 (話?・・・あ゛、昨日のこと考えてたときのか) 「あのね、これは次にヒロが歌う曲の歌詞とデモだよ」 俺の目の前にMDと封筒の中から取り出した歌詞を広げる。 何枚かある中の1つ。その歌詞のある部分に目がとまった。 &html(font color=#cccccc)『恋するだけじゃ傷つかない』呟く君は何処に帰る 本当の君は何が欲しい? 夏はもう終わるのに この歌詞ってナニ。今のオレと大ちゃん?・・・いや、俺の事? しばらくそのまま歌詞に見入っていたら、大ちゃんが声を掛けてきた。 「ヒロ?どうしたの?ボーっとして」 「いや、何でもない」 俺の答えに不満そうにしながらも作業を続ける。 「じゃあヒロ。僕、音調節してくるから曲選んどいてよ!」 そう言うと大ちゃんは、俺に背を向けて小走りにセットの方へ行った。 1人取り残された俺は全ての歌詞に目を通していった。 (さっきのやつ、絶対歌う!) あの歌詞。デモを聞いてないから、どんな音が入るのか分からないけど、何故か無性に歌いたかった。 (そういえば、曲名見てなかったな) 他のと別にして分かりやすい所に置いておいた歌詞を手に取り、曲名を見る。 「DRASTIC MERMAID」 どういう意味だ?MERMAIDは人魚・・・だろ?DRASTICは? 意味は後で大ちゃんに聞くとして、あと何曲か選んだほうがいいよな。 そして、再び歌詞に目を通していった。 俺は3つの曲を選んだ。 1つは一番に気に入った『DRASTIC MERMAID』 2つめは『SCANDALOUS BLUE』 最後に選んだのは『TEAR’S LIBERATION』 3つ選んだ後に気づいたこと。ストーリーになってる。 「さてと、大ちゃんの所に持っていくか」 歌詞が書かれた3枚を手に持ち、大ちゃんの向かったセットの方へと歩いていく。 「大ちゃ~~~~んv曲、選んだけ・・・ど・・・・・」 俺の言葉は最後まで続かなかった。 俺の所だけ冷たい風が吹いている。そんな気がした。 「あ、ヒロ。ちゃんと選んだ?」 「あぁ」 おぼつかない足取りで大ちゃんのもとへ行くと、紙を渡した。 「やっぱりコレ選んだんだ。さっき、ずっと見てたよね」 「うん」 大ちゃんが何か言ってる。でも、今の俺の頭に大ちゃんの言葉は入ってこない。 頭の中は?だらけだ。何に対しての? ―目の前にいる大ちゃんともう1人。 この男の顔は忘れない。 忘れられない!! 「ヒロ~?さっきから変だよ?今だって生返事だし」 「なぁ、大ちゃん」 聞くしかない。怖いけど。でも・・・・知りたい! 「何?」 「この男、ダレ?」 俺はひたと相手の男を見据えながら大ちゃんに問いただす。 「え?あ、ごめん。忘れてた!」 「ヒドイな、大介。忘れるなんて」 初めて聞いた男の声は、俺より少し低い声で男らしい感じがする。 (ダイスケって) かなり親しげな雰囲気の2人に、俺はだんだんイラついてきた。 「だから、謝ったでしょ?」 「ねぇ、大ちゃん。俺の質問に答えてよ」 2人の会話を聞きたくなくて質問に答えるように促す。 「そう急かさないでよね。この人は今回、曲づくりとかイメージづくりを手伝ってもらった新堂 直哉さんだよ」 「新堂 直哉です。君のことは大介からよく聞いてるよ」 「貴水 博之です。どうも。俺と大ちゃんのラブラブ話ですか?」 差し出された手を力いっぱい握り返す。 「ラブラブ話?ははっ、冗談がウマいね」 冗談?!何を言ってるんだ?この男。 分からない。コイツも。大ちゃんも。みんな分からない。 「大介はいつも僕にこう言うんだよ。『ヒロはいい声してて、歌ってるとき凄くカッコイイ』ってね」 「もぅ、やめてよね!そういう事言うの//」 恥ずかしいのか、大ちゃんは顔を少し赤くして反抗している。 いつもなら、こんな姿を見たらスグ抱きついて『可愛いv』を連呼するのだが、今はそんなわけにはいかない。 そんな状況じゃない。 「照れない照れない」 大ちゃんの頭に手を置いて優しく撫でている。 触るな――― 触るな!――― 大ちゃんに サ ワ ル ナ !! 醜い嫉妬が俺を支配する。見たくない。 楽しそうに会話をする2人も、笑い会う2人も、ぜんぶ。全部見たくない!! 「大ちゃん、ちょっといい?」 俺の中で何かが切れた音がした。 大ちゃんの返事を聞くよりも早く、新堂とかいう男から大ちゃんを守るようにして俺はその場を出ていこうとする。 「え?ちょ、ヒロ!何??」 大ちゃんから不満の声が上がるが、ここはあえて無視する。 「いいから、黙ってついてきて!」 俺は大ちゃんを黙らせると足早にこの場を去り、楽屋へと連れて行く。 「ヒロ!いきなり何なんだよ。もう、直哉に失礼でしょ?」   !!!! 今、大ちゃん何て言った?『直哉』って言ったよな?俺の聞き違いじゃなければ。 一体俺の身に何が起きてるんだ? アイツは大ちゃんの事を『ダイスケ』って呼んでて、大ちゃんもアイツのことを『ナオヤ』って呼んで・・・・・まさか!でも・・・・ 「ちょっとヒロ!?聞いてるの?どうかしてるよ、今日のヒロ」 「どうかしてる?・・・・・オレが?」 「そうだよ。僕の話ちっとも聞かないしさ。いつものヒロじゃないよ」 大ちゃんの言葉が俺の心に突き刺さる。 (俺がオカシイのか?) 大ちゃんの言葉の意味がわからない。どうかしてるのは俺じゃなくて、大ちゃんの方じゃないのか? 「何か言った?ヒロ」 心で思ったことが、いつの間にか声となって出ていたのだろう。 「大ちゃんとさぁ、アイツって関係あんの?」 たぶんこの言葉で十分だ。きっと、俺が何を言いたいのか分かったはず。 案の定、大ちゃんは顔を少し赤くして俺から目をそらす。 「な、関係って。ヒロは、いつもそればっかだよね。僕と直哉の関係なんて、ただの友達に・・・」 「なら何で目、そらすんだよ!!」 逃げるようにして出ていこうと歩き出す大介の肩を掴んで、壁に押しつける。 大声を出した俺にビクンと肩を揺らす。 「大ちゃん、アイツとセックスしてんだろ?」 「な!何言ってんの?ヒロの・・・」 「じゃあ何であんなに親密そうなんだよ!?大ちゃんもアイツも、2人とも名前呼びあって、まるで・・・・・」 そう。まるで恋人のよう。大ちゃん。 大ちゃんにとって俺って・・・・なに? 「ヒロ?・・・っ!!どうしたの?何でそんなに悲しい顔してるの?」 大ちゃんの困ったような顔が見える。 悲しい顔?あたり前だろ、そんなの。俺は今、すごく悲しいんだよ。 「大ちゃんのせいだろ?大ちゃんが、アイツと楽しそうにしてるから!それより大ちゃん、早く答えてよ。さっきの質問に」 「ど、どうだっていいでしょ?そんなこと//」 大ちゃんはウソをつくとき、決まってオレと目を合わせようとしない。 (バレバレだよ・・・・・大ちゃん) 否定はしないんだね。大ちゃん。 「確かに、どうでもいいかもな」 半ば投げやりに言うと、俺は大ちゃんの顎に手を掛けると自分の方へ向かせ、何も言わないように無理矢理、大ちゃんの口を俺のそれで塞いだ。 頑なに閉じられている唇を舌で解していき、中に侵入していく。 「んっ・・・ひ・・・ろ・・」 逃げまわる舌を絡みとり、口内を掻き回してやる。 最初は抵抗して俺の体を押しやろうとしていたが、力が抜けたのか、抵抗することをやめたのか。 大ちゃんは大人しく俺のするがままになっていた。 「ふぁ・・・も、や・・・・んン・・・」 それでも時々、僅かな隙間から言葉を発するが、次第にそれは喘ぎに変わる。 散々口内を犯し解放してやると、大ちゃんの口からは呑み込みきれなかった2人分の唾液が流れる。 「はぁ・・・はぁ・・なんで・・・・・こんなこと・・」 肩で息をしながら、大ちゃんは俺に聞いてくる。 何で?そんなの決まってる。 「シたかったから」 「!!」     パンッ!! 「・・・・・・・」 「ヒロのバカ!!」 俺の左頬に見事な大ちゃんの平手打ちがキマった。 呆然と立ちつくす俺の横を通り過ぎ、走って出ていった。 「・・・どっちがだよ」 呟くと、近くにあったソファに腰を下ろす。 大ちゃんに言った答え。正しいようで少し違う。本当は、壊したかったんだ。 君の事を。アイツに奪られそうで。奪られたような気がして・・・ 「はっ・・・サイアクだな。俺、なにやってんだよ」 自分で自分が憎らしい。 (大ちゃん・・・・もう、俺のこと嫌になったよな) きっと大ちゃんは、あの新堂とかいう奴のとこに行ったに違いない。 自己嫌悪になりながら、俺はいろいろ考えていた。 時間にしたらそんなに経ってはいないだろう。 誰かがドアを叩く音がして、返事をすると静かに開く音がした。 「・・・・・もうすぐ、リハ始めるって」 「・・・!!」 振り返ると、そこにはもう姿が無かった。けど、あの声は確かに大ちゃんだった。 俺は急いで楽屋を出ると大ちゃんの後を追った。 「大ちゃん!!」 「・・・・・」 呼びかけても何の反応もない。もちろん、歩くのを止める気配もない。 当然といえば当然だろう。 「大ちゃん、待って!!」 手をのばして大ちゃんの細い腕を掴むと引っ張ってこっちを向かせる。 「大ちゃん・・・俺」 「ヒロ、はなして」 俺の言葉を遮って、手を放せという大ちゃん。 大ちゃんはもう、俺の話を聞いてくれないの? 「やだって言ったらどうする?」 「・・・・・はぁ。分かったよ。ほら、早く行かないと怒られるよ?」 俺の顔を見て諦めたのか、今度は大ちゃんが俺の手を引っ張ってスタジオに向かった。 (怒ってないのかな、大ちゃん) そんな事は決して、というか大ちゃんの性格上ありえないのだが、この態度は妙だ。 大ちゃんの気持ちが知りたい。俺の気持ちを、知ってほしい! (・・・無理だよな~) そんな事を考えてると、いつの間にかスタジオについていた。 スタジオの中に入るとアイツ―――新堂 直哉が近付いてきた。 「大介!!」 心がイタイ。 この男が大ちゃんの事を呼ぶ度に、俺の心にチクチクとトゲが刺さる。 「新堂。どうしたの?」 大ちゃんは俺に気を遣っているのか、「直哉」ではなく「新堂」と呼んでいる。 「・・・・・大丈夫?」 「うん?何で?僕はいつでも大丈夫だよ?」 軽く受け流すと、大ちゃんは俺の手を再び引っ張ってセットまで歩き出す。 そして、俺にマイクを渡すと大ちゃんは俺にこう言った。 「ヒロ。信じてもらえないかもしれないけど・・・」 「何?」 「・・・やっぱ、いいや。ほら、僕のカッコイイ音に負けないような、ヒロのカッコイイ声を聴かせてよね!!」 俺の背中を思いきりバン!と叩くと、大ちゃんは自分の準備に入った。 (大ちゃん。俺はいつでも大ちゃんの事を想いながら歌ってるからね) 今は歌おう。俺は不器用で上手く言葉にして言えないけど、俺は歌手だから。 歌に気持ちをのせることはできるから、大ちゃんへの想いを歌にのせて、伝える。 「・・・・・伝わればいいけど」 照明によって、俺と大ちゃんのステージが浮かび上がる。 大ちゃんがイントロを流し始める。 その音に俺が歌という命を吹き込む。 まるで、俺と大ちゃんのことを表しているかのような歌詞。 &html(font color=#cccccc)―――DRASTIC MERMAID――― 恋するために生まれ変わる 君が今 惑わせる 仕事が終わり、疲れた体を引きずって家に帰りつくとすぐ、俺はベッドの上へと身を投げた。 時計を見るとすでに日付が変わっていた。 「何か、長かったな・・・今日」 誰に言うでもなく1人呟く。 結局、あの後大ちゃんとろくに話せなかったな。 言いたいことがあるのに。伝えなきゃいけない気持ちがあるのに。 何でうまくいかないんだろう。 俺はただ・・・ただ・・・・・ 「大ちゃんが好きなだけなのに」 体が重い。頭も痛い。何も見たくない。何も聞きたくない。 ――知りたくない。 俺はゆっくりと瞼を閉じて、深い眠りについた。 ---- ⇒NEXT
*存在理由【執筆者/藍奈】 ---- 俺が この世に生まれてきた 『存在理由』 それは・・・ 街で大切な人を見かけた。嬉しくて近づこうと歩き出して、すぐ止まる。 見てしまったから。君の隣には俺の知らない男。楽しそうに笑っている2人。 「誰だよ・・・ソイツ」 1人呟くと、その光景から目を逸らして人波に逆らって歩き出した。 何も考えたくなくて・・・・・何も見たくなくて・・・・・ただ、ひたすら歩いていた。 「ねぇ、ヒロ。・・・ねぇ・・・・ヒロ!!」 「ぅわっ!な、何だよ」 「何だよじゃなくて、僕の話聞いてた?」 「え?あぁ、うん。聞いてたよ」 「・・・・ならいいけど」 話?そんなの聞いてるわけないじゃん。昨日の事が頭から離れない。 大ちゃんの隣にいた男。あれは誰?大ちゃんの何なんだ? 考え出したらキリがない。 さっきから俺の頭の中は、その事でいっぱいで仕事に集中できない。 (大ちゃんに聞くのが一番なんだけどな) 聞くチャンスならいくらでもある。だって、俺と大ちゃんはいつも一緒だから。 でも、知りたい反面知りたくないとも思う。 というより、怖くて聞けない。これが本音。 「はぁ・・・・」 頭が痛くなってくる。近くにいるのに、すごく遠く感じてしまう。 「なに溜め息ついてるの?ヒロには、そんな暇ないんだからね!」 手に封筒とMDを持って近づいてくる大ちゃんは、難しい顔をして俺に小言を言ってくる。 「溜め息ぐらいしてもいいじゃん。それより、大ちゃん。それ何?」 「・・・・・やっぱり聞いてなかったんだね?さっきの僕の話」 (話?・・・あ゛、昨日のこと考えてたときのか) 「あのね、これは次にヒロが歌う曲の歌詞とデモだよ」 俺の目の前にMDと封筒の中から取り出した歌詞を広げる。 何枚かある中の1つ。その歌詞のある部分に目がとまった。 『恋するだけじゃ傷つかない』呟く君は何処に帰る 本当の君は何が欲しい? 夏はもう終わるのに この歌詞ってナニ。今のオレと大ちゃん?・・・いや、俺の事? しばらくそのまま歌詞に見入っていたら、大ちゃんが声を掛けてきた。 「ヒロ?どうしたの?ボーっとして」 「いや、何でもない」 俺の答えに不満そうにしながらも作業を続ける。 「じゃあヒロ。僕、音調節してくるから曲選んどいてよ!」 そう言うと大ちゃんは、俺に背を向けて小走りにセットの方へ行った。 1人取り残された俺は全ての歌詞に目を通していった。 (さっきのやつ、絶対歌う!) あの歌詞。デモを聞いてないから、どんな音が入るのか分からないけど、何故か無性に歌いたかった。 (そういえば、曲名見てなかったな) 他のと別にして分かりやすい所に置いておいた歌詞を手に取り、曲名を見る。 「DRASTIC MERMAID」 どういう意味だ?MERMAIDは人魚・・・だろ?DRASTICは? 意味は後で大ちゃんに聞くとして、あと何曲か選んだほうがいいよな。 そして、再び歌詞に目を通していった。 俺は3つの曲を選んだ。 1つは一番に気に入った『DRASTIC MERMAID』 2つめは『SCANDALOUS BLUE』 最後に選んだのは『TEAR’S LIBERATION』 3つ選んだ後に気づいたこと。ストーリーになってる。 「さてと、大ちゃんの所に持っていくか」 歌詞が書かれた3枚を手に持ち、大ちゃんの向かったセットの方へと歩いていく。 「大ちゃ~~~~んv曲、選んだけ・・・ど・・・・・」 俺の言葉は最後まで続かなかった。 俺の所だけ冷たい風が吹いている。そんな気がした。 「あ、ヒロ。ちゃんと選んだ?」 「あぁ」 おぼつかない足取りで大ちゃんのもとへ行くと、紙を渡した。 「やっぱりコレ選んだんだ。さっき、ずっと見てたよね」 「うん」 大ちゃんが何か言ってる。でも、今の俺の頭に大ちゃんの言葉は入ってこない。 頭の中は?だらけだ。何に対しての? ―目の前にいる大ちゃんともう1人。 この男の顔は忘れない。 忘れられない!! 「ヒロ~?さっきから変だよ?今だって生返事だし」 「なぁ、大ちゃん」 聞くしかない。怖いけど。でも・・・・知りたい! 「何?」 「この男、ダレ?」 俺はひたと相手の男を見据えながら大ちゃんに問いただす。 「え?あ、ごめん。忘れてた!」 「ヒドイな、大介。忘れるなんて」 初めて聞いた男の声は、俺より少し低い声で男らしい感じがする。 (ダイスケって) かなり親しげな雰囲気の2人に、俺はだんだんイラついてきた。 「だから、謝ったでしょ?」 「ねぇ、大ちゃん。俺の質問に答えてよ」 2人の会話を聞きたくなくて質問に答えるように促す。 「そう急かさないでよね。この人は今回、曲づくりとかイメージづくりを手伝ってもらった新堂 直哉さんだよ」 「新堂 直哉です。君のことは大介からよく聞いてるよ」 「貴水 博之です。どうも。俺と大ちゃんのラブラブ話ですか?」 差し出された手を力いっぱい握り返す。 「ラブラブ話?ははっ、冗談がウマいね」 冗談?!何を言ってるんだ?この男。 分からない。コイツも。大ちゃんも。みんな分からない。 「大介はいつも僕にこう言うんだよ。『ヒロはいい声してて、歌ってるとき凄くカッコイイ』ってね」 「もぅ、やめてよね!そういう事言うの//」 恥ずかしいのか、大ちゃんは顔を少し赤くして反抗している。 いつもなら、こんな姿を見たらスグ抱きついて『可愛いv』を連呼するのだが、今はそんなわけにはいかない。 そんな状況じゃない。 「照れない照れない」 大ちゃんの頭に手を置いて優しく撫でている。 触るな――― 触るな!――― 大ちゃんに サ ワ ル ナ !! 醜い嫉妬が俺を支配する。見たくない。 楽しそうに会話をする2人も、笑い会う2人も、ぜんぶ。全部見たくない!! 「大ちゃん、ちょっといい?」 俺の中で何かが切れた音がした。 大ちゃんの返事を聞くよりも早く、新堂とかいう男から大ちゃんを守るようにして俺はその場を出ていこうとする。 「え?ちょ、ヒロ!何??」 大ちゃんから不満の声が上がるが、ここはあえて無視する。 「いいから、黙ってついてきて!」 俺は大ちゃんを黙らせると足早にこの場を去り、楽屋へと連れて行く。 「ヒロ!いきなり何なんだよ。もう、直哉に失礼でしょ?」   !!!! 今、大ちゃん何て言った?『直哉』って言ったよな?俺の聞き違いじゃなければ。 一体俺の身に何が起きてるんだ? アイツは大ちゃんの事を『ダイスケ』って呼んでて、大ちゃんもアイツのことを『ナオヤ』って呼んで・・・・・まさか!でも・・・・ 「ちょっとヒロ!?聞いてるの?どうかしてるよ、今日のヒロ」 「どうかしてる?・・・・・オレが?」 「そうだよ。僕の話ちっとも聞かないしさ。いつものヒロじゃないよ」 大ちゃんの言葉が俺の心に突き刺さる。 (俺がオカシイのか?) 大ちゃんの言葉の意味がわからない。どうかしてるのは俺じゃなくて、大ちゃんの方じゃないのか? 「何か言った?ヒロ」 心で思ったことが、いつの間にか声となって出ていたのだろう。 「大ちゃんとさぁ、アイツって関係あんの?」 たぶんこの言葉で十分だ。きっと、俺が何を言いたいのか分かったはず。 案の定、大ちゃんは顔を少し赤くして俺から目をそらす。 「な、関係って。ヒロは、いつもそればっかだよね。僕と直哉の関係なんて、ただの友達に・・・」 「なら何で目、そらすんだよ!!」 逃げるようにして出ていこうと歩き出す大介の肩を掴んで、壁に押しつける。 大声を出した俺にビクンと肩を揺らす。 「大ちゃん、アイツとセックスしてんだろ?」 「な!何言ってんの?ヒロの・・・」 「じゃあ何であんなに親密そうなんだよ!?大ちゃんもアイツも、2人とも名前呼びあって、まるで・・・・・」 そう。まるで恋人のよう。大ちゃん。 大ちゃんにとって俺って・・・・なに? 「ヒロ?・・・っ!!どうしたの?何でそんなに悲しい顔してるの?」 大ちゃんの困ったような顔が見える。 悲しい顔?あたり前だろ、そんなの。俺は今、すごく悲しいんだよ。 「大ちゃんのせいだろ?大ちゃんが、アイツと楽しそうにしてるから!それより大ちゃん、早く答えてよ。さっきの質問に」 「ど、どうだっていいでしょ?そんなこと//」 大ちゃんはウソをつくとき、決まってオレと目を合わせようとしない。 (バレバレだよ・・・・・大ちゃん) 否定はしないんだね。大ちゃん。 「確かに、どうでもいいかもな」 半ば投げやりに言うと、俺は大ちゃんの顎に手を掛けると自分の方へ向かせ、何も言わないように無理矢理、大ちゃんの口を俺のそれで塞いだ。 頑なに閉じられている唇を舌で解していき、中に侵入していく。 「んっ・・・ひ・・・ろ・・」 逃げまわる舌を絡みとり、口内を掻き回してやる。 最初は抵抗して俺の体を押しやろうとしていたが、力が抜けたのか、抵抗することをやめたのか。 大ちゃんは大人しく俺のするがままになっていた。 「ふぁ・・・も、や・・・・んン・・・」 それでも時々、僅かな隙間から言葉を発するが、次第にそれは喘ぎに変わる。 散々口内を犯し解放してやると、大ちゃんの口からは呑み込みきれなかった2人分の唾液が流れる。 「はぁ・・・はぁ・・なんで・・・・・こんなこと・・」 肩で息をしながら、大ちゃんは俺に聞いてくる。 何で?そんなの決まってる。 「シたかったから」 「!!」     パンッ!! 「・・・・・・・」 「ヒロのバカ!!」 俺の左頬に見事な大ちゃんの平手打ちがキマった。 呆然と立ちつくす俺の横を通り過ぎ、走って出ていった。 「・・・どっちがだよ」 呟くと、近くにあったソファに腰を下ろす。 大ちゃんに言った答え。正しいようで少し違う。本当は、壊したかったんだ。 君の事を。アイツに奪られそうで。奪られたような気がして・・・ 「はっ・・・サイアクだな。俺、なにやってんだよ」 自分で自分が憎らしい。 (大ちゃん・・・・もう、俺のこと嫌になったよな) きっと大ちゃんは、あの新堂とかいう奴のとこに行ったに違いない。 自己嫌悪になりながら、俺はいろいろ考えていた。 時間にしたらそんなに経ってはいないだろう。 誰かがドアを叩く音がして、返事をすると静かに開く音がした。 「・・・・・もうすぐ、リハ始めるって」 「・・・!!」 振り返ると、そこにはもう姿が無かった。けど、あの声は確かに大ちゃんだった。 俺は急いで楽屋を出ると大ちゃんの後を追った。 「大ちゃん!!」 「・・・・・」 呼びかけても何の反応もない。もちろん、歩くのを止める気配もない。 当然といえば当然だろう。 「大ちゃん、待って!!」 手をのばして大ちゃんの細い腕を掴むと引っ張ってこっちを向かせる。 「大ちゃん・・・俺」 「ヒロ、はなして」 俺の言葉を遮って、手を放せという大ちゃん。 大ちゃんはもう、俺の話を聞いてくれないの? 「やだって言ったらどうする?」 「・・・・・はぁ。分かったよ。ほら、早く行かないと怒られるよ?」 俺の顔を見て諦めたのか、今度は大ちゃんが俺の手を引っ張ってスタジオに向かった。 (怒ってないのかな、大ちゃん) そんな事は決して、というか大ちゃんの性格上ありえないのだが、この態度は妙だ。 大ちゃんの気持ちが知りたい。俺の気持ちを、知ってほしい! (・・・無理だよな~) そんな事を考えてると、いつの間にかスタジオについていた。 スタジオの中に入るとアイツ―――新堂 直哉が近付いてきた。 「大介!!」 心がイタイ。 この男が大ちゃんの事を呼ぶ度に、俺の心にチクチクとトゲが刺さる。 「新堂。どうしたの?」 大ちゃんは俺に気を遣っているのか、「直哉」ではなく「新堂」と呼んでいる。 「・・・・・大丈夫?」 「うん?何で?僕はいつでも大丈夫だよ?」 軽く受け流すと、大ちゃんは俺の手を再び引っ張ってセットまで歩き出す。 そして、俺にマイクを渡すと大ちゃんは俺にこう言った。 「ヒロ。信じてもらえないかもしれないけど・・・」 「何?」 「・・・やっぱ、いいや。ほら、僕のカッコイイ音に負けないような、ヒロのカッコイイ声を聴かせてよね!!」 俺の背中を思いきりバン!と叩くと、大ちゃんは自分の準備に入った。 (大ちゃん。俺はいつでも大ちゃんの事を想いながら歌ってるからね) 今は歌おう。俺は不器用で上手く言葉にして言えないけど、俺は歌手だから。 歌に気持ちをのせることはできるから、大ちゃんへの想いを歌にのせて、伝える。 「・・・・・伝わればいいけど」 照明によって、俺と大ちゃんのステージが浮かび上がる。 大ちゃんがイントロを流し始める。 その音に俺が歌という命を吹き込む。 まるで、俺と大ちゃんのことを表しているかのような歌詞。 ―――DRASTIC MERMAID――― 恋するために生まれ変わる 君が今 惑わせる 仕事が終わり、疲れた体を引きずって家に帰りつくとすぐ、俺はベッドの上へと身を投げた。 時計を見るとすでに日付が変わっていた。 「何か、長かったな・・・今日」 誰に言うでもなく1人呟く。 結局、あの後大ちゃんとろくに話せなかったな。 言いたいことがあるのに。伝えなきゃいけない気持ちがあるのに。 何でうまくいかないんだろう。 俺はただ・・・ただ・・・・・ 「大ちゃんが好きなだけなのに」 体が重い。頭も痛い。何も見たくない。何も聞きたくない。 ――知りたくない。 俺はゆっくりと瞼を閉じて、深い眠りについた。 ---- ⇒NEXT

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