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これは拙作 未知との遭遇(wikiでは第○種接近遭遇) のサイドストーリーになります
変人さんは以下略
いろいろと自己解釈なのは仕様です、一般的なものとずれているところがあると思うのでご注意下さい

駆けつけ三杯いい気分


 態度の大きい小さなお客様に無事お帰りいただいて香霖堂は静けさを取り戻した。本当に無事だったのかどう
かは蓋を開けてみないとわからないのだが、特にケースの蓋などを。鑑定書は目利きのものだけで十分だ。それ
以外をお目にかかるのはできれば遠慮したい。
 本を読んでいると表からなにやら物音がした。ノックのような、何か硬いもの同士がぶつかり合ったような音
だ。ただでさえ来客の少ないうちにこんな夜更けに誰だろう、日もだいぶ前に暮れて辺りは真っ暗のはずである。
「どちらさまでしょうか? 見ての通り今日はもう閉店なのですが、火急の御用ですか」
 風が吹く音しか聞こえてこない。気のせいだったか口も聞けない状態なのか、流れ着いた外の人間が再思の道
を通って訪れたのなら後者でも疑問はない。大した労力でもないので扉を開けるぐらい吝かではないが。
 戸を開けても誰も見当たらない。しかしどこからか見られている気がする。ねっとりとした嫌なものが背筋を
撫ぜるように……。ふと下を見ると、そこには何かの木の枝が落ちていた。なるほど、さっきの物音はこれが風
に飛ばされてぶつかったものらしい。最近寒さが和らいできたかと思えばもう春か。

 中に戻ってすっかり温くなった茶を飲み干し、本を取り上げたところで視線の端に映るそれに気付いた。外の
窓枠のわずかなスペースにしゃがみ込む、長い毛を頭からのぶら下げた影、薄暗くて顔は見えない。そんきょの
ような姿勢なのだが踵はしっかり地面について膝に肘を乗せている。もちろん窓枠は狭く、そんな態勢をとるこ
となどできはしないはず。重心が後ろになってしまえばあとは飛ぶ以外そこに居座り続ける方法はない。
 つまり、わざわざ飛びながら座ったポーズをとっている。
「ぼーっとしてないでこの窓を開けてよ。はめガラスじゃないのはわかってるから」
 コンコンと硬い音を立てている。こんな時間に現れて名も名乗らずに開けろとはずいぶんと勝手な言い分だ。
まともな人間ならまず聞き入れない。
 ガチャリ。
「ん、ありがとう」
 死ぬことはないだろう。

 白髪の少女はもんぺに手を突っ込んだままじろじろと嫌な視線を向けてくる。時たまへぇだのふぅんだの呟い
ているのは何だろうか。しかしその彼女の眼は低い視点の割にやたらと圧迫感がある、おそらく背筋を伸ばして
も霊夢と同じ程度、今は背を丸めているので魔理沙ほどもない。それなのにむしろ見下ろされているような感覚
さえある。
「あんた名前は? 森近霖之助?」
「知っているなら聞かなくていいじゃないか。あと人に名前を聞くときは自分から名乗ったらどうだい?」
 確認だよと笑うとさらりと名乗った。藤原妹紅、丈夫な体が自慢の兎小屋の監視員だそうだ。管理人ではなく
監視員とは、里にはすいぶんと独創的な職業があるらしい。用はずばり見物。
「見物?」
「見物。慧音に近づく虫がいると聞いてね、必要なら駆除しようかと思って」
「君が彼女のなんなのかは知らないけど、そんな事実はない。それより君は何なんだ? 妖怪の気配はまったく
 ないけど人間の匂いもしない。時計すら持ってないんじゃないかい? 強いて言うなら人形だ」
 彼女――妹紅と言ったか――妹紅はカラカラと笑いだす。
「いつぞやの人形遣いもなかなかだったけどあんたはそれ以上。人形か……いいね。蓬莱の人の形、蓬莱の人形、
 私にぴったりね」

 妹紅は座ることを許してくれない。一通り見物を済ませると何やら尋問めいたことを始めた。
「本当に慧音とは何もないのか?」
「嘘をつくな、おねぇさん何もしないから正直に言ってごらん」
「信じがたいわね、本当に本当? ……衆道?」
 失礼な話だ。僕より頭ひとつ小さいくせに態度が大きすぎる。おまけに邪推しっぱなしだ。
「こう見えて僕はだいぶ年増なんだ。君がなんなのかわからないが多少気を回してほしいところなんだけど」
 それなりにまじめに言ったのだが、妹紅は面白い話を不意にされたかのように笑い始めた。
「おいおい香霖堂、ついさっき自分で言ったことを忘れたのか? 少し買い被ったかな。私はあるやつのせいで
 こんな見てくれだけど大年増なんだよ。一度手を出しゃ成長忘れ、二度手を出しゃ病苦を忘れ、三度手を出し
 ゃ輪廻を忘れる、そんなものに手を出しちゃって今じゃこの有様よ」
 妹紅は両手を軽く持ち上げ自身を眺め見る。それはどう見ても十代半ばほどのいたいけな少女にしか見えない。
「この形(なり)で齢千を超える人間と言って、誰が信じるかしら」
「それじゃ蓬莱の人の形っていうのは……?」
「いわゆる不老不死ってやつよ。にしてもこの店はサービスが悪い、客に酒どころか茶だって出さない。商いや
 るなら涎垂らして待ってるだけじゃだめだ、そんぐらいなら牛だってできる。知恵があるならそれらしく客を
 出迎えなきゃうまく行きっこないね」
 タダで話してやるのはここまで、もっと込み入ったこと聞きたきゃお足をだしな。妹紅はまた笑う。もしかし
てすでに酒が入っているのではないだろうか。さっきからまるで笑い上戸だ。
「店は閉店だ、僕は見知らぬ無礼者に酒を振舞ってやるほど器が大きくない。それに知りたかったことは幸いに
 して無料の品だったらしい」
 なら一杯ぐらいサービスしてもいいじゃないの、人を突っ立たせたまま、僕が腰かけていた椅子に座ってしま
った。

「にしても本当に慧音のこと何も思ってないのかい?」
 彼女は見てて面白いとは思うがそれまでだ。
「顔は悪くないと思うけど」
 最近覚える羽目になってしまった顔を思い浮かべる。まあ、確かに男受けしそうではある。
「胸に肉がついてる方が男はいいんだろ? ああ、でも身長が高いのはマイナスなのか」
「僕が半妖なのはわかってるんだろう。そんな些細なことが関係あるかい」
「それもそうか。ちょいと堅くてお節介だが性格も悪くない、頭もいいときてどこに不満があるっていうんだ。
 お前の片親がなんの妖怪かまではわからないけど、人間に比べりゃ寿命だってだいぶ近いだろう?」
 言われてみればそうだ。条件は整っている。しかし――
「興味がなければ仕方がないだろう。ところで君はついさっき自分で言ったことを忘れたのかい? 君は何をし
 にうちにきたんだ」
「何ってもちろん……あ」
 害虫駆除に来たのか人を害虫に仕立てあげようとしていたのか、わからない。

「おかしいな。慧音のがうつったかな……。じゃっ! そういうわけで」
 妹紅はさかさかと何事もなかったかのように逃げようとする。どうやら玄関を使う気はないようで、窓枠に足
を掛けた。
「無限の時を持つ蓬莱人がただの半獣に肩入れする理由を教えてくれないか? 僕は今日いろいろ質問された。
 最後にそれくらい教えてくれたっていいだろう」
 先程から気になっていたことを聞いてみた。すると彼女はさも当然のようにのたまう。
「慧音が好きなんだよ。おっと変な勘ぐりはするな、親愛の方だ。遺して逝かれるのが決まってようが好きな人
 の幸せを願うのは当然のこと。香霖堂、お前は害がなさそうだからほっとくよ。こっから先は慧音が決めるこ
 とだからね」
 僕の意思は関係ないらしい。できれば慧音とは末永く友人でありたいものだ。
「おまけにいいことを教えてやろう。不老不死になりたきゃ酒を飲みな、百薬の長って言うだけあってかなり効
 く。一杯引っかければ自分の老いを忘れ、二杯あおればうき世の苦しみも忘れ、三杯目に至っちゃもうなにが
 なんだかわからない、自分がいる場所が極楽か地獄かそれ以外か、もね。これが蓬莱の秘薬で無くって何が蓬
 莱だ。永遠ってのは案外近くに転がってるものよ」
 窓から一人の永遠が飛び立った。再生の象徴の姿をした蓬莱人は辺りをことごとく照らし、やがて見えなくな
る。あれだけの光量を発していれば、いかな僕だって気付かないはずがない。おそらく炎を出さなくとも空ぐら
い飛べるのだろう。
 魔理沙だって空は飛ぶ、蓬莱人が飛べても別に驚くことはない。ではなぜ来店時には見せなかったか。一応彼
女に認められたということだろう。僕はそんなことを望んではいないのだけど。























NGテイク
 中に戻ってすっかり温くなった茶を飲み干し、本を取り上げたところで視線の端に映るそれに気付いた。外の
窓枠のわずかなスペースに奇妙なポーズで立つ、切りそろえられた前髪を持つ影、薄暗くて顔は見えない。その
ポーズはある種彫像のような美しい筋肉の躍動を感じさせる。もちろん窓枠は狭く、そんな芸術的な態勢をとる
ことなどできはしないはず。つま先立ちなので足場は良くとも上半身が邪魔になる。そこに居座り続ける方法は
ないはずだ。
 つまり、何らかの不思議な力が働いている。
「敵の攻撃を受けている! スティッキィ・フィンガーズ!!」
 なにやら奇声とともに不可思議なポーズをとった。どうやら窓を開けてほしいようだが、まともな人間ならま
ず聞き入れない。
 ジジィィィィイイイ。
 突如窓にジッパーが現れ、それを下ろすと斜めに窓がぱっくりと開い

ジッパーで隠されました。続きを読むには「矢」を用いてスタンド能力に目覚めてください。