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 月のない夜、瞼を開き、目に慣れぬ暗闇に安堵の息を付く。
 傍らで息づく夜陰の気配が、未だ離れていない事に喜びを噛み締め。
 常闇の中、記憶に翳む彼女の姿を想いながら、二度目の眠りに落ちる。
 忘れてしまった遠い過去の想いを夢見るために。



   ■



 かつて、まだ幻想郷を大結界が蔽うより以前のこと。あれは、たしか明治初期の
頃だっただろうか。
 文明開化により国外からの往来が徐々に増えてゆき、それに伴い西洋妖怪もまた
多数日本に入り込んで来た時代だ。
 僕は、その頃にはすでに魔法の森の入口付近に建てられていた庵に人知れず住ん
でいた。
 当時は古道具屋を営むような事もしていなかったので、勝手に商品を持ち出す魔
法使いや、ツケ払いと言って強引に商品を持ち帰る巫女なども居らず。
 本当に人知れず、独り何をするでもなく、ただ生きているだけのような生活を続
けていた。

 そんなある日の事、いつもの様に薄暗い自室の隅で本を読んでいた僕は急に窓の
外から漏れる陽光が消えたことに困惑することとなった。
 首を傾げながら手元に置いていたランプを手に壁際に置かれた洋時計を覗き込も
うとすると、僕をあざ笑うかのように時計は鐘の音を鳴らし始める。
 十二回目で途切れた鐘の音に、僕は今が午後零時である事を理解した。
 だが、もちろんそんな時間に夜がくるわけは無く、かといって時計が故障してい
るわけでもない。
 そもそも僕自身、外の景色が真昼から闇夜へと変わる瞬間を目にしたのだから時
計の不正を疑う必要はないのであるが。
 すわ、天照大神が天岩戸へ隠れでもしたのかと、野次馬根性を発揮した僕は数年
ぶりに庵の外へと出たのであった。

 しかし外に出たからといって、宴に興じる神々や女神の舞が見れるわけも無くた
だ、暗く深い闇が辺りを覆うばかり。
 あてども無く森の中を歩き回れば、すべからく道に迷うは道理である。
 迷走すること幾星霜、とまではいかないまでも既に足は棒になる程歩き通し、気
が付けば辺りは真の常闇。
 あまり信頼できない体内時計によれば、すでに『本物』の夜が訪れていても良い
時間になっていた。
 次第に歩く気力も薄れ、元々無いに等しい体力も尽きて地べたにへたり込む、そ
んな僕の元に新たな異変が舞い降りた。

 死臭、それも大量の人間の発する死の匂いが前方から漂ってきたのだ。
 半分妖怪とはいえ、大した妖力も役に立つ能力も持たない僕は、君子危うきに近
寄らずの精神で、慌てて立ち上がり回れ右をしようとする。
 しかし、当の異変の方はというと、どうやら僕を逃がすつもりはさらさら無いよ
うだった。

「あら、こんばんは良い夜ね」

 死の匂いの中心で常闇が宣もうた。

「あぁ……、こんばんは良い夜ですね、もっとも僕にとっての、であるかと言えば
は甚だ疑問ではありますが」

 声をかけられた僕は逃げるのを諦めて闇の中心へと声を返した、気配からしてど
うやら途方もない大妖であることが判ったからだ。
 基本的に強大な力をもつ妖怪は、同じく大きな力をもつ妖、もしくは特別な力を
持つ人間にしか興味を持たない事が多く、敵意を向けずに紳士的に対応すれば危害
を加える事は殆んど無いからだ。
 もちろん、そのような大妖相手に逃げ遂せることが出来るほどの足の速さを僕が
持ち合わせていない事も理由の一つではある。

「ところで、あなたに少し質問があるのだけれど良いかしら?」

「はあ、僕に答える事の出来ることならば幾らでも答えますが」

「あなたは、取って食べても良い人間?」

 前言撤回、僕は残された全ての体力と全ての気力を脚力に変えて、その場から全
力で逃げ出した。
 半場やけくそ気味に足の回転を速め、八百万の神々に片っ端から自らの無事を祈
りながら、暗い森の中を走り続けた、しかし、ふと僕は気が付いた。
 先ほどの闇の主が追ってこないのである、撒いたとは欠片も考えられない、それ
ほどまでに強大な力を相手から確かに感じたのだ。
 見逃された? しかし、先ほど感じた死臭の数は絶望的なほどに容赦の無い有様
だった、僕だけが見逃されるとは考えにくい……それでは一体?

 数刻後、気が付けば僕は元の場所へと戻ってきていた、住処としている庵にでは
なく死臭漂う常闇の元へと。

「酷いわね、急に逃げ出すだなんて」

「あんな事を言われれば逃げ出すのは当然だと思うのだけれど……」

 酷い、と言いながらも欠片も傷ついていないような声に向けて、弱者として当然
の感想を返すと、先ほど来た時よりもさらに一歩、闇の中心へと向けて足を踏み入
れる。
 そうして、ようやく僕は声の主の姿を御目にかかることができた。
 黒を基調とした洋服に、腰元までとどく絹のように艶やかな亜麻色の髪、聖女の
ような微笑を浮かべた容貌は美しく、その肢体からは、えも知れぬ色香を漂わせて
いる。
 しかし、その姿は返り血と自らの流す血に汚れ、両腕は一見して名刀と判る二口
の太刀によって彼女の背後に佇む巨木へと縫い付けられていた。

「……その姿は?」

「そうね……聖者は十字架に磔られました、という風に見えるかしら?」

「どちらかというと、凶悪な悪魔が封じられました、という風に見えるね」

 どうやら彼女は動くことが出来ないようだと安心した僕は、それでも慎重に距離
を取りつつ軽口を叩く。

「まあ、当たらずとも遠からずね、まったく忌々しいものだわ」

 僕の推測は当たっていたようで、彼女はただ煩わしいといった様子で自らの両腕
を縫いとめる太刀を一瞥すると溜息をつく。
 それでも、欠片も動揺した様子を見せないあたりは流石大妖という事なのだろう、
夜闇の中、目を凝らし周りを見回すと彼女を巨木へと封印したと思しき集団の成れ
の果てが所狭しと散らばっているのが見てとれた。

「この国に着いて、やっと良い具合に襲い易そうな人間の集落を見つけたというの
に、たった二、三人殺しただけで大勢に寄って集って追い回されたわ、この国は教
会もまだ少ないと聞いて穴場だと思っていたのに……」

「それは、まあ災難でしたね……」

 主に襲われた人間と殺された退魔の者が、とは流石に自重して言わなかった。
 その所為か、僕が彼女の境遇に賛同する者だと認識されてしまった様で、彼女の
故郷に存在する退魔師の集団(?)に対する文句や最近の人間の襲い難さなどの愚
痴を延々と聞かされる羽目になった。

 長い間、彼女の話を右耳から左耳へと聞き流していると、やがて夜は明け始め、
世界が白み始める。
 時間は有限であり、明けない夜は無いのである、それに気がついた彼女はという
と、先ほどまでの勢いはどこへやら、急にしおらしくなると視線を地面へと落とし
た。

「太陽は嫌いなのよ……この変な形の剣の所為で常闇の能力も使えないし」

 その一言で僕は合点が着いた、先ほどの、というには些か時間が立ち過ぎた間が
あるが、とにかく昨日の昼間に突如真夜中の如き闇が訪れたのは彼女の能力による
ものだったのだ。
 思うに、その能力を使用して闇に乗じて人間の里を襲おうとしたのだろうが、し
かし突然昼が夜へと変われば誰だって不審に思うし、直ぐに妖怪の仕業と思い至る
であろう、退魔の者たちが挙って押し寄せるのも無理は無い。
 納得のいかない様子でションボリと頭を垂れる、この強大な力をもつ割に迂闊な
性格の大妖の姿に、どうやら僕は珍しく同情をしてしまったようだった。

「良ければその太刀を抜いてあげようか?」

「……本当に?」

 僕の一言に顔を上げ期待に目を輝かせる彼女……こんな単純な相手に恐怖に怯え
ていた過去の自分が馬鹿みたいに感じてしまう。
 しかし、仮にも彼女は大妖、実力も凶悪さも折り紙つきなのは周りに散らばる肉
片を見れば周知の事実、油断して直ぐに開放するわけには行かないのだ。

「もちろん、ただでとは言わないよ……そうだね、まずは貴女が自由になった後の
僕の命の保障を誓ってもらおうか、太刀を抜いた瞬間襲い掛かられるのは御免だか
らね、もちろんこの誓いはただの口約束じゃない、儀式に則った魔術的な誓約だ」

「わかったわ、私は自由になってもあなたのことは襲わない……肉が少なくて食べ
難そうだしね」

 最後に呟かれた一言に何故か微妙に釈然としないものを感じながらも僕は安堵を
感じていた。

「それともう一つ、まぁ、これは君に断ることでは無いとは思うのだけれど……そ
の君を封じている太刀、それは僕が貰う」

 その言葉に、彼女は美しい容貌を歪めて唸りはじめる……やはり、僕が危惧して
いたように彼女は自由になれば、腹いせに太刀を破壊するつもりだった様だ。
 しかし、道具には罪は無いのである、折角の名刀をこんな事で失うのも馬鹿々し
いし、何よりも、こんな事に半日以上も付き合わされた僕に対して少しぐらい御褒
美がないと割に合わないのだ、ここは譲れないのである。
 うーうーと暫く唸っていた彼女は、しかし僕の意思が固いと悟ると不承不承に頷
いた。

「……仕方が無いわね、その剣はあなたにあげるわ、本当に癪に障るのだけれど」

 その言葉を確認した僕は彼女の側へ慎重に近づき恐る恐る太刀を掴む、やはりこ
の太刀は類まれなき名刀だ、銘は無いようだが幾多もの妖を屠ってきた為か既に妖
刀の域へと達している、それが二口、思わず口元が綻びそうになる。
 そんな僕の様子に気付いた彼女からの無言の殺気に慌てて太刀を掴んだ腕に力を
込める、その瞬間、思いの外簡単に彼女の腕から刃が抜ける、もう片方の太刀も力
を込めると拍子抜けするぐらい簡単に抜けた。

「はい、抜けたよ……調子はどうだい?」

 彼女は太刀の刺さっていた箇所を擦りながら少し考えた後に言った。

「まだダメね……その剣の所為で力が上手く出せないわ、どこか日の当たらない安
全な場所で力を蓄えないと、あなた……そんな場所を知らないかしら?」

 その言葉に一瞬、住処である森の入口の庵を思い浮かべたが、直ぐにその結論を
取り消した、彼女のような大妖と一時とはいえ一緒に住むなどと考えられない、表
情に出さないように否定の言葉を出そうとするが、そんな僕の言葉を遮るように彼
女は得心したように頷くと。

「どうやら、当てがあるみたいね、すぐに案内しなさい」

 と、当たり前のように命令を下した。

「まさか君は心を読む事も出来るのか……?」

 心を見透かされた僕は当然のように驚きの声を上げるが、しかし彼女は何が楽し
いのかケタケタと笑いながら。

「まさか、あなたの瞳が口以上にモノを言っているだけよ」

 そう言って、パチリと器用に片目を瞑って見せるのだった。



  ■



 それからというもの、僕と彼女の共同生活が始まった。

 とはいえ、今までの独り暮らしと何が変わるものでもなく、人知れず独りで生き
ていたのが、人知れず二人で生きていくようになっただけであった。
 昼間の明るいうちは室内の隅で日の光から隠れるようにして過し、夜になると窓
から見える月を見て酒を嗜む。
 ランプの光は彼女が眩しいと言うので、以前の様に本を読む機会は少なくなった
がそれ以外は概ね以前と変わらない生活が続く。

 ある時に、彼女の名前をまだ知らない事に気がついた僕は彼女に名を尋ねた。

「名を名乗るのは良いのだけれどあなたの名前を私はまだ聞いていないわ、一方的
に聞くのはフェアじゃないでしょう?」

 そう返されてしまい僕は狼狽してしまった、確かに他人に名前を聞くのに自分の
名を明かさないのは不義理であろう、しかし……。

「すまない、僕には名前は無いんだ」

 そう、当時の僕には名前というものが無かった、もともと親が名付けなかったと
いうのもあるが、自分で自分の名を付けるという行為が、自らの存在の意味を決定
付けてしまう事が何故か怖かったのである。

「そう、なら私も名前を持っていないわ」

 僕の内情を知ってか知らずか、彼女はそう言うとつまらなそうに僕から視線を離
した。



 またある時には、彼女の方から僕に話しかけてくる事があった。

「あなたの匂いは変わっているわね」

「風呂には毎日入っている筈だけど?」

 体臭がキツイのだろうかと首を捻りながら自身の体の臭いを嗅ぐ僕の様子に、彼
女はケラケラと笑う。

「違うわ、あなたからは美味しそうな匂いと不味そうな臭いが混ざった様な妙な香
りがするの」

 何だそれはと思いながらも、何となしに思いついた事を僕は答えた。

「ぼくは半妖だからね、きっとその所為だろう」

 だから食べてもきっと美味しくないよと冗談交じりに言うと、彼女は何故か不満
げな様子だった。

「それ、初めて聞いたわ」

「今日、初めて聞かれたからね……」

 当時の僕には彼女の不満の意味が判らなかったために、そう答える事しか出来な
かったのだが。
 後になって、もしかしたらいつか僕の事を食べようと各策していたのかも知れな
いと思い至り、出会った時に誓約を科したのは正解だったと胸を撫で下ろしたもの
である。



 そんな何気ない日常は、しかしいつまでも続く事は無かった。
 彼女はある日、僕の庵から姿を消したのである。
 ただし別に彼女と喧嘩別れをしたという訳ではなく、何か離別の要因となる事件
が起きたという訳でもない。

 ある月のない夜、彼女は既に特等席となりつつあった部屋の最奥の暗がりから立
ち上がると僕に外出の意を伝えて庵の外へと出て行ったのである、その頃になると
彼女の力も戻りつつあった様で、よく外出するようになっていた為、僕も特に気に
する事も無く彼女を見送った。

 それから十数日、幾ら待てども戻らない彼女に徐々に不安に駆られた僕は、外へ
出ると彼女の姿を探して走り回った。
 少しでも彼女の足取りが掴めないかと庵の周辺を隈なく探した、遠い妖怪の山へ
まで出向いて居ない彼女の姿を追いかけた、苦手だった人里へと赴き人間たちに彼
女の事を聞いて回った、幻想郷のありとあらゆる場所を尋ね歩き、終には探す場所
が無くなった。

 そして最後に、僕は意識的に遠ざけていた場所、初めて彼女と出会った想い出の
場所へと赴いていた。
 しかし既に彼女と出会った当初の痕跡は全て無くなっていた。
 妖怪か獣にでも食べられたのだろう、あれだけ散らばっていた人間の肉片は綺麗
に消えていた。
 そこらかしこに存在した血痕も長い風雨によって流されていた。
 彼女が繋ぎ止められていた巨木の傷は、この森特有の強い生命力によって既に塞
がっていた。

 こうして僕は、彼女が完全に僕の側から居なくなったのだと理解した。


 その後、僕は自身がどのような行為をとったのかを思い出すことが出来ない。
 急に姿を消した彼女に対して怒りを覚え、姿の見えぬ相手へと罵倒したのだろう
か。
 もしくは、彼女が居なくなった寂しさに耐え切れずに涙を流し声をあげて泣いた
のだろうか。
 それとも、ただ元の生活に戻るだけだと、平然と気を取り直すことが出来たのだ
ろうか。

 そして、未だに判らない事が一つ、彼女は何故に姿を消したのか。
 僕との生活に嫌気がさした? 力が戻り僕の元に居る必要が無くなったから?
 それとも外出の折に、何か……そう、例えば強力な力を持つ人間、博麗の巫女な
どによる妖怪狩りにでも……。

 いや、止そう……当時の僕が何を想い、彼女にどんな理由があったにせよ、結局
のところ彼女が僕の元から居なくなり、そして戻ってくる事が無かったという事実
があるだけなのだ。


 そして、それは、あれから何年たったのかも判らない、遠い遠い遥か過去の古い
想い出の出来事なのだ。
 記憶は翳り、夢に見ることでしか思い出すことのできない擦り切れた想い。
 この夜が明ければ、この疑問も彼女への想いも僕は忘れてしまうのだろう。

 ああ、瞼の向こうで、太陽が上る気配を感じる。
 あと少し、もう少しだけ待ってくれと天を照らす神へと祈りながら、僕は完全に
日が昇りきるまで古い記憶にまどろみ続けた。



  ■



 日の照らす午後、汗を拭き、変わらない世界に目を細める。
 燦々と降り注ぐ強烈な光に、全くの翳りが無い事に苦渋を噛み締め。
 陽光の中、店を壊した少女たちの姿を思いながら、何度目かの悪態をつく。



 ありのまま起こった事を話そうか……。
 惰眠を貪り、昼まで眠りこけていたら何故だか店が半壊していた。
 何を言っているのか判らないと思うが、僕も何が起こったのか判らなかった。
 頭がおかしくなりそうだ、『すまん』だとか『修理代はツケでお願い』だとか
 そんなチャチな書置き如きで許せる事では断じてない。

 いまだ嘗てない憤りの片鱗に身を震わせながらも、僕は工具を手に修理を再開す
る。
 流れ落ちる汗に苛立ちを募らせながら、斜めに歪んだ『香霖堂』と書かれた看板
を修復していく。
 数刻かけて何とか元の姿に戻すことが出来た店(の一部)の出来に、自画自賛し
つつ休憩を入れようと腰を下ろしたその時、僕は妙なものに気がついた。

 空中をふよふよと浮かぶ黒い点、それは次第に大きくなってくる。
 どうやら、黒い球状の何者かがこちらに向かってくるようだ。
 店がこんな状態の挙句に厄介事は勘弁して欲しいのだが、きっとその祈りは通じ
まい、現実とは得てして残酷なものなのである。
 そんな事を考えていると案の定、黒い球は店の近くまで飛んでくると。

 ゴンッ

 という鈍い音をたてて『修理したばかりの看板』にぶつかった。
 そして、そのまま地面へと落下、衝撃で外れた『修理したばかりの看板』の下敷
きとなり

「あ痛たぁ……ふぎゅっ」という何やら可愛らしい声をあげて沈黙した。

 さて、どうやら、あの謎の黒い球は妖怪の一種のようだ。
 一瞬だが言葉を発していた事から考えて、いくらかの知恵もあるようだ。
 大方、身体の周りに闇を発生させる能力を使っていたためにあのような姿だった
のだろう。
 しかし、その所為で前方が見えずに店にぶつかったというのは間が抜けていると
しか言いようがないが、僕の大事な店を壊したのだ、責任を持って修理をしてもら
わなければなるまい。

 どうやって口車に乗せ、いや説得してやろう……そんな事を考えながら、未だに
看板の下敷きになってジタバタともがいている亜麻色の髪を持つ少女を助け出すた
め僕は重い腰を上げた。



  ■





















「あ~、もう酷い目にあったわ、あら……あんた誰?」

「ようこそ香霖堂へ、僕は森近霖之助という古道具屋を営んでいる者だ、君は?」

「私はルーミア……ねえ、あんた昔に会ったことなかったっけ?」

「いや、無いと思うが……まあ、それより君に少し重要な話があるんだが」

「そうなのかー」