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あらすじ

アリス、霖之助に協力してもらって日本人形を作成。
完成のお礼に料理を振舞う(作ったのはアリスの人形)。
霖之助への好意を自覚した。



「ご馳走様。実に美味しかったよ」

「はい、お粗末さまでした」

食事が終わった後も2人の会話は途切れることはない。話題は主に今日完成した人形について。
どこどこが大変だった、あそこは割りとスムーズに行ったとアリスが語り、
その割には良くできていた、流石高名な人形遣いだと霖之助がほめる。
会話は収まる所を知らず、むしろさらにヒートアップしていく。
霖之助が人形を手に取って、細かい箇所を指で示しながら語り出し、アリスも霖之助の真横に腰を下ろして手元を覗き込む。
その状態で霖之助の講釈を聞いているうち、いつのまにか霖之助にしなだれかかるような体勢になっていることに気付く。
そのときアリスが感じたのは、拒絶でも喜びでもなく、驚きだった。
話に夢中だったとはいえ、自分がここまで無防備に他人に近寄っていることに。そしてその相手が男性であることに。
しかしその変化は忌避する類のものではない。むしろなんとなく心地よさを感じる変化と言えた。
こうなると気になってくるのは霖之助がどう思っているのかである。
こっそり様子を伺うが、霖之助のほうは気にした様子もなく口を動かし続けている。

別に霖之助を誘惑するつもりはない。
好意を抱いていることに間違いはないが、まだ積極的にどうこうなりたいというほどに強いものでもない。
それでも自分は女性で、彼は男性だ。こんなに近くに居るというのに、本当になんとも思っていないのだろうか。
そもそも自分から通っていたとはいえ、ここ数週間の間に何度も2人きりになることがあった。
それなのに、一度も自分はそういう目で見られなかったのか。
自分もついさっきまでそういう目で見ていなかったことを完全に棚に上げているが、まあそこはご愛嬌。
とにかく、ちょっとだけ女としてのプライドが傷ついたアリスだった。

「おや、もうこんな時間か」

気付けば日はすっかり落ち、辺りはすっかり闇の帳が落ちていた。

「普段なら帰るよう促すところだが……」

そう言いつつ立ち上がった霖之助は、ちょっと待っていたまえと言い残して奥に引っ込む。
戻ってきた霖之助の手には酒瓶とお猪口が2つ握られていた。

「これは霊夢の略奪から運よく逃れた一品でね。折角のお祝いだし、今日飲んでしまおう」

霖之助としても、完成した人形を褒めるだけでは物足りない。
優秀な弟子を労うべく、縁側に出て月見酒と洒落込むことになった。

「僕はこうして月を肴にちびちびとやるのが好きでね。
 魔理沙なんかは『酒は豪快に飲んで豪快に酔うもんだぜ』などと言って風情を楽しむということをしない。
 その点、君は繊細さで言うと魔理沙とは比べ物にならないし、きっと理解してくれると思うんだが」

乾杯、と杯を軽く合わせ、注がれた酒を少し口に含む。
普段余り酒を飲まないアリスでも、なんとなく良い酒なのだろうとわかった。

「これって結構いいお酒じゃないの? 私より他にお酒の事がよくわかる相手がいると思うんだけど」

「構わないさ。君は僕にとっていわば弟子のようなものだ。頑張った弟子にご褒美を上げるのも師匠の義務というものだよ」

「そう、そこまで言われちゃ断るのも失礼ね。ありがたく頂くわ」

先ほどまでとは打って変わってほとんど会話はなかったが、アリスも霖之助もこの雰囲気を楽しんでいた。
杯を開けては互いに酒を注ぐ。月を眺め、風の音を聞き、ちびりちびりと酒を味わう。
たしかにこれは良い。じんわりとなんともいえない心地よさが広がっていく。

「霖之助さん」

「うん?」

「ありがとう。今日は最高の一日だわ」

月を眺めながらそうささやく。
白い肌は酒のせいかうっすらと上気し、月明かりを受けて神秘的なまでに美しい。
そして何よりも、その微笑みがとても綺麗で、思わず我を忘れて見とれていた。

(参ったな・・・)

自分は当の昔に枯れ果てている。そう思っていたが、

(僕の中にも、まだ男としての感性が残っていたとはね・・・)

そんなことは、自分の勝手な思い込みに過ぎなかったようだ。