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あらすじ

香霖堂へ買い物に来たアリス。
霖之助に和裁と洋裁の違いを語られる。
和裁と霖之助に興味が湧いたので頻繁に通うことにした。



「ふう……なかなか上手くはいかないものね……」

ここは魔法の森、七色の人形遣いことアリス=マーガトロイドの自宅である。
数週間前、香霖堂に足を運んだ際に和裁と洋裁の違いについて店主の霖之助に語られ(後半はむしろアリスが強引に聞き出していたが)、人形作りに活かせることがありそうだと、試しに日本人形を作ることにした。
コンセプトが違うとはいえ基本は同じ人形、すぐに完成させてみせると意気込んだアリスだったが、現実はそんなに甘くはなかったようだ。

「おかしいわねえ。この前聞いたとおりにやってるはずなんだけど。ちょっと確認してもらったほうがいいのかしら?」

日本人形の作成を始めて以来、アリスが香霖堂に足を運ぶ頻度は右肩上がりに上昇している。
人形作りとなると驚異的な集中力とこだわりを見せるアリス。
最初に和裁への興味を植えつけたこともあって、わからないことがあれば霖之助に相談することになっている。

「よし、善は急げ。試行錯誤も大事だけど、素直に助けを求めるのも大事よね!」

そう結論付けたアリスはいそいそと荷造りを始めた。



所変わって香霖堂。
アリスの人形を見た霖之助はその問題点を把握、早速アリスに講義を開始した。

「おそらくここの縫い合わせがその後の作業に微妙な狂いを起こしたんだろう。ここの工程は非常に複雑だから無理もないが……」

普段は買い物目的以外の訪問者を好まない霖之助だが、趣味が近いこともあってアリスの来訪はわりと歓迎しているようだった。
なにしろ人形作りの知識になるからということで、霖之助の薀蓄を真剣に聞いてくれる。
おまけに物覚えもよく、指導したことはすぐに吸収し、必要になれば布や糸まで買ってくれる。霖之助にとっては理想の客と言えた。

「なるほど……これはもっともっと頑張らないといけないかしらね」

「まあ、この前始めたにしては十分すぎるほど上達しているよ。流石という他ないね。
 これはそのうち僕が君に教わることになりそうだ」

「ふふ、ありがとう霖之助さん」

その後もたわいない会話が続き、気付けば夕日が差し込む時間。

「あら、もうこんな時間? 今日はこのあたりにしておきましょうか?」

「そうだね。若い女性の一人歩きはよろしくない。暗くなる前に帰ったほうがいいだろう」

その言葉に少し悪戯っぽい笑みで返すアリス。

「なに? 心配してくれるの?」

「当然だろう? 君がいくら強くても万が一ということもある。
 折角できた趣味の合う友人を、心配するなと言うほうが無理というものさ」

まさかここまで大真面目に心配されているとは思わず、アリスの思考が一瞬停止する。

「……どうかしたかい?」

「う、ううん、ないでもないの! それじゃあ暗くなるといけないから帰るわね!」

「そうかい? じゃあ気をつけて。またいつでも来てくれたまえ」



家に戻るころには多少落ち着きを取り戻していた。
アリスは今日教わったことを忘れぬようにと、すぐ人形作りを再開。
順調に手が進む。やはり霖之助に相談に行って正解だったようだ。
それにしてもあの店主とここまで話をするようになるとは、ついこの前まで思ってもいなかった。
接客もせずに本ばかり読んでいる偏屈物。そんなかつての評価は跡形もない。

「……ふふ」

今日のやり取りを思い出すと自然に笑みが浮かぶ。
今度は人形作りとか、買い物とか、そういうのは抜きで香霖堂に行くのも良いかもしれない。
そんなことを考えながら、アリスの1日は過ぎていった。