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【趣味が高じて……】



魔法の森に店舗を構える香霖堂。
大抵の客は商品の代価を払わないこの店にも、まともな客がこないわけではない。
この日香霖堂に訪れたのは、そんなまともな客の一人、アリス=マーガトロイドだった。

「いらっしゃい」

相も変わらず来客に一言だけ発して手元に目を落とす霖之助。

「毎回思うんだけど、もう少し丁寧に応対したら?
 お客さんとして言わせてもらえば、品揃えが同じでも店員の態度がいい店を選びたいものよ」

「僕はそうした応対が苦手でね。この店は半ば僕の趣味であり、趣味とは楽しむものだ。
 ここに苦手なことを無理やり組み込めば、店を続けること自体が苦痛になっていくかもしれない。
 その結果店を閉めることになれば、それこそお客さんに迷惑だろう。
 よって僕は僕の思うがままに応対させてもらう」

何を言っても無駄か……。そう思ったアリスがふと霖之助の手元に目をやると

「霖之助さん……裁縫できたの?」

普段本を読んでばかりいる店主の手元には、珍しく針と糸が握られていた。
霖之助といえば家事か商品の仕入れか読書しかしないものだと思っていたアリスにとって、これはかなり意外だった。
実際のところ霖之助は裁縫もするしマジックアイテムも作れるなかなか多芸な男であり、
まれにしか店に訪れないアリスが今日までそれを目にすることがなかっただけなのだが。

「魔理沙や霊夢が弾幕ごっこで破れた服の修繕を押し付けてくるからね……。
 霊夢の服を一から仕上げることも度々あるし、今ではそれなりの腕だと自負しているよ」

対価をもらったことは一度としてないけどね……と愚痴る霖之助に苦笑いで応えるアリス。
ここでふと思い当たる。洋服の仕立てに必要な事を。

「霖之助さん……霊夢の採寸したの?」

「……」

アリスの頭では早くも霊夢の服を脱がせてサイズを測る霖之助の図が展開されている。
視線から軽く軽蔑の念を感じた霖之助は、いらぬ誤解を避けるために口を開くことにした。

「君は洋裁を基準として考えているようだが、霊夢の服は和服を基本とした物だ。
 そして、和服は基本的に着る者に合わせてサイズを変えることはほとんどないんだよ。
 和服には基本的に子供用、女性用、男性用があるだけ。細かい調節は着付けの段階でやることなんだ。
 だから霊夢の身長さえわかっていればあとは何とでもなる」

「随分いい加減ね……。服を作るなら着る人に最適なものを作るのが誠意というものだと思うけど」

「確かにそうかもしれないが、そうすると本人しか着れなくなるだろう?
 特に女性は出産で体型が変わることもあるし、この方法なら親から子に高価な服を受け継いでいくこともできる。
 君に言わせれば、大切な人間に送る服は相手に合わせて仕立てるべきなんだろうが、日本人は金に任せて新しく作った
 ものよりも、自分が長い間大事にしていたものを与えることにより大きな意義を見出している。
 自分がそれほど大事にしてきたものを授けるくらいに、相手を愛しているということだからね」

そう言われると、アリスも否定する気にはならない。
むしろ和裁というものに俄然興味が湧いてきた。
今までの自分とは異なる発想。その発想に基づいて積み重ねられた技術なら、何か人形作りに活かせるかもしれない。
それに、この店主は他にもいろいろ知っていそうだ。

「霖之助さん、和服と洋服の違いについてもう少し聞かせてくれる?」

霖之助としては正直めんどうくさいのだが、この少女は上客だし、機嫌を損ねるのは得策ではない。
それに和服に興味を持ってくれれば、さらに売り上げが期待できるかもしれない。リスクがタダ話なら安いものだ。

「いいだろう。まず……」

これが全ての始まりだった。