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[[前の話へ>19-214]] あらすじ 様々な経緯の後、互いに惹かれあう霖之助と美鈴。 しかし、一生をレミリアに仕えて生きるという誓いを思い出し、霖之助への想いとの狭間で揺らぐ美鈴。 結論を出せない自分は紅魔館にも霖之助にも相応しくないと、美鈴は姿を消した 「美鈴がいなくなった!?」 その知らせを、そして現状に至る経緯の全てを咲夜から聞いた瞬間、霖之助はあてもなく飛び出していった。 自分はこれ以上ないほど彼女に心惹かれている。 美鈴が自分に好意を抱いてくれていることも、微塵も疑ってはいなかった。 だが、あの真面目な美鈴が門番としての立場と天秤にかける程ではないと、勝手に諦めていた。 美鈴の気持ちがどうとかこうとか、そんな言葉で美鈴に責任を押し付けていたのだ。 自分が積極的に出て、拒絶されることを恐れていた臆病者の分際で。 この3週間、暗闇の洞窟で松明を失ったような孤独と絶望感に打ちひしがれていたくせに。 結果がどうなろうと、彼女に自分の想いを伝えなければいけない。 あの天真爛漫さが服を着ているような子にここまで悩ませたのだ。 あれこれ考えるのはもうやめだ。つまらないしがらみなんて知ったことか。 一方のレミリアは、美鈴を探して空を飛んでいた。 奥歯が砕けるほどに歯を食いしばり、自らを八つ裂きにしたい衝動を押さえ込みながら。 甘く見ていた。 美鈴がかつて自分に語った誓い。 大真面目に守らせる気などなかった。 荒んでいた美鈴が、自分に面と向かってそんなことを言うほどに変わった、それだけで自分は十分に満足していたから。 もし美鈴が本気で別の人生を歩みたいと言うならば、祝福と共に送り出すつもりだった。 気にすることはないと、美鈴が幸福なら構わないと言って、涙ぐむ美鈴をからかってやろうと思っていた。 甘く見ていた。 霖之助がどれほど美鈴に好意を向けようが、美鈴が本気になることなどないと。 霖之助と自分なら、彼女が選ぶのは間違いなく自分だろうと。 落ち込みながらも平静を装う霖之助に皮肉の一言でも投げつけて、霖之助を気にする美鈴を慰めて、それで終わると思っていた。 そんな運命を微塵も疑わず、能力も使わなかった結果がこれだ。 甘く見ていた。 美鈴の、霖之助に抱く想いの強さと、かつての誓いにかける覚悟、その両方を。 いつの間にか月を雲が覆い、雨が降ろうとしている。 美鈴を探すこともできない自分に激昂しつつ、レミリアは紅魔館へ戻っていく。 硬く握り締めたその手から血が滴り落ちた。 見つけた。すでに周囲は土砂降りの雨。その中を、いつもの溌剌さなどどこへ行ったか、幽鬼のように美鈴は歩いていた。 「美鈴!」 叫んで駆け寄る。 呆けたような顔でこちらを見つめた美鈴の目には、失われていた光が再び灯り、その顔が恐怖に引きつる。 「来ないでください!」 手を触れようとした瞬間、それ以上動けなくなる霖之助。 互いの息使いが聞こえるほどの距離で、霖之助と美鈴が対峙する。 「なんでここに……?」 「わからないわけじゃないだろう? 君を探しにきたんだ。  事情は全て咲夜から聞いたよ。君の書置きも、失礼だが見せてもらった」 よく見れば霖之助は息を荒げ、その足は裸足で足元には血がにじんでいる。 そんなことにも気が回らないほど必死に探してくれていたのか。 申し訳なさと嬉しさがない交ぜになる心を抑え、美鈴は言葉を紡ぐ。 「だめなんです。私は霖之助さんのそばにはいられない。  自分の気持ちがわからないんです。  門番の私。  霖之助さんと暮らす私。  どっちを失うことにも耐えられないんです。  そんなあやふやな気持ちのまま、お嬢様や咲夜さんに迷惑をかけてしまいました。  こんな私が、弱虫で我侭な私が、情けなくて、悔しくて、それでもまだ選ぶことができないんです。  ……だから」 ぎゅっと目をつぶる美鈴。怖いのだろう。次の言葉を放つことが。 体がガタガタと震えているのは、雨による冷えだけではない。 そして美鈴は叫ぶ。 「もう私に構わないでください!  私なんかが霖之助さんのそばにいちゃいけないんです!  私は……私は」 「美鈴っ!!!」 もう我慢できない。 震える美鈴の体を強く抱きしめる。 そして、霖之助が吼えた。 「それなら僕が君の気持ちを変える!  レミリアが、フランが、咲夜が、パチュリーが、小悪魔が、メイド妖精たちが敵に回ろうとも構わない!  その結果命を落としたって構わない!!!  君がいない人生なら死んでいるのと同じだ!  僕は、今紅魔館と僕の間で揺れている君の気持ちを、どれだけ時間がかかろうとも、  どんな手を使ってでも、必ず僕の元に手繰り寄せてみせる!  そして君を必ず幸せにする! 後悔なんて絶対にさせない!  一日だって疎かにするものか!  毎日毎日、その日を一生懸命君に捧げる!  寿命の長さを言い訳にして、適当な一日を過ごす真似なんて絶対にしない!」 想いが強すぎて、何を言っているのか自分でも良くわからない。 ただ一つ言えることは、自分は美鈴が好きだというその一点。 だから、最後に一言、この言葉に全ての思いを籠めよう。 「美鈴! 僕は君が欲しい!」 息が詰まる。 あんなに情けないことを言ったのに、そんな自分が欲しいと言ってくれた。 そんな自分がいなければ、死んでいるのと同じだとまで言ってくれた。 「……また、不安になって逃げ出すかもしれませんよ?」            「その時はまたこうして見つけ出して見せるよ」 「私は、霖之助さんが一番だと言いきれないような女なんですよ?」 「言っただろう?今はそれでいい。いつか必ず君の一番になってみせる。  それに、僕は『君が僕のことを好きだから』こんなことを言ってるんじゃない。  『僕が君を好きだから』、言っているんだ」   「いいんですか?  本当に……こんな私でいいんですか?」 「君でなければ、僕は嫌だ」 「うっ……うっ……」 涙があふれて止まらない。 「霖之助さん……霖之助さああああああん! うわああああああああん!」 骨が折れそうなほどきつく抱きついて号泣する美鈴を、霖之助は優しく抱きしめていた。 「それで、私の館の門番を奪いに来たってこと? いい度胸ね、店主」 紅魔館の大広間。館の主、レミリア=スカーレットは、目の前の男を睨みつける。 「あの子はいわば私の所有物。それを渡せと言われて、はいそうですかと渡すとでも思ったの?  ……殺すわよ?」 すさまじいほどの殺気が吹き荒れる。人間であればこの殺気に当てられて命を落としてもおかしくない。 だが、今の霖之助にそんな脅しは通じない。 「そう言われるのは先刻承知の上だし、君の怒りは至極当然だ。だが、それでも僕は意思を曲げるつもりはないよ」 「呆れたわね。本当に死にたいというの?」 「殺したいのなら殺せばいい」 その言葉に目を剥くレミリア。 霖之助はさらにこう続けた。 「ただし、殺すなら今この場で念入りに殺した上で、白玉楼の姫や閻魔に即刻あの世へ送るよう伝えることだ。  万が一にも殺しそこねたなら、そして死んだとしても亡霊として、いつか必ず力をつけて彼女を奪いに来る」 愚かなことだ、と霖之助は自嘲する。 本当になんとしても美鈴を奪うつもりなら、こんなことを言う必要はない。 この場はいったん引き下がり、後日万全の用意を整えて来ればいいのだ。 だが、そんな理性を感情が抑え込む。 力の差に怯える程度の覚悟ならこんなことはしない。 自分がいつもいつも理屈で動くと思ったら大間違いだという事を教えてやろう。 にらみ合う2人。 とてつもない緊張感が場を支配し、離れて見ていた美鈴や咲夜、事情を聞いて珍しく図書館から出てきたパチュリーまでもが冷や汗を自覚する。 「ふう……」 そして、先に折れたのはレミリアのほうだった。 「あなたの覚悟は良くわかったわ。でもあなたの意見だけじゃ納得はできない。  ……それでいいのね美鈴?」 はっとする美鈴。その目が泳いだのを見ると、レミリアは思わずこう口走っていた。 「まさか、以前私に一生仕えると言ったことを気にしているんじゃないでしょうね?  このレミリア=スカーレットが、従者の言うことをいちいち気にするとでも思ってるの?  『昔』ああ言ったとかこう言ったとかはどうだっていいのよ。  あなたが『今』どう思ってるのか言いなさい。  それを受け入れられないほどに器が小さいと思われるのは、耐えられない侮辱よ」 その言葉を受け、おずおずと、しかし徐々にはっきりと、美鈴は想いを打ち明ける。 「正直なところ……まだ自分の気持ちがはっきりとはわかりません。  それでも、霖之助さんはこんな私でも良いと言ってくれました。  目の前の苦しい選択から逃げ続けて、皆さんを心配させて、皆さんに迷惑をかけて、それが自分のせいなのに、  その事実にすら耐えられなかった私を、それでも自分のもとに手繰り寄せてみせると。  ……私が欲しいと、言ってくれました。  だから、私は彼の言葉に応えます。  例え今は迷いながらでも、いつかきっと彼を選んでよかったと思えるように、霖之助さんと2人で頑張って生きていきたい。  今はそう思っています」 「そう。そこまで考えて決めたのならもう何も言わないわ」 「お嬢様……」 「ただし、私のもとから去るのであれば、それ相応の罰を受けてもらうわ。  美鈴、今後永久に門番として紅魔館を訪れることは許さない。肝に銘じておくことね」 「……。  わかりました。弁解の余地もありません。  長々とお世話になりました。  ……お元気で」 「わかればいいわ。さっさとわたしの視界から消えて頂戴。目障りよ」 「……失礼します」 そう言い残して、美鈴は大広間から退出していった。 「……君も、不器用なものだね」 いつの間にか顔を伏せていたレミリアに声をかけ、霖之助も広間から姿を消す。 「大きなお世話よ……。全く」 レミリアの独白は誰にも聞きとめられることなく、虚空に消えていった。 悠然と聳え立つ紅魔館。美鈴はその門をじっと見つめていた。 「まだこんなところにいたの?」 声をかけたのは、先ほどまでの上司、十六夜咲夜。 「咲夜さん……。  もう、この門をこんなに近くで見ることはできなくなっちゃいましたから、せめて目に焼き付けておこうと思いまして」 「やれやれ、やはりわかっていなかったか」 今度は館から出てきた霖之助が声をかける。 「ええ。まったく純粋と言ったら良いのか、単純と言ったら良いのか……」 呆れたように続ける咲夜。 美鈴はわけがわからず、きょろきょろと2人の間で視線を泳がせる。 「いいこと? お嬢様は、『門番として』訪れることを許さない、と言ったのよ?」 「え、それって……!」 目を丸くする美鈴。 霖之助と咲夜はさらにレミリアの気持ちを代弁する。 「ああ、門番に戻ることは許さないから、その覚悟で僕と生きていけということだろう」 「無論、『霖之助さんの伴侶』として訪れることには何の問題もない。そういう事よ」 「……お嬢様……お嬢様ぁ……」 感極まって泣き出した美鈴を優しく抱きしめる霖之助。 「やれやれ、僕は泣いている君を慰めてばかりだな。  これはなんとしても笑うところを見せてもらわないと割に合わないよ」 「そんな意地悪……言わないでくださいよぉ……」 なんとかそれだけ言うと、霖之助の胸で泣きじゃくる美鈴。 霖之助はそんな美鈴の髪を優しく撫で続け、咲夜は暖かく見つめていた。 その後、霧の湖のほとりで、数人の男女が楽しそうに宴会を開いているところが度々目撃されたという。 そして、これはそんな日常のひとコマ。 「美鈴」 「どうしたの?霖之助」 「時々不安になるんだ。  だから君の口からはっきり聞いておきたいことがある。  ……僕は君の一番になれたかい?」 その言葉と不安そうな顔がおかしくて、クスクスと笑いながら美鈴は答える。 「もちろんよ。  だって私は、毎日が幸せで幸せでたまらないんだもの。  こんなにたくさんの幸せをくれる旦那さまがいるなんて、これは夢なんじゃないかって怖くなっちゃうこともあるんだから。  だからそんなことは言わないで。  ……それにね」 霖之助に耳打ちする美鈴。 「……それは本当かい!?」 「ええ。永琳さんも間違いないって。  これからもよろしくね、おとうさん♪」  [[前の話へ>19-214]]

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