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[[前の話へ>19-152]] [[次の話へ>19-215]] あらすじ 無縁塚で拾ったブルマのせいでギクシャクした霖之助と美鈴。 わだかまりが解消され、徐々に心惹かれあうようになる。 そんな時、美鈴はかつて自らが立てた誓いを思い出し、霖之助と距離を置く。 今日は美鈴にとって定期休暇の日。 休みともなれば朝早くから日が暮れるまで香霖堂に入り浸っていた美鈴だったが、今日は自室に閉じこもって出てこない。 いや、前回香霖堂から帰ってきてから今日で3週間、一度も香霖堂に足を運んだことはない。 門番の仕事をしているときも、なにやら沈んだ表情を浮かべてばかりだ。 そんな美鈴を見かねた咲夜がレミリアに相談したところ、 「あの店主に愛想でもつかしたんじゃないの?  大丈夫よ。あの子ならすぐ元気になるでしょ。  でもそうねぇ、半端な気持ちで仕事されてもなんだし、何日か休みをあげましょうか。  丸2~3日自分と向き合えば、気持ちに区切りがつくでしょう」 と、美鈴を気遣う言葉が出てきた。その言葉と、自らの意見を伝えに、美鈴の部屋へ赴く咲夜。 とにかく、美鈴に伝えよう。彼女が何かにつまづいたとき、倒れぬように支える者がそばにいることを。 カーテンを締め切った、薄暗い部屋の中。 美鈴は、この3週間何度も反芻していた自分の半生を、今再び思い浮かべていた。 レミリアに出会う前の美鈴は、今の美鈴からは想像もつかないほど荒んでいた。 物心ついたころには一人ぼっちで、親の顔など知らずに育った。 だから、自分が妖怪であることなど知らず、人の中に混じって生活していた時期もあった。 きっかけは手を差し伸べてくれた人間がいたこと。 ――良かったら一緒に暮らさないか―― それから何年かは幸せに暮らすことができた。 しかし、美鈴が妖怪である以上、徐々に寿命の違いという問題が顕在化する。 当時は人と妖怪が、今よりずっと険悪な時代だった。 周りの人間は、いつまで経っても年をとらぬ美鈴に冷たい視線をむける様になり、ついには武器を手にとって追い出そうとする。 何より美鈴を打ちのめしたのは、そんな人間たちの中に、かつて自分に手を差し伸べてくれた人の姿を見つけてしまったこと。 気付いたときには、痛む心だけを抱えて逃げ出していた。 そうして各地を転々としたが、本当の意味で受け入れられたことなど一度もなかった。 見た目は人間と変わらないせいか、親切にしてくれる人間もいるにはいたが、そんな人間達も美鈴が妖怪だと知ると手のひらを返したように態度を変えた。 見た目が人間と変わらないせいか、知能の低い妖怪たちには何度も襲い掛かられ、危うく食べられかけたことなど数え切れなかった。 ついには何も信じられなくなって、目に写るもの全てに襲い掛かるようになった。 人は殺して食い散らかし、妖怪は痛めつけた上で、気分次第で生かし、殺す。 自分から近寄って拒絶される恐怖に耐えられなくて、それを誤魔化すために狂気で心に蓋をした。 もし、物心がつくときまで親がそばにいれば。 もし、妖怪でも構わないと言ってくれる人間に出会っていれば。 もし、美鈴の事情を理解できるくらいの知能を持った、親切な妖怪と出会っていれば。 ほんの些細なきっかけさえあれば、本当は優しいこの少女が、畏怖の対象になどならなかったはずなのに。 そうして美鈴はレミリアに出会う。 実力の差を感じながら、むしろ死を望むほどの自棄と共に喧嘩を売り、叩きのめされた。 こんな人生をやっと終えることができる。だから早く殺せと思ったが、 「その目を変えてみたくなった。私に仕えなさい」 勝者であることを盾に、まだ生かされることになる。 仕え始めたころは、寝首をかくか、逃げ出すことしか考えていなかった。 しかし、辛辣な言葉と我侭な態度に隠された、わかりにくいが確かな優しさを感じ、また自分に屈託なく接するパチュリーや小悪魔、メイド妖精たちの姿に、徐々に心のとげが取れていく。 いつしか、生来の自分を取り戻した美鈴は、一つの誓いを立てる。 これからの生涯全てをかけて恩を返すと。 そして、その思いを風化させぬため、敬愛する主に面と向かって伝えたのだ。 それを聞いたレミリアは、とても満足そうに笑っていた。 なぜ、忘れてしまったのか。 今自分がこうしていられるのはレミリアのおかげだというのに。 あそこでレミリアに救い上げてもらわねば、生きる喜びも、暖かい他者との触れあいも忘れたまま、咲夜という尊敬する人に会うこともなく死んでいたというのに。 そんな自分に嫌気がさす。 だが、自己嫌悪はそれだけで終わってはくれない。 誓いを忘れた自分がショックで思わず帰ってきてしまったが、霖之助への想いがいまだに消えてくれないのだ。 3週間の間、必死に自分をなだめようとした。 レミリアに誓った以上、自分は門番の仕事を全うしなければならない。一度忘れてしまったからこそ、今度こそは必ず。 そう言い聞かせているのに、そうしなければいけないと頭ではわかっているのに、心がそれを受け入れない。 押さえ込もうとすればするほど強くなる。霖之助のそばにいたい。霖之助と一緒に生きていきたい。 レミリアに仕える、その他には何もいらなかったはずなのに、少し満たされると欲を出すあさましい自分に歯噛みする。 門番としての自分を捨てることはできない。 誓いを立てたからというだけではなく、今でも紅魔館に、レミリアに使えることが至上の喜びであることに変わりはないから。 しかし、霖之助への想いも、いつの間にかそれに拮抗するほどに強くなってしまった。 誓いを忘れていた自分。 思い出してなお、門番として生きることも、霖之助と共に生きることも捨てられない自分。 こんなあやふやな気持ちではどちらに対しても失礼だとわかっているのに、割り切れない自分。 そんな自分が、情けなくて、悔しくて、腹立たしくて、憎くてたまらない。 そんな時、部屋の戸をノックする音が聞こえた。 「美鈴?……もう起きてる?」 「咲夜さん!?」 訪ねてきたのは尊敬する上司、咲夜。 「ああ、起きてたのね。そのままでいいから聞いて頂戴」 「……はい」 何を言われるのか怖くてたまらない。 しかしそんなことは言えず、次の言葉を待つ。 「最近どうにも塞ぎこんでいるみたいだけど、……霖之助さんとなにかあったの?」 ぞわ、と全身が粟立つような感覚。 返事がないことを肯定と受け取り、咲夜は話を進める。 「……何があったかは聞かないわ。  ただ、最近のあなたがどうにも塞ぎこんでいるようだから心配だったの。  だから、気持ちが落ち着くまで門番の仕事は休んで良いわ。お嬢様もそうおっしゃっていたから」 返事はない。 「いい、美鈴?  もし自分ではどうにもならないなら、私に相談して。  何もできないかもしれないけど、人に話すことで気持ちを整理できることもあるわ。  その位のことは、させて頂戴」 「わかり……ました……」 絞り出すような声だったが、確かに返事を受け取った。 今はこのくらいにしておこう。本当に辛いなら頼ってくれる。それくらい自惚れたっていいはずだ。 そうして、咲夜は仕事に戻っていった。 ベッドに腰掛けている美鈴。顔は俯き、肩が小さく震えている。 一文字にぎゅっ、と結ばれた唇。目からは大粒の涙が溢れ、膝の上で握り締めた手にポタポタと落ちていく。 自分は一体何をやっているのか。 大切な誓いを忘れて男にうつつを抜かし、挙句の果てに咲夜やレミリアにまで心配をかけた。 少し休んでいい。それはつまり今の自分では門番は勤まらないということだ。 勝手に忘れて、勝手に思い出して、勝手に悩んで。 その結果がこれか。 何が、誓いを守る、だ。 何が、霖之助と生きていきたい、だ。 自分の気持ちすら決められなくて、大切な人たちに迷惑をかけたくせに。 こんな自分は、紅魔館にも、香霖堂にも、いてはいけない。 眩しいくらいに輝いているあの人たちに、こんな自分は近寄ることすら許されない。 その夜、返事がないことを訝しんだ咲夜が美鈴の部屋に入ると、テーブルの上に一通の書置きだけが残されていた。 [[前の話へ>19-152]] [[次の話へ>19-215]]

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