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[[前の話へ>19-56]] [[次の話へ>19-214]] あらすじ 休日に香霖堂へ向かった後、様子がおかしくなった美鈴。 事情を聞いたレミリアに張本人が何とかしてくれと言われ、何とかした霖之助だった。 美鈴はその過程でほめ殺されて撃沈。 霖之助の説得が効いたのか、普段の調子を取り戻した美鈴。 例の件のショックはもう感じさせず、むしろいつもより元気がよい。 また、昼寝が減ったのはレミリアや咲夜にとって嬉しい誤算と言えた。 そして、休日に香霖堂を訪れるのが、最近の美鈴の楽しみとなった。 雨降って地固まる。2人の心の中で、徐々にお互いの存在が大きくなっていく。 基本的には美鈴が商品を物色し、たまに霖之助が解説する。 いつも邪魔をしているからと、昼食や夕食は美鈴が中華の腕を存分に振舞い、毎回霖之助に絶賛される。 ある日は美鈴の服のすそがほつれているのを霖之助が直し、料理の腕に比して裁縫の苦手な美鈴が手取り足取り教わった。 ある日は霖之助の体が硬いことに気付いた美鈴が半強制的に柔軟運動をさせた。 どちらも教わるときは普段より接近する相手に緊張し、その割りに教えるときは集中していてそのことは気にならない。 結果、お互いに『もっと異性ということを気にして欲しい』と願いあう、奇妙な関係が出来上がる。 少し変わってはいるが、お似合いの上に相思相愛。 しかし、2人ともこれ以上お互いの仲を進展させる行動に出ることはない。 霖之助はこう考えている。 美鈴は紅魔館の門番であること誇りに思っており、自分などその誇りの前では小さなものだ、と。 だから、好意を寄せてくれていることは確信しているが、自分のために紅魔館での生活を捨てることはないだろう、そう諦めていた。 そんな霖之助の考えとは裏腹に、美鈴にとって霖之助はすでに恋愛の対象にまで昇格している。 実際、霖之助のパートナーとして生きる道を真剣に考えたことは1度や2度ではない。 しかし、その度に何か違和感を感じるのだ。 何か大切なことを忘れている、そんな違和感を。 その違和感が、なんとなくだが積極的になることを阻んでいた。 「こんにちは!」 「おや、今日はお休みかい? 美鈴」 「はい、また来ちゃいました」 そして、いつもどおりの一日が始まる。 今日の話題は、2人の中が進展するきっかけとなった例のものだった。 「霖之助さん」 「なんだい?」 「例のブルマなんですけど、たしか『外の女性が運動するときに穿くもの』って言ってましたよね?  上に着るものはないんですか?」 「あるにはあるよ。君には必要ないと思って言わなかったが、こちらは体操服というらしい。  確かこの辺にしまったはずだが……。お、あったあった」 体操服の入った箱を持ち出す霖之助。 中を覗き、そのうちの一着を手に取る美鈴。 「こっちも不思議な素材ですね……」 「何なら着てみるかい? それなりに数はあるから進呈しても良いよ」 「え……ええっと……」 興味がなくはないが、やはり気恥ずかしいようだ。 しばし悩んだ末、美鈴は霖之助に一つ聞いてみることにした。 「霖之助さんは……私がこれを着ているところを見てみたいですか……?」 顔を赤らめて探るようにこちらを見る美鈴。 こんな美鈴も久しぶりだな、などと考えつつ霖之助は率直に言ってみる。 「そうだね、運動するための服だし、君ならさぞ似合うだろう」 美鈴はその言葉が最後の一押しになったらしく、 「……わかりました。奥の部屋を借りますね」 むん、と小さくガッツポーズをして気合を入れ、店の奥へと上がっていった。 数分後、着替えたのであろう美鈴の足音を耳にした霖之助が顔を向けると、顔だけを出してこちらを伺っている美鈴と目があった。 「「……」」 とりあえずこのままにらめっこをしていても仕方がない。 自分が折れることにして声をかける霖之助。 「やはり恥ずかしいのかい?」 「だ……だってこの服、いつも着ているのと比べてすごく露出が多くて……足なんて腿の付け根まで丸出しなんですよ?」 「そんなことを言ってももう着てしまったんだろうに……。  ここまできたらもう観念して見せてくれないか?」 「うぅ~、わ、わかりました」 ついに腹をくくったのか、美鈴はおずおずとその全身を見せる。 「ほう……」 思わず見とれてしまった。 スタイルは抜群で、すらりとした白い足がまぶしい。 恥ずかしいのか体操服のすそを引っ張って隠そうとしているのが微笑ましく、 なにより全身から放たれる健康的な魅力が霖之助をひきつけてやまなかった。 「そ、そんなにじろじろ見ないでくださいよ~」 困惑したような美鈴の言葉が耳に届くと同時に、不躾に見ていた自分に気付く。 「あ、ああ。すまないね。いやしかし、思っていた以上に似合っているよ。  思わず我を忘れて見とれてしまったくらいにね」 「そ、そうですか? えへへ……」 恥ずかしいとは思っていても褒められると嬉しいようだ。 その後、2~3回ほど立て続けに霖之助が褒め続けたためか、危うく今日はブルマで過ごすことになりかけたが。 昼食をとり、再び定位置に戻る霖之助。 すると、美鈴があるものをもってきた。満面の笑みの中に、何か企んでいるような雰囲気が見て取れる。 霖之助はその能力を使うまでもなく、美鈴が握っているものの名前を思い浮かべた。 すなわち、耳かき。 「……君が次に何を言うか確信している僕がいるんだが、聞きたいかい?」 「はい、是非」 「『霖之助さん、耳掃除してあげましょうか』だろう?」 「ちょっと惜しいですね。正解は『掃除してあげましょうか』、  じゃなくて『掃除してあげるので横になって下さい』、です」 「つまり僕に拒否権はないと」 「よくわかってるじゃないですか」 「さっきまで恥ずかしがってた割には少々積極的な気がするんだが?」 「流石にあの格好じゃ無理ですけど、今は普段の服ですし。  それに霖之助さんには散々恥ずかしい思いをさせてもらいましたので、このあたりでお返しを、と」 これ以上何を言ったところで彼女の意思は曲がらないだろうし、どうせ腕力では彼女に適わない。 なまじ力づくで抑え込まれるよりは、進んで受け入れたほうがマシだ。 男としてのプライドが傷つく感覚に既視感を感じつつ、美鈴の腿に横たわる霖之助だった。 「はい、終わりましたよ。……霖之助さん?」 見れば霖之助は安らかな寝息を立てている。 「んー、寝ているなら眼鏡は邪魔ですよね。  よ……っと。  ふふ、こうしてみると霖之助さんって結構かわいいですね」  母性本能が刺激されたのか、優しく微笑んで霖之助の髪を撫でる。 すると、霖之助は小さな声で、しかしはっきりとこうつぶやいた。 「……母さん」 きっと母の夢でも見ているのだろう。 一筋流れた涙をそっとぬぐい、美鈴は霖之助の髪を撫で続ける。 やはり自分は彼に好意を抱いているようだ。 最初はありえないと思っていたが、やはり彼と生きていくのも悪くないかもしれない。 紅魔館との生活を天秤にかけるほどに男性と親密になるなど、考えたこともなかった。 そう思った瞬間だった。最近感じていた違和感の正体を思い出してしまったのは。 忘れていたのは、かつて自らに科した誓い。 すでにどれほど前のことかも定かではないが、荒んでいた自分を救い上げてくれた主に、確かに告げた。 ――これからの一生の全てを、あなたに尽くして生きていきます―― ザァッ、と言う音が聞こえるほどに血の気が引く感覚。 例え他の誰かから見ればくだらない誓いでも、この誓いと引き換えに全てを失うことになっても、……例え主が忘れていたとしても。 この誓いだけは守り通すと決めたはず。 それなのに、今の自分はなんだ? なぜ忘れていた? そして今、 自 分 は 何 を 考 え て い た ? 美鈴の顔が悲痛なものへと変わる。 起こさないように霖之助の頭をゆっくりと退かせ、起きたときに体が痛まないよう、慎重に体勢を整えて店の外へ。 寂しそうに店を見つめた後、一度だけ頭を下げると、美鈴は紅魔館へ戻って行った。 それから3週間、美鈴は香霖堂に姿を見せなかった。 [[前の話へ>19-56]] [[次の話へ>19-214]]

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