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[[前の話へ>趣味が高じて……④]] [[次の話へ>趣味が高じて……⑥]] あらすじ 香霖堂で和服に興味を持ったアリス。 霖之助に教わりつつ日本人形を完成させる。 ささやかな祝宴。双方にフラグ? ここ最近、アリス=マーガトロイドの生活は非常に充実していた。 新しい技術に出会った。 習得するために努力を続けた。 その成果は自分の予想をずっと上回るものとなった。 まだまだ反復し体に覚えさせなくてはならないが、自分を成長させるためならそれすらも喜びと言える。 なのに、 「はぁ……」 口から漏れるのはため息ばかりだった。 数日前に日本人形を完成させたアリス。 生まれて初めて作ったそれは、商品として見ても申し分のない完成度であり、アリスにとって師といえる霖之助も太鼓判を押してくれた。 とはいえ、まだまだ基本を修めたばかり。和と洋の技術を融合させるには至らない。 今は続いて2体目の製作に取り掛かっているところである。 1体目に比べ作業は順調そのもの。 不満などあるはずがないのだが、気がつけば手を止めて物思いにふけっている。 「……私がこんなに寂しがりやだとは思ってなかったわね」 所変わってここは香霖堂。 今日も今日とて、店主の霖之助は読書に没頭……してはいなかった。 なにかやることがある訳ではない。いつもどおりに椅子に腰掛け、いつもの姿勢で本を開く。 後はいつものとおりに本の世界にのめり込むだけなのだが、気がつけば店の扉に目をやり、本をめくる手は止まっている。 「いったい何を期待しているんだろうね……僕は」 ここ最近、森近霖之助の生活は非常に充実していた。 同じ趣味を持つ仲間に出会った。 自分の持つものを惜しげもなく伝授した。 教え子は全幅の信頼を寄せてくれるばかりか、想像以上の成長を見せてくれた。 すぐに自分など追い抜いていくだろうが、それすらも楽しみにしている自分がいる。 なのに、 「ふぅ……」 口から漏れるのはため息ばかりだった。 最初の人形が完成して以来、アリスは1度も香霖堂に訪れていない。 自分ひとりの力で2体目を完成させたい。いつもいつも霖之助を頼るわけにはいかない。 純粋な向上心から霖之助にそう言ったアリスだが、すぐにどうにも落ち着かない自分に気付いた。 霖之助に助言を請い、そのまま香霖堂で人形を作っていたときを思い出す。 会話こそほとんどなかったが、どこか暖かさと安らぎを感じていた。 別に毎日香霖堂で過ごしたわけではない。自宅で人形を作る時間も決して短くはなかった。 それなのに、たった数日霖之助に会っていないだけなのに、心に穴が開いたように感じられてならない。 今まで普通に生活してきた家の中がやけに広かった。 「うー……」 テーブルに頬を押し付けて唸ってみるが、そんなことで気が紛れるわけもない。 香霖堂に行きたい。それは間違いないのだがどうにも踏み出せない。 霖之助に呆れられるのが怖いのだ。 ―――君はもう少し意志が強いと思っていたんだけどね――― そんな台詞が頭をよぎるだけで全身が凍りついたような錯覚すら覚える。 実際には彼がそんなことを言うはずはないとわかっているのだが、万が一を考えると二の足を踏んでしまうのである。 ここ2日ほどそんな葛藤を繰り返していたのだが、 「あーもうやめやめ! 自力で頑張るったって、こんなんじゃいい人形ができっこないわ!」 ついに限界がきたようだ。 霖之助がどうこう言い出しても押し切ってやろう。 そもそも自分がこんなことで悩むようになったのは霖之助の責任だ。 責任がある以上霖之助にはこのもやもやを取り払う義務がある。 理不尽なようだが、ぐるぐると考えることに疲れたアリスはそのことに気付かない。 「見てなさい!私だって我侭言いたいときくらいあるんだから!」 「……着いた」 勢いのままに香霖堂の前まで来てしまったが、ここまで来ると多少冷静にもなる。 大丈夫よアリス。この前まで普通に話していたじゃない。拒絶されることなんてありえないからそんなに心臓バクバク言わせてんじゃないわよ。 大きく深呼吸を2回。よし、少なくとも顔には出さなくてすむだろう。あとは淡々と、しかし強気で押し切るのみ。 バタン 店の戸を開く音が来客を知らせてきた。だが今回の訪問者は自分の望んでいる人ではないだろう。 何しろ、彼女はもうしばらくは家から出てこないと言ったのだから。 そんなことを考えつつ顔を上げた霖之助が見たものは、 「いらっしゃ・……い……?」 「お久しぶりね、霖之助さん」 来るはずのない、されど待ち焦がれた人形遣いの姿だった。 完全に意表を衝かれ、動かなくなる霖之助。 アリスはアリスで、さっきまでの強気はどこへやら。 「何で来たんだい?」 とか言われやしないかと気が気ではない。 2人の間に沈黙が降りる。 真顔で行われるにらめっこに、先に耐えられなくなったのはアリスだった。 先手必勝とばかりに言葉がつむがれていく。 「その、まだ2体目は完成したわけじゃないんだけどね。なんていうか今まで事あるごとに相談してたから一人で篭ってると  しっくり来なくて。そりゃ私も『自力で完成させるまで助言は請わないから!』なんていった手前ここに来るのはちょっと  気が進まなかったんだけど、そもそも私の目的は人形作りの技術を身につけることであって、一人で人形を完成させるの  はその手段に過ぎないわけ。だから調子が出ないのに意地張って作業を停滞させるくらいなら、当初の方針を少しくらい  曲げてでも、目的を達成するために有効な手段をとるのは悪いことではないでしょ? 言っとくけど別に霖之助さんがいな  くて寂しいなとかそういうんじゃないから。環境を変えたせいで調子が出なかったのを何とかしようと思ってここに  来ただけだから。あとここのほうが家よりはかどるなら家で作業する必要はないわよね。これから毎日朝から夕暮れまで  通わせてもらうわ。言っとくけどあくまで作業効率のためよ。  本当は夕方とは言わず夜まで居たいところだけど、前に霖之助さんが心配してくれたし、暗くなる前には帰ることにして  おくから。もちろんただとは言わないわ。家事は人形たちにさせるし、料理は私が作ってあげる。  霖之助さんも読書に集中できるし、私は魔理沙や紫や霊夢と違って霖之助さんの邪魔はしないから悪い条件じゃ  ないでしょ?というかもうそのつもりで用意してきたから空いてる部屋に荷物置かせてもらうわよ」 本人はいたって冷静なつもりだが、誰がどう見てもいつものアリスには見えない。 おまけにごまかそうとして逆に本音がちらほら漏れている。 そもそも普段自分がこんなにまくし立てたりはしないことに気付いていないあたり、アリスもかなりテンパっているようだ。 そんなアリスを呆然と眺める霖之助。 反応が返ってこないことで再び不安になるアリス。 なんで何も言ってこないのよ。 唐突過ぎて驚いているのかしら? それとも呆れられた? 自分から来ないと言い出して連絡もしなかったくせに今度は毎日来るとか言い出したのは拙かったかな。 でも理屈としてはおかしいところはないはずよね……いやでも……。 ええい! なんでも良いから早く何とか言いなさいよ! 緊張のあまりすでに足元の感覚すらなくなっている。 ほんの数秒が永遠のように感じられて気が遠くなりそうだ。 一方の霖之助はというと、普段と違うアリスに戸惑ってはいたものの、要はまた足しげく通ってくれるのだなと結論付けることにした。 「わかった。そういうことなら協力することもやぶさかじゃないよ。  奥に入って突き当たりを左の部屋が空いているから好きにしたまえ」 一瞬その言葉が理解できずに固まるアリス。頭の中で霖之助の言葉がゆっくりと翻訳されていく。 好きにしたまえ → 部屋を使っても構わない → 毎日通ってきてもいい! そこまで理解した瞬間、アリスの頭の中で数万人のミニアリスが一斉に諸手を天に向かって突き上げ、大歓声が響き渡った。 おもわず自分まで叫びそうになるが、ここまで喜んでいるのを気取られるのも恥ずかしい。 落ち着け。声を上ずらせるな。後一言、一言だけ返せば部屋で思い切り喜べる。 「そそ、そう? よかった。じゃあ勝手に使わせてもら、もらうわね」 多少噛んでしまったが問題ない。この心境でここまで抑えられれば上出来だ。さあ早く部屋に。もう平静を装うのは限界だ。 だがここで奥に上がろうとするアリスに霖之助が声をかける。 「ああ、アリス」 ビクッと肩が震える。 いったいこれ以上何があると言うのか。話なら後でするからもう開放してほしい。 それともやっぱりダメと言われるのだろうか。 いい加減爆発しそうな心臓の鼓動を感じながら振り返ったアリスが見たものは、 「ありがとう。また来てくれて嬉しいよ」 心の底から嬉しくたまらない、そんな霖之助の笑顔だった。 [[前の話へ>趣味が高じて……④]] [[次の話へ>趣味が高じて……⑥]]

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