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「んー、結局今日って何のお祝いなんだろうねえ?」
「さあ……まぁ行ってみれば分かるんじゃない?」
 なつかしい校門をくぐりながら、キリノがつぶやいた。
 卒業からまだ一月も経たない4月のはじめ。
 二人の元に後輩から祝賀会の招待状が届いたのが少し前の事。
 卒業後の二人の進路は、サヤはどうにか進学して、大学へ。キリノは…
「……で、あんたらはその後どうなってるの?」
「えへへ、まあぼちぼち?」
「あーもう、羨ましいねえ」
 取り合えず、家のお店を手伝いながら、花嫁修業。
 コジローの方はそれには少し渋ったが、キリノの方の意思が固すぎた。
「6月には呼んでよねー」
「勿論だよう……あ、電気点いた」
 話しながら歩いていると、遠目に見える見慣れた道場に、光が灯る。
 ほんの数ヶ月前まで毎日のように通っていた場所も、離れてみれば少し懐かしく思える。
「サヤ、行こ!」
「はいはい」

 それと同時に駆け出し引き戸を開くと、出迎えてくれる後輩たち。
『おめでとうございまーす』
「えへへー、ありがとー……でも、何のおめでとうなのかな?今日って」
 キリノがそう言うと、2年以上の部員たちは誰からともなく顔をニヤニヤさせ始める。
「おょ?」
 ぽかんとするキリノの隣をすたすたと離れ、後輩たちの先頭にサヤが立った。
 見れば道場の真ん中に用意された机には、大きめのケーキが置かれている。
「内緒にしててゴメンねえ、まぁでも、おめでとーキリノ」
「いやだから、何のおめでとうって……サヤ?」
「いいからいいから。さて、ゲストさーん。出て来いやぁ!」
 サヤが戸口の方に声を遣ると。
 いつかと同じ格好、同じ口上で現れる――――現、キリノの婚約者。
「おっ、おっ、俺の名は…」
「なにやってるんすかセンセー?」
 全てが一年前と同じとは行かず、鋭いツッコミを入れるキリノ。
 だがしかし、周囲の目が要求する物は、そしてそれを代表するサヤの声は。

「ほらっ、いけキリノ!」
 ばむ、と背中を押されると、先生の前へ。
 既にマスクを脱いでいるコジローは、照れ臭そうに頭をかくと。
「ゴメンな…黙ってて」
「…いいっすけど、ホントに何のお祝い…」
「いや、あれなんだそうだぜ?」
 そう言いながら指差すその先には、花で飾られた額に、大きく描かれている文字は。
”再会一周年、おめでとー!先生と部長”
 キリノがそれに気付くと同時に、周囲から万雷の拍手が注がれる。
『ご婚約おめでとうございます、キリノ先輩!』
 それが大きな波になると、一年前を思い出して顔を真っ赤にするキリノ。
 羞恥心で消え入りそうなキリノを何とか安心させようと、コジローが頭に手を乗せると。
「まあ、ありがたいよな、こういう事って」
「……もう!」
 意を決したキリノがその胸に抱き付くと、不意を突かれ尻餅をつくコジロー。
「皆、バカなんだから…」
「ごめん…な」

 更に勢いを増す拍手の音のなか、パーティは開始され、そして続いていく。
 しばらく歓談の後、再び二人きりになるとその手を握り、キリノは呟いた。
「……でも、ありがとう…」
「ああ、俺の方こそな……」
「もう、一生離れないでください」
「もちろんだ」
 そういうとコジローは、その手を強く握り返した。

 道場の片隅では、ねこの家族がアクビをしながらそれを見ていた。


終わり