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数日前
~道場~

練習も終わり、帰ろうとした時である。キリノがやってきた。
「せんせー、…こないだ弟にせがまれてマフラー作ったんですけど、毛糸余っちゃって、もうすぐ春だし、余らせちゃうのももったいないんでマフラー、編んであげましょうか?」
何を唐突に…そう思ったが、とりあえずこたえておいた。
「作ってくれるんだったらありがたくいただくが…。そうだな…、そしたら俺も何かお返ししないとな。…考えとくよ。」
「♪
……コホン。
はいはい、あんまり期待しないでおきますよ。…じゃあ今度二人で部活の練習用の竹内買いに行く時までに作っときますかね。」
そう言いつつ去っていくキリノを見ながら、何にしようかなぁ…などとボンヤリ考えていた。

買い物前夜
~千葉邸~

ちくちくちく
「ありゃ~、ちょっと長くなっちゃったかな…」
長さを確かめるために自分の首に巻いてみた…
「…やっぱり長い…。」
(…もう少し長くしとくか…)
ちくちく
愛情を込めて紡いでいくマフラーがどんどん長くなっていくのを見ていたら、勝手にいろんな光景が思い浮かんできた。自分でも恥ずかしい///

買い物当日
待ち合わせの場所まで歩いていく途中、オモチャ屋さんの前を通った。ガラス張りの店前には可愛いクマのぬいぐるみが置いてある。
(せんせーのお返しってなんだろ。あたしがぬいぐるみ好きっての知ってるから、こんなのかなぁ?でもあの人がそこまで気が回ると思えないし…)
ぬいぐるみを持ってくるコジローを想像して、なんだかミスマッチだと笑いそうになる。

花屋さんの前を通った…
(花束とか?そんなの持ってきたらホントに笑ってやろ…)

次に質屋さんの前を通った。店前を歩きながらちらりと見るとブランドの指輪がなかなかお手頃の価格で売ってある。
(ま、まさかペアリング!?…ってバカバカッ、付き合ってるわけでもないのに、なに期待してるんだろ。あんなちゃらんぽらんな人なんだから、期待しない方が…。)

~待ち合わせ場所~

(まだキリノは来てないな…)
時間より少し早く着いてしまったが、キリノが時間に遅れるとは思えない為、それほど待つことにはならないだろう。そう思っていると、向こうから私服を着たキリノがやってきた。紙袋を持っている。
「せんせー、お待たせしましたぁ~」
キリノがそう言った瞬間だった。
『突撃っ、街角カップル~!!』
「うおっ」
「きゃっ」
『○○テレビなんですが、お時間いいですか~?』
いきなりリポーターっぽい女が話しかけてきた。後ろにはテレビカメラ(だろうか?)を担いだ男もいた。
「別に、構わないけど…な?」
「…えっ、あ、はい」
『街で見つけたカップルに突撃してお互いに普段言えないこと、感謝の気持ちなんかをテレビを通して言い合ってもらうって企画なんですが…、じゃあまず、彼女さんの方からっ。こっち来て下さい。
彼氏さんはヘッドホンをお渡しするのでそこで待機お願いしま~す。』
いや俺達カップルじゃないんだが…と言う間すらなくドンドン仕切られる。
キリノが向こうでカメラに向かって何か話しているが、一体どんなことを言ってるんだろうか。だらしないだのちゃらんぽらんだのそんなトコだろう。キリノにとって普段の自分がどう映っているのか、大体の予想はつく。

数分後、ヘッドホンを外されながら言われた。
『……………次は彼氏さんのお話を聞いてみましょう~』
俺の番か…。
『彼女さん、可愛い子ですねぇ。でも見たところ結構年の差がありそうなんですが、ズバリ、そんな年下彼女のどんなところに惹かれたんですか?』
(学校の関係者が見てる可能性もあるし、まずは交際してるってことを否定して、当たり障りのないことを答えとこう。)
そう思ったし、実際そんな感じのことを言ったと思う。
一通り終えるとリポーターの女性は、礼を言って去っていった。最後に、『放送をお楽しみに。』と、楽しげなウインクをして。
それは、俺達に向けられたものだったのだろうか、それとも俺に向けられたものだったのだろうか…。

(先生はどんなことを言ったんだろう。なかなかきわどい質問もあったし、結構正直に答えちゃったかなぁ…。
んん~っ、ちょっと切り出し辛くなっちゃった……。
でも…、えいっっ)
「せんせー、これっ」
(ちょっとぶっきらぼうだったかな…。)
そう言ってマフラーの入った紙袋をコジローの目の前に突き出す。
ドキドキ
「!?……」
コジローが受け取った紙袋の中身をガサガサと見る。見られてる。
「?」
「……………あっ、そうかっ、マフラー編んでくれるんだったっけか。俺もお返しするんだったよ……な?…。すまんっ。ホントに、その……ごめんっ!!」

「え………………。
…い、いや、別にせんせーのお返しに期待なんかしてませんでしたし、気にしなくてもいいっすよ…。どうせついでに編んだだけなんだし…。」
「そうは言ってもなぁ。せめて毛糸代だけでも…。」
そう言って財布からおもむろに現金を取り出して握らせられた。

「あ…………。………お金……」
ポロッ……ポロ…ポロ。
「あれー、やだなっ。どうしたんだろ…急に…。おかし…、…おかしい…なっ……グズ…あ、あれれ……?」
ひんっ……ひぃんっ。嗚咽というのだろうか…そんな息が漏れた。

「…ごめん……グス、やっぱり……、今日は…帰る。」
(一人ではしゃいで、一人で盛り上がって、勝手に一人で期待して…。
あたしバカみたい…。せんせーがくれる物だったら、あたしにってくれるんなら、なんでも嬉しかったのに…。こんななら、最初からあんなこと言わなきゃよかった…。)

~翌日~

道場にキリノはまだ来ていなかった。
あんなことになったから約束を忘れたことを謝ろうと思ってたのに、授業中も授業が終わった後も、一度も目を合わせてはくれなかった。

「せんせー、キリノまだ来ないの~?もうバニ学見ちゃうよ?」
あれから、決まって毎週、道場でバニ学のビデオを揃って見る習慣がついていた。それはわかってるハズなのにキリノは来ない。よっぽど俺に腹が立っているんだろうか…呆れられたのだろうか…。

「昨日キリノと竹刀買いに行ったんでしょ?そこで何かあったとか…」
「実はな、かくかくしかじかで…」
「はぁぁぁ!?!?現金渡したのっ?それで約束守れなかったから怒ったんじゃないかって?サイッテーッッ、せんせー、キリノのこと、ぜんっぜんわかってないっ!!」
「サヤ先輩っ、キリノ先輩のトコに行きましょう。もう帰っちゃってるかもしれないし…。タマちゃん達は先輩がもしここに来たときの為に残って練習しながら待ってみて。」
「…わかりました。」
「…あの、ミヤミヤ、俺もやっぱ探した方がいい…のかな…?」
「さぁ……死ねばいいんじゃないですか。」
「……。」

そう言ってサヤとミヤミヤが道場を飛び出して行くと共に残るメンバーも着替えの為に更衣室へと入っていった。

俺は一人、道場に取り残された…。

なんでこんなことになってしまったんだろう…。
ビデオを入れる前の状態のテレビから地方番組の音が聞こえてくる、それがさらに虚しさに拍車をかけた……。

『突撃っ、街角カップル~!!』
つい昨日聞いたのと同じセリフが同じ声で聞こえてきた。
画面には昨日のリポーターが、次にキリノが映った。後ろの方にはヘッドホンをつけた俺もいる…。
『彼氏さん、だいぶ年上の方ですか~?スタイルもいいし、大人の男って感じですねっ』
『いや~、あれはまだまだ子供っぽいですし、大人の色気なんてのとは程遠いっすよ……。でも、そんなトコが可愛いっていうか…、それでもたまに見せる大人の顔がかっこいいっていうか…って、あれ?なんか矛盾したこと言ってますね…、あはは…。』
『ではでは、付き合い始めたキッカケはなんだったんですか~?』
『えっ…、あれ…そか。私たちまだ、その、付き合ってなくて…ですね、』
『『まだ 』とは?』
『いや、あのその…困ったなあ。(ポリポリ)…お互いの為っていうか、せんせーの為っていうか…』
『先生!?なんだか芳ばしい香りがしてきましたね~。』
『いや…だから、ですね?さっき言った『好き』ってのは一般的な意味でってことでして、』
『あれあれ?『好き』なんて言いましたっけ?『可愛い』とか『かっこいい』とは言ってましたが…』
『!!………///』
『では、彼女さんをこれ以上イジめたらかわいそうなので、次は彼氏さんのお話を聞いてみましょう~』

俺はただただ、他人ごとのように「あぁ、あの女の子はこの男のことが好きなんだなぁ」なんて思いながら、ぼーっと見入っていた。

……が、その女の子が持っている紙袋が目にとまった瞬間、二十を過ぎて何年にもなろうと言うのに泣きそうになる感覚に襲われた。

(くそっ、…………ミヤミヤの言う通りだ、確かに俺なんか死ねばいい。
キリノと付き合いの長いサヤや、カンのいいミヤはわかってたんだ…)
心の中で自分に呪いの言葉を吐きながら、これまでのことを思い返していた。
確かに…、そう思えばキリノの気持ちに気づいてやれるタイミングは何度もあった…。
(どうして気づいてやれなかった……。……なのにアイツはそんな俺をずっと、ずっと支えて…見ててくれて…。)
そう思うと、自分を嫌いになっていく反面、いち生徒に対する教師としての愛が、恋というものに変わっていく感覚がした。

『彼女さん、可愛い子ですねぇ。でも見たところ結構年の差がありそ…………』
リポーターはそのままアホ面の男にインタビューを始めたが、そんな物は見ずに道場を飛び出す。
が、今の自分にはキリノの前に立つ資格はない。彼女に会う前にはやらなくてはいけないことがある…。なんとなくだが本能的にそう思った。


~夕暮れの川原にて~

(みんなに何も言ってないし、ズル休みになっちゃったな。あたしが部長さんなのに…。)

「キリノっ!!…探したんだぞ…」
ビクッ!
振り向くと、いつもは誰よりそばにいたいのに、今だけは誰より会いたくない人がそこにいた。
「…せん…せー……。」
反射的に逃げようとしてしまう。…が、それよりも早く腕を掴まれていた。

「…離して…せんせー…。」
「離さないっ。色々言いたいこともある。…けど、その前に…、これを…。」
そう言って何かを手渡そうとしてきたが、今更受け取る気にはなれない。
「もういいですよ。そんなにお返しのこと気にしないでください。あれはあたしが勝手に言い出したことであって…」
「違うっ!そうじゃない。そうじゃなくて…これを…。」
「あ…。」
テレビドラマとかでよく見る四角い箱…。コジローの大きな手がそれを開けると、中からはやはりドラマでよく見る物が出てきた…。
「え………なに…これ…?」
言われなくてもわかっている、これは指輪。でも、そうじゃなくて…
「…これ、なに……?」
それでも口から出る言葉はそれしかなかった。代わりにコジローの顔を見つめる。
「今はまだ、気持ちにこたえてやることはできない。言葉にすることもできない。だから…それが精一杯だ。けど、お前が卒業したら…、その時は俺の方から言わせてくれ、つきあtt」
「しーっ、それは言っちゃダメなんじゃないんですか?」
一瞬、嬉しいことこの上ない言葉が聞けそうだったが、それは自分も自分なりに決めて守ってきたことである。卒業するまでは絶対に先生に気持ちを伝えない。
だから、勢いでそれを破るようなことはあってはならなかった。
「でもせんせー、……その…いつから気づいてたんですか?」
「…今さっきだ…。」
「!!」
(はぁヤレヤレ、大変なニブチンを好きになっちゃったなぁ…)
そう思いつつも、気を抜くとにやけそうになる顔を引き締めるのが大変だ。
「夕陽がキレイだなぁ~。」
なんて言いながらわざとらしく伸びをする先生の顔が赤かったのは夕陽があたっているから、ってだけじゃない気がした。

~夕暮れの川原にて~裏

木の影からイチャイチャする二人を見つめる影が2つ…。
サヤとミヤミヤである。
「ぜんっぜんわかってないなんて言っちゃったけどさぁ、先に家にも帰ってないって聞いてあっちこっち探し始めた私らより早くあの子探し出しちゃうんだもんね~。」
「しかもあんな物まで買ってるんですよ?探すどころかほぼここに直行してるんじゃ…」
「あ~、でもキリノとコジロー先生って前からああいうことあるのよ。通じ合ってるっていうか、なんというか…シンクロ?みたいな。でもこれで一件落着だね~」
そう言って立ち去るサヤを見ながら思う。
(シンクロ……。私とダンくんも、いつかきっと…)


~おしまい~