「じゃー、おやすみサヤー。また明日ねー」
「うん、おやすみー」
 サヤとひとしきりドラマの話題で盛り上がったあと、キリノは携帯をきってベッドに寝転がった。
天井を見上げながら、彼女はさきほど話していたドラマの内容を思い返していた。
それは、よくある学園物で主人公の教師・翔と生徒のリョーコちゃんの恋愛が中心の物語。
ダメ教師の翔とリョーコちゃんが、部活を通してたがいに惹かれあう過程を全12回で描いていた。
今日話していた内容は最終回で、不祥事により学校をクビになった翔が、
リョーコを傷つけないようにあえて嫌いだとウソをつく、という展開だった。
「先生もクビになったら、アタシたちにああいう態度をとるのかな?」
 携帯の待ち受けにしている部員全員の写真を見ながら、キリノはポツリともらす。

「というわけで、今日で俺は室江を去ることになった」
 翌日、コジローは部員全員を集めると、とうとつに語った。
「え、えぇぇぇ。そんな、いきなりすぎません!?」
 キリノが納得いかない、といった口調でコジローに詰め寄る。
「まあ、ウチが結果残してないからな。とくにキリノ」
 コジローはキリノを見下ろしながら、冷たい目で突き放すように喋る。
「お前、まったく成長してないよな。手首だけで振るクセもなおんねーし、おかげで明日から無職だよ」
「え……」
 キリノは、コジローが喋った言葉を信じられない、といった顔でコジローを見つめ返す。
「うそだよね……先生……」
「うそじゃねーよ、大体、下手糞な弁当とか調理実習の料理持ってこられても迷惑なんだよな」
「ひどい、アタシはずっとコジロー先生のために……」
「しらねえよ!!」
「ウソだといってよ、コジロー先生!! アタシはいつだってコジロー先生のために……」
 思わず、言葉が堰を切って飛び出す。だが、コジローはそんなキリノを冷めた目で見るだけだ。
「ま、そーいうわけだから。お前は俺のことなんか忘れちまえよ」
「そんな……」
 コジロー先生は、そんなヒドイ人じゃない。これは何かの間違いだ。
「好きなの!」
 キリノは、声を振り絞って叫ぶ。もう、人の目も気にしていられなかった。
「行かないで」
 目に涙を浮かべながらコジローに取りすがる。
「お願い……」
「って言われてもなあ。まあ、お前ならいくらでも男がよってくるだろ」
 だが、コジローは残酷な言葉を返す。
「ヒドイッ!」
 あまりにも、あんまりな答にキリノは泣きながらコジローのシャツをつかむ。
そのまま、コジローの顔を覗き込んだとき彼女は気づいた。
彼女に向けた残酷な言葉は、コジローの本心ではないことに。
「先生なんて……ダイッキライ!」
 キリノは、そうささやくとコジローの唇に自分の唇を……

「ん……んううう」
 キリノは、身もだえすると自分がコジロー人形MK-Ⅱに抱きついていることに気がついた。
「あ、あれ……夢?」 
 どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。ドラマの内容をそのまま夢で見ていたようだ。
「あ、あはははは。あたしったら……アレだねえ」
 誰に見られたわけでもないが、照れ笑いをしながら下を向く。

「よっ! キリノ。お弁当少しわけてくれ……ってどうした? 何かすげえ豪華だぞ」
「あ、あはははは。どーぞ、どーぞ。先生。好きなだけとってってください」
「何かあったのか?」 
「罪滅ぼしというか……夢のお詫びっス」
「???」
 なんだかよくわからないまま、コジローは太いエビフライをつまむ。
「ん、やっぱりキリノの弁当はうめーなー。この間の調理実習のタルトも最高だったぞ」
「えへへへへ。もう、その、ごめんねコジロー先生~!」
 キリノは顔を真っ赤にすると、コジローにお弁当をあずけて教室を飛び出していくのだった。
最終更新:2009年01月30日 23:08