「…まぁ、なるようにならーな」
言葉面とはまるで正反対の、力無い声で彼は呟いた。
その隣でそうですね、と相槌を打ちながら。
「でも、もしこのまま取れなかったら…」
まじまじと、くっついた手の平同士の甲を見遣ると。
明確に不安の意思を覗かせ、彼女はこう言った。
「どうします?」

―――――時間は、少しだけ遡る。


その時、道場には既に全員が揃っていた。
もはや定例となった観のある懇親昼食会の、よくあるひとコマ。
異なることはと言えば、いつもなら臭いを嗅ぎつけて目を覚ます顧問が、
今日はまだ道場の隅で眠ったままである、といった事くらいであろうか。
どうやら試験が近いのでこの所徹夜続きらしい。
そっとしておいてあげよう、と、部長が言うまでもなく全員がそれに倣うと。
これまたいつもの出来事である、弁当箱を開けた聡莉の悲鳴が轟き、
今日は何事だ、と全員がそれに注目する。

「うっうっ、わ、私のご○んですよが…」
見れば手に持っているのはスティックタイプの香ばしい海苔のふりかけ、などではなく。
確かにスティックではあるもののやや大振りな―――どちらかと言うと違う方の糊、を想像させるもの。
”なんでも丸めて固めます・MP竜珠ボンド”
という売り文句が書かれたそれは、どうやら紛れも無く接着剤そのものであるようだった。

「こ、こんなのごはんにかけて食べられないよう…」
それにふう、と溜息をつきながら。
「まあ、まだ今日はそれだけならマシな方じゃない?」
肩を落とす聡莉に都がフォローを入れると。
当の本人は、最早慣れ切っているのか、落胆もそこここに。
「でもこの接着剤、ほんとすごいんですよ、この間なんて…」
間違えて持ってきたアイテムの自慢を始めた。
そこに居る全員が、その意味不明のポジティブさに呆れ返る中。
興味津々でその説明を聞くものが、一人。
「ほうほうさっちん、そりゃそんなにスゴいのかい?」
「すごいんですよ!この間なんて…」
「ちょっと、貸して?」
猫口でにひひ、とイヤらしい笑みを浮かべながら。
それを受け取った彼女が立ち上がり、向かおうとするのは―――彼のもと。



「ちょっ、先輩どうするつもりなんですか?」
「んー?ちょっとねー、久々に意地悪しちゃおうかなって」
軽くそう言い放つ様子に、都は。
(…手に負えない)
そう思ったきり、そのままであった。さらに外野になると、もはや止めもしない。
おそらく一番付き合いの長い鞘子などは、さも日常茶飯事といったことの様に
口におかずを入れもむもむしながら様子を見ているだけだ。楽しそうですらある。
それでも都の胸に多少、引っ掛かりが在るとすれば。それはまさに、距離感であった。

思うに、彼と彼女は――――もとい、顧問と部長は。
その言葉だけでアノ関係を表現する事は非常に困難だ、と言い切れるほどに。
独特の”間”を持っていた。と言うよりも、むしろ。
(…遠慮がなさすぎる)
そう言った方がともすれば適切だと感じられるくらいに、その距離は緊縮していた。
それは、最初に会った時から。いや厳密には、タバコの臭いを二人に同時に注意された時から。
そしてその後嬉しそうに顧問に頭を撫でられる部長を見て、抱いた感覚である。

この二人は、近すぎる。
その間に存在するものがたとえ、間違っても恋愛感情的なものでは、無かったにせよ。

先ほど「そっとしておいてあげよう」と言った同じ口で、悪びれもせず悪戯を、と言う。
実験と称し、足の裏を突付いているのを見た時も、大体そんなようなものであった。
ノリの軽さ、と言えばそこまでだが、少なくとも顧問に対する部長の態度は、
(”幼い”)
と、そう断じられるに足るだけのものがある。
或いは、それを許している顧問の器もまた存外、大きいのかも知れない。
いや、もしかすると精神的に同レベルなだけなのだろうか。

「…で?」
都がそのような他愛のない想像を巡らせつつ、
「この間なんて、どうだったのよ、サトリ?」
先程から語尾を濁している聡莉にその続きを問うと。
「そ、そうです。この間なんて……あれのせいで、私の部屋、開かずの間になっちゃったんですよ!」
「へ?」
それが聞こえて振り向いたのは、既に彼の右の手の平一杯に接着剤を塗り終えた後の彼女であり。
同時にふわあ、と目を覚ましたのは、既に片方の手の平一杯に強力接着剤を擦り付けられた事を知らない、彼であった。



「おう、キリノか…今日のメシ、なんだあ?」
「あ、え、いやぁ…」
「んん?どした?」
説明のつかない状況に言葉も出ない。
彼女はただ、半笑いで。後から聞かされたその効果が、自分の想像以上であった事実に生唾を飲むのみであった。
因みにこの時、彼が寝覚めの勢いで手の平を握り込まなかったのは二人にとって僥倖であった、とは言えなくもない。
ともあれ彼はよっこいせと立ち上がると、いつもの様にのそのそと、芳しい香りの方へと向かう。
そして一様に箸を止め、自分(の右手)を見つめる昼食会の面子の間にぬっ、と顔を出すと。
「おうタマ、今日はドカベンじゃないのか。自分で作ったのか?えらいなー…」
呑気にそう言いながら、”その手”は明らかに、珠姫の頭を撫でようとして動いた。
全員がその動きに対し、尋常でない緊張感を走らせるが、動ける者は一人としていない。
当の珠姫自身、これを避けたものかどうかの判断がつかず、身を竦めているのがやっとであった。
―――――動ける者は、誰一人いない。かけ離れた位置に居る、当事者のただ一人を除いては。

「先生、触っちゃダメー!!」
凄まじい勢いで飛び込んで来たかと思えば。
彼女の身体は”その手”ごと彼ともみ合いになり、転げた。
置いてあった彼女のお弁当箱は引っくり返り、その場に居る全員の視線が二人が転がったその方角に注がれる。
「つつつ……てめえキリノ何しやが、が!?」
「うちち……お、おりょ?」
起き上がろうとする右手と、あたりを手探りで窺おうとする左手。
一つになった二つの手は、同時に下された異なる命令を実行しようとして、もつれた。
びったりと、空気をも入り込ませぬ勢いでくっついた両の手は、
「んむぬぬぬ…」
「ちょっ、ちょいと先生タンマ!痛いですよ!」
「あっ、スマン…」
とても力任せに引き剥がせる様子ではない。
そのうちに、全員がそこに集まった。
一人残らず心配そうな顔をしているが、中でも聡莉のものは格別だ。
「あう、あう、あわわわ…」
「…アンタ、どーしたの?部屋のドア、最後は開いたんでしょ?」
開かずの間に”なっちゃった”と過去形で言うのは、つまりそういう事だ。
極めて理性的と言える都の判断にも、しかし現実は非情である。
「…ギマシタ」
「は?」
「も、もぎました!ドア!お父さんが、ノコギリで!」

222 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 13:26:20 ID:xVrAbtDL
『!!?』
その場に居る全員が青褪め、ばっ、と一様に当事者二人の顔を見た。蒼い。おそらく自分の顔よりも。
そこからふと、場違いな狂笑をあげる者が、一人。やがてその笑いが収まると。
「………切ろう!!」
限りなく真顔で鞘子はそう言ってのけた。目は当然、笑っていない。
「…できるかっ!!」
もちろん彼は、反駁の声をあげた。周りも流石にそれは、という顔である。
そのうちにうんうん、と眉をしかめていた聡莉が、パッと思い出したように表情を明るくすると。
「そ、そういえば確か、お兄ちゃんが溶解液があるって…」
「そ、それを早く言えよ、東!」
彼の声に続き全員がおお、と歓喜の声をあげると。
逆にあっ、と、ある事を思い出した聡莉の表情が再び淀んだ。

「…でっ、でもたしか、塗ってから時間経ってたら取れなくなるって…」
「ど、どんくらいだそりゃ?」
「た、たた確か三時間くらいだったような…はい」
「い、急げ!急いで取ってきてくれ!……島先生には言っとくから!早く!」
「はっ、はいぃ!」
そのまま、物凄い形相で急かされ、
泣きながら子犬のように走り出した聡莉の背を目で追いながら。

「三時間か…間に合やあいいけどなあ…」
「さとりん、大丈夫だといいんですけどねえ…」
「う。」
そう言われてみれば、相手は聡莉である。
首筋に大粒の汗を這わせつつ、「ま、まぁ大丈夫だろ」と空元気を振りまく顧問の様子に。
(はぁ…)
都は、深々と溜息をついた。つくのと同時に、都の午後の授業は休講になった。
そんな事はつゆ知らず。改めて外側に向けられた、自身の肩から先の異物感を感じると、彼は。

「ちょっと待て、そういや俺、これで午後の授業はどうすんだよ!?」

答えの返って来るはずのない絶叫が、道場にこだまする。
一方で、彼女の方はというと――――とりあえず、笑っていた。

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第一の難関は、実のところそれほど、と言うわけでもなかった。
吉河先生に事情を説明し(最初は驚いていたが、後にニヤニヤし始めたのは何だったのか)、
島先生に取り次いでもらって、聡莉の事情を説明する。
特に職員室を賑わせる事もなく。ともすれば、何故こんなにも怪しまれないのだろうか、などと
当人たちが不思議に思ってしまいかねないほどに、ひどく速やかにコトは運んだ。

しかして問題は、次の段である。
そびえる教室のドアを前に、彼等は生唾をひとつ呑み込んだ。
チャイムが鳴り、がらりとドアが開き、教師が現れる。全くいつも通りの風景。
違っている事はと言えば、その右手の先に誰もがよく見知った女子高生がくっついている事くらいだろうか。
クラスの大半は”それ”を承知しているとは言え、こうまで露骨なものを見るのは、誰にとっても初めての体験である。
自然、勢いのある女子側の茶化すような声が飛び交い、浮ついた空気が教室を充たす。

「えーっと…まあご覧の通りそういう訳だから、今日は板書をキリノにやって貰う。すまんな」
その空気を、力技でゴリ押し気味にねじ伏せようとするも。
『せんせー』
「おう、なんだ?」
『ラブラブ?』
「…は?」
女子側の黄色い声は少しも止まる気配を見せない。どころか。
「いつ結婚するの?」
「何してたらそんなになるの?」
「キリノおめでとー!」
(………だあああああっ!!)
概ね事前に予想していた通り、とはいえ。
彼は内心で、地団駄を踏んだ。彼女もまた、照れて頬をかくのが精一杯であった。
生徒に対して何を申し開こうとも、この手と手はくっついてしまっている。
為す術の無さに呆然としながらも、賑やかな声のトーンが僅かに落ち着いた隙を見計らい、
「…よし!もういいな?授業すんぞー」
強引にそう切り出すと、未だクスクスと囁く声を背に受けつつどうにか授業は始まった。ものの。

「…キリノ、漢字違うソレ」
「へっ、どこっすか?」
「ここだここ…っ、と」
「ちょ、おっ…と」
指摘の為につい右手を振り上げようとすると、引っ張られた左手がもつれ、身体が寄り添う。
あるいは。
「センセー…届かないんす、けどっ…!」
「ああ悪い悪い。消すだけだったら俺がやるよ。貸して」
「わっぷっぷ」
「ああスマンスマン、灰避けてろよ」
「すいませぇん…」
けへ、けへと噎ぶ彼女を抱き寄せるように腕の中に容れ、左手は小器用に黒板の文字を消していく。
そんな些細な出来事が発生するたびに巻き起こる失笑と歓声の渦に、つどつど授業は中断され、結果。
全体を通して消化できたのは予定していたカリキュラムの1/3ほどがやっとであった。

そして授業が終われば、さらにひどい。
紀梨乃の友達を含むクラスメイトは、詳細を求めて怒濤の勢いで二人の下へ挙った。
それに対し、もはや完全に疲弊し切った彼と彼女に出来る事と言えば。
「……逃げるぞ」
「は、はいっす!」
逃避行。それが精一杯の行動であった。
あっという間に教室から遠ざかって行く二人の姿を眺めながら。

「…やれやれねえ」
髪の長い紀梨乃の友達が教卓をなでつつ、呆れるように言うと。更にそれに追従するように。
「かけおち…か」
髪の短い紀梨乃の友達がうんざりした顔で、ぽつりと呟く。
詰め寄ろうとした女子全員が頷き、それがそのまま、クラスの総意となった。

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「…とりあえず、戻るしかねーだろ」
現状、校内で二人が落ち着ける場所は、勿論ただ一つだけしかない。
それにコクンとひとつ、頷くと。ぐっ、と引っ張るように其処へ導こうとする彼の手に。
(…あれ?)
彼女は、ほんの少しだけ違和感を感じた。
確かに手と手は、繋がっている。強固に結び付けられている。しかしながら。
僅かながらの寂寥感。走りながら空いた右手をグーパーさせつつその正体を探していると、そこはもう道場であった。

「よっこいせっと」
道場の壁を背に腰を降ろし、校舎からのダッシュで上がった息を整理すると、二人は同時に一息ついた。
だらんと降りた、交差した腕の先は、未だに離れようともせずお互いが一つである事を主張している。
しかし相変わらず、彼女の正体不明の違和感は解消されないまま、逆に募り続けていた。
(…何だろう?)
ほんのわずかな事であった。
繋がっている手の向こうに、確かにその人はそこに居る。なのに何故だろうか。
”手の平から指先まで、ぴったりとくっついたままの”手と手に、寂しさを覚えてしまうのは。
その彼女の困惑の様子を、今の状況によるものだ、と考えた彼は。
「悪ィな、お前まで授業サボらせちまって」
申し訳無さそうに空いた片方の手で頬をかきつつ、多少外方を向き気味にそう言った。

「いえ、まあ…それはしょうがないし、良いんですけど」
「けど」。自分は何を言いたいのだろう。彼女が再び戸惑おうとすれば。
その語尾の濁りに反応するように、彼の口がへの字を結ぶと、彼女の頭上に彼の左手が乗せられる。

「…まぁ、なるようにならーな」
多少力の抜け気味の声ではあるものの。
大丈夫だ、とはあくまで笑顔で、彼は彼女に向けて呟いた。
「…そうですね」
元より、不安なのではない。
”これ”はほとんど自分の我侭のような物だ。
しかし、その彼の気遣いが嬉しくないはずもない。
コテン、とすがる様に、丁度いい位置にある肩に頭を寄せると。
「でも、もしこのまま取れなかったら…」
いま感じている違和感の、すなわち源。
その両手を凝っと見つめ、意を決すると、彼の顔を見上げる。
明確に信頼の意思を覗かせ、彼女はこう言った。

「どうします?」



――――彼はひとつ、息を呑むと。
答えるよりもまず先に、繋がった先にあるその手をぎゅっ、と握り締めた。
その乱暴さにいきおい彼女の手が手折れ、指と指がしっかりと縺れる。
それはもちろん、今日、初めてのこと。いや厳密には、今までで初めての事。
痛い、よりも先に、驚きの方が感情を支配した。
それがやがて、得体の知れないうれしさに変化すると。
彼女にとっては、それだけで十分であった。それがそのまま、質問の答えになっていた。

「まあ、責任は…取る、けどよ」
強いて言うならば。むしろ遅れて来たその回答の方が、十分ではなかった。
違和感も寂しさも、薄紙を剥ぐようにすっかり晴れ渡った胸に、再び悪戯心が首をもたげる。
「取る、って?」
そう言いながら、少し、意地悪な訊ね方になっちゃったかな、と彼女が内心で呟けば。
「取る、つったら取るの!」
彼は強情にそう言い張り、何処かへと目を逸らしてしまった。
しかし、今度こそしっかりと繋がれた手の平から伝わる体温が、彼の緊張を教えてくれる。
そのまま、互いが互いの気持ちを慮ったまま、言い出せない沈黙が、数分続き。
やがてその閑けさの帳を破るような深い溜息が、ふたつ同時に流れると。
「「ずっと――――」」
そう言おうとした言葉が重なる、その刹那。



「お待たせしましたっっ!!」
ぜひ、ぜひ、と息を切らせ、怪しい壷を抱えた聡莉が道場の戸を開くと。
その奇妙な闖入者に、彼と彼女は無意識にサッ、と繋いだままの手を後ろ手に回した。
表情は、さすがに赤い。しかし幸か不幸か、息せき切らした聡莉にそれを気遣う余裕はない。
ましてや、自分の到着のそのときまで、此処で行われていたやり取りに思いを馳せるゆとり、などは無論である。
「さ、さあ!これで取れますよ?手を出して下さい!」
さあさあさあ、と眼鏡の奥を涙で埋めながら詰め寄る聡莉に。
二人は、と言えば。一度じっ、と目を見合わせると、後ろ手に回した手を庇う様に後ずさるだけであった。
「ま、まぁまぁ東。落ち着け、なぁ?」
「落ち着く?これが落ち着いていられますか!?早く早く!」
彼の、とりあえず宥めようとする言葉も。
「も、もうちょっとだけ待って…」
「あと30分も無いんですよ!?早く、手を!」
彼女の素直な要求も。
共にその剣幕に呑まれ、やがてどん、と二人の背が道場の角につくまで追い詰められる。

「手を…っ!!」
強引にその手を掴もうとする聡莉に二人がぐっ、と身構えると。
遅れてやって来た、その背後の人影から強烈なツッコミが入る。
べしん、という竹刀の鈍い音が鳴ると、頭から煙を噴き、聡莉は二人の足元にうつ伏せに倒れた。
「アンタ、水飴なんかで何するつもり?」
「み、みず…あめ…?宮崎さん、なんで…」
「そ。アンタまた間違ったのよ。……案の定だったけど」
ツッコミの主がそのまま目線を上げ、ジロリ、と二人の方を睨めば。
「あ、あ、ありがとうミヤミヤ…」
「わ、悪いなお前まで」
はぁ、と。都はまた深々と溜息をついた。
どこか後ろめたそうな、でも頬は朱いままのその二人の様子で、大よその想像はつく。
「…手、出して下さい」
語勢を強めてそう言うと、おそるおそる差し出された手に、小脇に抱えていた容器の溶剤を塗る。
すると今までの強固さは何だったのか、という勢いで、その両の手は再び二つに戻った。
「と、取れた、な…?」
「そ、そうっスねえ…?」
離れた手をそれぞれに確かめながら。
時にチラチラと見つめ合い、何か目で物を言っているようなその彼と彼女の表情は。
取れて良かった、メデタシメデタシ、などという単純な喜びだけでは決してない複雑さに包まれていた。

――――何があったのかは、大よその想像が、つく。
多少は、嫌味を言ってもバチは当たるまい。
「…外れない方が、良かったですか?」
都がそう、おもむろに尋ねると。

「「い、いやっ、そんな事はない、よ…?」」

照れて上ずった声のハーモニクスが、道場に小さく響いた。




おしまい
最終更新:2009年01月13日 23:18