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パッと見れば、男の子と見紛う様な短い髪型。
くりくりした瞳に特徴のあるその少女は、
先の休み時間に続いてキリノの席に手を合わせた。
「ねぇキリノ、頼むよ~、一緒に手伝ってよ、ねえ?」
「えー、無理なんだってばあ…」
しかし、その友人の執拗な懇願に、彼女は首を横に振り続けていた。
ひとつに、単純に気乗りがしなかった事がある。そしてもうひとつに。
「家も忙しいんだってばー、おせち料理の宅配とか…」
そう、宅配とか。宅配とか、あと余り物の宅配、とか。どこかの誰かさんちへの宅配、とか。
眉間に皺を寄せて考えるが、畢竟必然。
そんな事を理由に友人の、ここまでのたっての願いを断れる程、彼女は薄情ではない。
「でも、しょうがないかぁ……じゃあ、いいよ、そのお話。やってみる」
「ホントに?ありがとーキリノぉ!やっぱり持つべきものは友達だね!」
少女は喜びながら、うんうん、とその横で頷く黒髪ロングの友達と目を見合わせると。
「(第一段階成功だね)」
「(うむうむ)」
少し悪戯な笑みを浮かべつつ囁き合う。
一方の彼女は、友達二人の間で交わされるそのようなやり取りを
すこし不思議な顔で見つめながら、小さくつぶやいた。

「でも、巫女さん、ねえ…」



「いらっしゃいま…」
「キリノ、違う違う!」
「あっとと、スイマセン…」
大晦日の、とある神社の、とある授与所。
その一角を占める女子高生のバイト3人組のセンターの位置に、彼女は居た。
「(…ふぅ)」
家では、ひとえに明朗快活な接客がモットー。言い換えれば、蓮っ葉。
そんな彼女にとって、”いらっしゃいませ”と”ありがとうございました”を封じられたこの仕事は、
「(…難しいよぉ)」
そんな愚痴を心の中で零してしまうほどに、適職とは言い難かった。
それでも、一目で目を引く彼女の出で立ちと相俟り、巫女の衣装は絶大な効果を発揮する。
「なんか、さっきから…」
「キリノのとこにしか来ないね、お客さん」
「ふえぇ…」
数多の参拝客に追われ、余裕のないキリノを尻目に。
遠くの人込みの中に巡回中の”その姿”を見つけた二人は再び目を見合わせ、
「(第二段階開始ー♥)」
「(お主もワルよのぅ…ほっほほ)」
と、ほくそ笑むのであった。

この時間に彼が巡回で通り掛る事は、既に織り込み済みである。



「ようお参りでした~」
彼女の流れ作業は、続く。次のお客、そしてまた次のお客へ。
お客の顔を気にするゆとりなど、もはやない。
ただただ淡々と、お札と御御籤を渡していく。
二人の少女の視線に促されるように列に並んだ彼の存在にも、気付かぬままに。
そしてやがて、その順番がくると。
「…いらっしゃ…」
もう何度目か。習性が告げるその声に、あわてて手で口を塞ぐ。恥ずかしい。
しかしその羞恥心すらも掻き消す声が、頭の上から齎される。
「うん、おみくじな」
聞き覚えのある声に、顔を見上げて、もう一度。
言い間違えた気恥ずかしさ、どころではなく。
今度は目や耳の奥までが熱い。
「せ、セン…セ?」
「よう」
一瞬、ここがどこで、自分が何をやっているのかも分からなくなるような困惑―――パニック。
そういう状態に陥りかけた頭を、両隣からのフォローが何とか持ち直させる。
「キリノ、初穂料初穂料!」
「あ、えっと…ひゃ、100円にな…お、お納めください」
「ふいっと」
「は、はい。どうぞお引きください」
彼ががらがら、と音を立てて六角柱のおみくじ箱を揺らすとやがて、
そこから舌を出すように記号を書いた棒が現れる。
その記号に倣い、引き出しから御神籤を取り出すと。
「お、お待たせしました。どうぞ」
「うい、んじゃ頑張ってな」
「よ、ようお参りでした!」
御神籤を受け取り、去って行く彼の背中を寂しげに見つめていると、再び両翼から、ぽつり。
「キ~リ~ノ~」
「のど渇いたし、甘酒貰って来てくれない?」
「え、でも…」
「いいからいいから」
「ここ、あたし達でやっとくからさ」
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる友人二人に、彼女が事情を察し、思った事がひとつ。
「…分かってたの?分かってたんでしょ?」
新年早々に、担がれた。
次のお客の応対をしながら、彼女の憤りは二人に向けられる。
しかし友人二人は、それをゆるやかに受け流すと。
「いいから早く、行った方が良いんじゃないの~?」
「まだ境内にいるかもよ?」
「…もー!」
最後の接客を済ませ、腹立ち紛れに立ち上がると。忙しい足取りで、下駄箱に向かう。
それを見届けた友人二人は、さらに笑みの強度を増しながら。
「最終段階終了~」
「あとは仕掛けをご覧じよ、ね…」
「いやー、しかしあれが”もー!”って顔かねえ?あの子も」
「あの焦りようで怒ってる、みたいな態度してても、ねえ…」
『説得力が無いわよねえ~』

こぼれるニヤニヤを隠そうともせず、二人は接客を続けるのであった。



人込みの中でも、捜索は容易かった。
”ただ、なんとなく。”
友人に言われなくとも境内に居る事はわかったし、
居場所の目星も、凡そついていた。
何故かは分からないが、そういう物だと。
運命の導きだとか、見知らぬ赤い糸で結ばれているだとか、
他人に話せばそういう反応が返って来てもおかしくはない話なのだが。
彼女にとっては、それはごくごく当たり前の事であった。
そして案の定、彼はそこに居て、何やら御神籤を神妙な表情で眺めている。
傍だっても気付かないその真剣さに、少しおかしさを覚えながら。
「センセー、はい」
「…うわっ!き、キリノ!?」
もらって来たばかりの、甘酒を差し出す。
鳥居の柱にもたれて立っていた彼は少し身動ぎすると、
「ありがとうな」
すぐに平静さを取り戻し、そう言った。
一緒に温かい甘酒をゆっくりと口にしながら。
見れば、彼の手には二枚の御神籤が握られている。
「あれ?なんで二枚も持ってるんすか?」
「ああ、これなー…俺、どっちなんだろうな?」
その二枚の御神籤は、それぞれ大吉と小吉。
どうやら、渡す時に誤って重ねてしまったらしい。
「あちゃー…ごめんなさい」
「いや、びっくりさせちまったからな」
あの時の自分の緊張が思い出され、彼女が再び俯くと。
「まあ、大吉でいいかな、折角だし。はは」
せめてのフォローになればと思い、彼はそう口にした。
彼女は、というと。
「じゃあ、その小吉…あたしにください」
「ん?でも小吉だぞ?いいのか?」
こくん、とひとつ頷くと、小吉の札を握り、彼の隣で鳥居の柱を背にして立った。
そうしていつの間にか飲み干されてしまった甘酒のコップを持ち替え、右手をおろせば。
数ミリの距離に、同じく手をおろした彼の左手がある。
「…ねえ、センセー」
喋りかけながら、柱を這うように、その数ミリの距離は埋められていく。
「おう、なんだ?」
そうしてやがて、小指同士が触れ合うほどの距離になると。
「言い忘れてたけど…」
きゅ、という音がして、絡み合う小指と小指。
「…ああ」
それに反応するかのように、顔を紅潮させると。
彼女は、見上げるように。彼は、頬をかきながら。目線が重なり合う。

「あけましておめでとうございます、センセー」
「ああ、あけおめ。キリノ」