季節はすっかり冬模様。
視界に雪がぱらつく風情の中。
彼は、寒さに思わず手をこすり合わせた。
「…さむいなオイ」
「そっすねー」
!、と一瞬、驚くような表情をその相槌の方向へ向けると。
にゃん、とでも言いそうな猫口で佇む生徒が一人。
定例の片付けと戸締りを終えて、着替えを終えて出て来た彼女は、
一人ごちたつもりでいた彼の、いつのまにか隣に居た。
「なんすかーその驚いたような顔は」
「い、いやおめー、早いなって…」
一刻も早く一緒に居たかったから急いだ、なんて動機は誰が知る事もない。
もちろん、当人も。
「シャワーちょっと、ぬるかったですよ。…くしゅん!」
「ほら、ちゃんと拭かねーから」
「へへ、大丈夫っすよ。それより…」
少し意地悪そうに目尻を下げて、ぽつり。
「こうすれば寒くないですよ」
少なくとも自分は、とでも言いたげに手を差し出すと、彼の手をにぎる。
「お、おい」
「せんせーの手、あったかいですよ?ほら」
手ではなく顔の方が熱くなってしまいそうだ。
彼がそんな思いでひとつふう、と嘆息をもらし、握られた手を握り返すと。
その反応に彼女の方もまた、少し緊張を増す。そして。
「…こーすりゃ、もっと暖かいぞ?」
無造作に握ったままの手を、自分の着ているコートのポケットに突っ込むと。
「そっすねー…こりゃ暖かいや!あはは」
既にりんごのように火照った顔を隠そうともせず、彼女は笑った。
その満面の笑顔に同じく満足感を漂わせながら。
さて、と切り出すと。
「…んじゃ、行こか」
「うん!」

道場から、職員駐車場までの徒歩五分。
卒業まで一緒に歩く、それがふたりのデートコース。






おしまい
最終更新:2008年12月20日 23:58