649 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 22:09:34 ID:ZqwnzYlX
見合いのネタフリから思いついた小ネタ投下



コジローのお見合い相手は美人で性格も良かった。「虎侍さんの、仕事をしている姿が
観たいです」と、休日の剣道部練習を見学することに。

性格の良さから部員ともすぐにうち解けるお見合い相手さん(以下Aさん)。お昼の時間、
Aさんが早起きして作ったという、見事な手作りのお弁当が部員達に振る舞われ大好評。
一同「…先生がこんな人とお見合い出来たなんて、奇跡だ」
コジ「な、なんだよっ!うっせーよ!」
Aさん「ふふ、でも虎侍さんも凄く先生してましたよ」
コジ「い、いやぁ…そうですか、でもホント、お弁当ありがとうございます。こいつらの分
まで作ってもらっちゃって」

サヤ「あれ?キリノ、今日お総菜無いの?そのおにぎりだけって事はないでしょ」
コジ「お、そうそう、コイツんちは総菜屋で、いつも美味しい惣菜を…」
キリ「…あ、きょ、今日は寝坊しちゃって~、…お弁当欲しいって親にも言い忘れたんで、
慌てて作ったこのおにぎりだけなんですよ~、いや~失敗失敗。」
Aさん「そうなの?残念、私も食べてみたかったなあ、部長さん家のお総菜」
キリ「次の機会には是非ー!でも今日はAさんが美味しいお弁当を沢山もってきてくれたし、
ちょうど良かったです。…コジロー先生も飢えないで済んで、ラッキーでしたねえ」
コジ「お…おいおい、それだとまるで俺がいつも生徒におかずをたかってる様じゃねーか」
一同「アンタ実際たかってるでしょうが!」

練習後、キリノのカバンから出される事がなかったメンチカツが、そのまま残っていた。
「……タイミング、悪かったな。でもあの人のお弁当沢山あったし、皆…コジロー先生も
凄く美味しそうに食べていたし…」
すっかり冷めてしまった沢山のメンチカツの中に、やや不格好ながらも大きめに作られた
メンチカツが一つ。

『コレは味の保証はできない試作品ですから、センセーが食べてください』
『なんだ?キリノが作ったのか?俺でテストすんなよ~』
『はい、レアアイテムなんですから文句言わない~、大きめには作ってあげたんですから』
『ん、そうか!大きいのは好きだぞ!』
『キリノ~、量が命のコジロー先生じゃテストにならないじゃん』

実現されなかった会話が足取り重く帰宅するキリノの頭に浮かんだ。
「ウチで晩ご飯にすればいいけど……でも食べなかった言い訳考えて、謝らなきゃ」

「コジロー先生…本当にあの人と……」
そこから先の言葉を恐れるかの様に、キリノは胸の中にしまい込んだ。





クラクションと共にその声がキリノの耳に響いた。

「おい、キリノ!乗れ」
「ふ…ふえっ……こ、コジロー先生…、何ですか?…先生、Aさんを送っていって」
「ん?近くの駅に下ろしただけだぞ。それよりいいから、乗れ」

乗れと言われても、そこはもう自分の家まで歩いて3分という場所だ。

「お前、部室に忘れモンしていったんだよ、…だから乗れ」
「え?…私何か…忘れてましたっけ」

多少違和感を覚えながらも、キリノはコジローの車に乗った。
学校まで大した距離ではなかったが、妙に重く感じる沈黙が続く。そんな中でキリノが
口を開いた。

「それで、忘れ物って……ていうか、センセーが学校からそれを持ってきてくれれば
良かったんじゃないですか。いや…忘れ物したのはあたしですけど」
「そうじゃねえよ」
ちょうど、車は学校の駐車場についていた。

「その、良い匂いだよ、忘れ物は」
「…ほえ…っ?」
キリノの鼓動が早くなる
「お前のトコのメンチ、俺が何回食ったと思ってんだよ。他の奴等のおかずの匂いと
混ざったって…さ、わかるんだよ」

キリノは自分でも驚くほど突然こみ上げてきたものを、なんとかこらえようと
「……先生がいやしいだけじゃないっすか」
と軽口を叩く

「おま……ま、まあ…そうかもな。でも、お昼になんでそれ出さなかったんだよ、…なんか
遠慮したのか?Aさんに」
キリノはその質問自体には答えず、ぽつりと
「…冷めちゃってますよ」
「冷めても美味しいだろ、キリノのトコの惣菜は」
「でも先生、…Aさんのお弁当でおなかいっぱいでしょ」
「…食い貯めしておきたい」
「いやしんぼなんだから、センセーは」
「知ってるだろ」
ようやくキリノの顔に笑顔が戻っていた

「…コレ、タッパーごと、センセーの家に持っていってください。沢山あるし。後でタッパーは
返して貰えれば。…あっ、あといっこ――」
「そんなでかい容器に入ってる量、一人で食いきれるかよ。よし、俺んちで食うけどお前も
来い。つきあえ、キリノ」
「つ…つきあ………タッパーごとは良いけど、あたしごと持ち帰るのは…反則っすよ」
「二刀流みたいに、オトナだとOKなルールがあるんだよ、観念しろ」


「ん…そういや今何か言いかけてたか?キリノ」

コジローのAさんに対する思いはまだ分からない。自分を家に誘ったのも他意はない筈だ
…多分。でもきっとコジローは自分の作ったメンチカツを美味しいと言って食べてくれるだろう。
今は、それで…

「食べる時に、教えてあげます」


おしまい。
最終更新:2008年12月06日 22:35