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 バトルヒーローシリーズ!!
 それは、子どもたちに夢をあたえ、大きなお兄さんやお姉さんにも夢を与える人気特撮シリーズ。
 だが、現在では人気が低迷し、このシリーズは打ち切りの危機に瀕していた!
というか、ぶっちゃけコスモサーティーンのあとに熱心なファンの意見を取り入れて放映した
新作が大外れだったせいでもあるのだが……。
 そこで、製作スタッフたちは考えた。
近年、もっとも視聴率を稼いだバトルヒーロー作品は何だったか。
結論からいえば、それはジョニーズ俳優を使うことで若いお姉さんたちもトリコにした『ブラックデュラン』である。
これだ! バトルヒーロー暗黒時代を立て直すためには、もう一度ジョニーズ俳優が必要なのだ!
 そんな、製作スタッフたちの発想によってバトルヒーローの最新作『ネオブラックデュラン』が製作されることになる。

だが、それこそが千葉家を襲う悲劇の始まりになるのであった……。



「ほらほら、おかーさん。たっくんの映画始まるよ」
「ちょっと待って! ウチワ買ってからいくから!」
 うららかな春の日曜日、キリノはいもーとと母親を連れてある映画の試写会に来ていた。
それは、彼女の弟がジョニーズ事務所の俳優になってから初の主演映画である。
題名は『ネオブラックデュラン~始動編~』。
この春、バトルヒーローシリーズの最新作として始まる作品の映画版である。
なんでも、この映画でブラックデュランからネオブラックデュランへと主役を交代して
TVの第1話につなげるそうで、製作側もやたらと気合が入った映画らしい。
 そんな映画の主役に弟・たっくんが抜擢されたため、家族である彼女たちも試写会に招待されたのだ。
「キャー! タックーン! タックーン!」
「ターキージュン! ターキージュン!」
 それにしても、とキリノは思う。会場は特撮の映画だというのに、若い女の子たちでうめつくされている。
舞台挨拶に上がったジョニーズ俳優にキャーキャー黄色い歓声を上げる女の子たちを見ながら、
彼女はため息をついた。
「なんで、みんなジョニーズ好きなんだろうねえ」
「キャー!! タキジューン!」
 隣で若い子に混じりながら黄色い声をあげている母親を見つつ嘆息をもらす。
そして、キリノはふと隣の席を見たあと、そこに座っている少女に気づいた。
あれ、この子って確か……榊ウラじゃ……。
 その少女は、彼女が剣道大会のビデオで何度も見返したウラそのものだった。
だが、その顔は病的な殺意に満ちている。
「馬鹿みたい、あの女の子たちったら彼がそんなミーハーな女の子を好きになるはずないでしょう。
この雑誌にもそう書いてあるのに。しかも、私を差し置いて彼に好かれるなんてあるわけが」
 何やら、ぶつぶつぶつぶつつぶやいているウラを見て、なんともいえない恐怖を覚えるキリノ。
背筋がぞっと寒くなり、思わず目をそらそうとする。
「あら」
 だが、間の悪いことに目があってしまった。
「あなたも“あたしの”タキジュンを見に来たのかしら」
 “あたしの”という枕詞に戦慄が走る。
体の芯まで凍らせるような冷たい空気が肺に流れ、腕には鳥肌がびっしりたった。
「いえ、あたしはそのたっくんの」
「あら? たっくん派。そうね、彼もタキジュンほどじゃないけど若手のなかでは」
 ウラが語りだした。
この子は、こんなキャラだったのかとキリノは人知を超えた恐怖を抱く。
そのとき、運よく映画の放映開始をつげるブザーがなった。胸をなでおろすキリノ。
 やがて、彼の弟が出演する映画が始まった。





 パチパチパチパチパチパチパチ!! 試写会が終わり、拍手が鳴り響く。
映画は、タキジュンとたっくんのダブルヒーローが、仮面を外して素顔のまま
蘇ったラスボスのキングエンペラー皇帝王を倒すところで終わっていた。
もし、ここにタマちゃんがいたら怒り出しそうなほど適当な映画だったが、
きっとこの作品を楽しみにしている人たちは、俳優さえ活躍していれば中身はどうでもいいのだろう。
 案の定、周りの女の子(母含む)たちは感動した、泣けた、などと口々に言いながら
涙を流して俳優について語り合っている。
 ばかばかしい、とキリノは思う。なんで、アイドルの男の子なんかにここまで入れ込むんだろう。
そう思いながらぼーっとしていると、俳優たちが握手会を開き始めた。
 すぐに殺到する女子たちを尻目に、いもーとと席でぐでっと休んでいるキリノ。
その様子を見た、隣の席のウラが立ち上がりながら話しかける。
「あなたは、握手会に行かないのですか」
「あはははは、あたしはタキジュンよく知らないしたっくんは弟だから……」
「なんですって……」
 ウラの目が猛禽類のように光った。
「ちょっと待っててください」
 そうつぶやくと木刀で握手会の列にならんでいた女子たちを吹き飛ばし、
タキジュンに恐ろしいほど長く握手したあと席に戻ってくる。
「彼の素晴らしさを理解できないと先ほどおっしゃいましたね」
「え、あ、あの、あはははは。うん、とえと、アタシはほら、か、カッコイイと思ってる人が
個人的にいるから……」
 しどろもどろになって、ウラに答えるキリノ。
「かっこいい人……?」
「う、うん。あたしのために頑張ってくれてる人で」
「本当にそうなんですか?」
「え?」
 キョトンとするキリノ。
「その人のすべてを本当に知っているんですか。あたしみたいに、彼のすべてを知っているとは
到底思えません。だいたい、その人のことが本当にすきなのだとしたらあなたの行動は」
 まくし立てられ、鳥肌がさらにブツブツとはっきりしてくる。
あわれ、キリノはそのまま3時間ほどウラの恋愛観を叩き込まれることになったのであった……。





「すみせん、コジロー先生。わざわざご足労いただいて」
「いえいえ、確かに最近キリノのやつ様子がおかしかったですし」
 映画の試写会から1週間後、キリノの母親に電話で相談されて
コジローはそうざい屋・ちばへとやってきた。
「それでご相談というのは……」
「はあ、ちょっと娘の部屋に来ていただければわかると思います」
 キリノの母親は、そういってコジローをキリノの部屋の前まで案内する。

「入るぞ、キリノ」
 キリノの母が開けたドアから、部屋に足を踏み入れたコジローは絶句してしまった。
そこには、部屋一面天井に至るまでコジローのポスターが張ってある。
ぬいぐるみも、全部デフォルメされたコジローで、団扇までこしらえてあった。
カレンダーまでコジローで、机の上には一面にコジローせんせいと書かれたノートまである。

「な、何じゃこりゃあ!」
 思わず、コジローは叫んだ。
「あ、せんせえがきてくれたんだ……」
 ベッドの上で、コジローの抱き枕を抱えていたキリノが、目がすわったままコジローに歩みよってきた。
「わたし、わかったんです。わたしのすべてがコジロー先生でコジロー先生のすべてがわたしなんです」
「キリノ、しっかりしろ!」
「なんか、試写会のあと隣に座っていた女の子とどっかに消えたと思ったら、
帰ってきてからずっとこんな感じなんですよ……」
「うふふふふふ、せんせーのすべてはあたしのものですよ」
 そういって、ケタケタ笑うキリノ。
こうして、ウラの悪影響を受けたキリノは元に戻るまで丸2日を要したとさ。