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「かんぱーい!!」
 居酒屋にグラスをぶつけ合う音が響き渡る。
「いやー、お前らとこうして酒を飲む日がくるとはなあ」
 コジローが、ビールをグイッと飲み干してから感慨深げにつぶやいた。
「そりゃ、もうあたしたちみんな20超えたしね~」
 高校の頃から、さらに成長した胸を揺らしながらサヤが誇らしげに答えた。
「外山くんや忍ちゃんたちも誘えばよかったかな」
 キリノが、冷えたグラスを見つめながら残念そうにつぶやく。
「でも、忍ちゃん未成年だから遠慮するって聞かないですし。
 外山先輩と誠君も、用事があるからっていってましたね」
 すでに、2杯目のビールを注文しながらユージが笑う。
「なんか~、岩佐先輩と東さんは~教育学部のテストがあるって~」
「まあ、今のメンバーでいいじゃない。ねえ、ダンくーん」
 酒が入り、人目をはばからないダンとミヤミヤがイチャイチャしながら返す。
 今日は、室江高剣道部の同窓会。高校時代よりも少し大人の顔になっているものの
まだ、少し子どもの面影を残した面々を見渡しながら、コジローは不思議な安堵感を覚えていた。
「先生、どうぞ」
「あ、すまないな」
 コジローのグラスに、タマがビールを注ぐ。
 こいつ、でっかくなったな……その姿を観察してコジローは素直に驚く。
背も最低10cmは伸びているだろう。髪の毛も長く、昔タマの道場で見た彼女の母親そっくりだった。
「お前ら、今同棲してるんだって?」
「……はい。ユージ君連れてくると、お父さんがうるさくて。少し、こらしめようかなって」
「オヤジさん、家で毎日泣いてそうだな」
 笑いながらコジローがユージの肩を叩く。
「で、いつ結婚するんだ」
 そのまま、ユージの耳元に禁句をニヤニヤしながらささやいた。
「まだ、学生で稼げないですから。って先生こそどうなんですか!」
 すでに瓶2本分のビールを開けていたユージがコジローを逆に問い詰める。
「お、俺はその、あの、だな」
 しどろもどもどろになるコジロー。
「先生~、女性を待たせるもんじゃないぞ~」
 左手の婚約指輪をチラチラさせながら、ダンが豪快に笑う。
「おねえさん、ビール追加~」
「ダンくん、飲みすぎて夜倒れないでね~」
 そして、隣に座っているミヤミヤと2人の世界へと入っていった。
「そうですよ、せんせ~はいつまでアタシを待たせるんですか~」
 その声にコジローが振り向くと、いつの間にか側にキリノが座っている。
顔は真っ赤で、見るからに飲みすぎ。へべれけになっていた。
「そうら、そうらー。このダメ男~!」
 反対側には、もっとへべれけになったサヤが回り込みコジローをつついてくる。
ユージは、と見渡してみると、すでに遠くの席でタマと2人で何やら楽しそうに談笑していた。
「あんたらが進展しないと、あたしの小説もすすまないのら~」
「お前、無茶苦茶いうな!」
 サヤがぐでんぐでんになって絡んでくる。うわ、息が酒くせえ、とコジローは鼻をつまんだ。
「えへへへへへ、責任とれとれ~」
 キリノはキリノで、ニヤニヤしながらコジローの腕に自分の腕を絡ませてくる。
「責任って……まだ、手も出しては」
「手ぇだしてないですとぉ!」
 サヤが店内に響き渡るほどの大声で叫びながら、拳を振り上げる。 
「お、お客様……ほかの人の迷惑になりますので」
 ビールを運んできた店員がなだめるも、サヤの怒りは止まらない。
ポコポコとコジローの頭を殴りながら、キリノはキリノは、と叫び続ける。
そんなアクシデントを起こしつつ、1次会は終了した。



「いらっしゃいませー。5名様ですね、奥の203号へどうぞー」
 2次会は、カラオケボックス。途中で「2人だけの時間を楽しむ」とほざき、
ダンとミヤミヤが離脱したので、それを除くメンバーでカラオケをしようとキリノが提案したのだった。
「お酒飲み放題コース頼んだからねー」
 サヤがカクテルをごくごく飲み干しながら、カラカラと笑う。
「お前、まだ飲むのかよ」
「だってー、シラフじゃ聞けないし~」
「聞くって」
「あんたさあ」
 酒が入って言葉遣いが乱暴になったサヤが、コジローに詰め寄る。
「キリノのこと、どう思ってんのよ。なんで、手を出さないの!」
「そ、それは……」
 たじろぐコジローの横で、キリノが18番の「for your shine」を歌いだす。
「急に~」
「すきなの、好きなんでしょ? あー、イライラする!」
酒のグラスをカッチンカッチン言わせながら、サヤが頭をぐしゃぐしゃと掻き毟る。
「いい加減にSEXしなさい!」
 運悪く、ちょうど歌が終了し無音になったタイミングでサヤが叫んだ。
 マイクを持ったままキリノが凍りつく。タマとユージも凍りつく。
「あ、あの。私、次歌いますね!」
 場の雰囲気を変えようとタマがブレードブレイバーの主題歌を歌いだした。
「まあ、なかなか手を出せないのもわかりますよ」
 ユージが側にやってきて、コジローの味方をする。
「僕もそうでしたから。タマちゃんも最初の頃はカチコチで」
「お、おいおいユージお前」
 まさか、もうそんな関係……いや、当たり前かとコジローは思い返す。
「ええ、もう毎日やってます!」
 またまた運悪くちょうど歌が終了したタイミングでユージの声が響き渡った。
「ユ、ユージくん……」
「あ、ごめん。ごめんタマちゃん」
 怒るか恥ずかしがるかと思いきや、タマは潤んだ瞳でユージを見つめ返す。
「あ、あの。すみません。それじゃボクラもコレで!」
「「あ、おい。待て!」
 ユージは、そそくさとタマを連れて出て行ってしまった。 
「さあさあ、どうするの?どうす……ウッ!」
 とうとう、飲みすぎたサヤが倒れる。
「あれほれ?」
「あ、もう。サヤったら飲みすぎなんだから~。もしもし、たっくん。うん、サヤ飲みすぎちゃってさ。
 車で送ってあげて。この間、免許取ったよね。あ、でも変なことしちゃダメだよ~アハハハ」
 キリノは、てきぱきと携帯電話を取り出して弟を呼び出し……サヤはそのまま車で運ばれていった。
「二人きりになっちゃいましたね」
「そうだな」
 コジローは、あらためてキリノを見る。酒で上気したその姿は普段よりも色っぽく見えた。
「あ、あのさ。どっかでメシでも食うか、飲みなおさないか」
「それなら、先生のアパートがいいです」
 キリノは、じっとコジローを見つめながら言った。
 そろそろ、年貢の納め時ってヤツなのかもな、とコジローは考える。
いろいろなしがらみが頭に浮かんで逃げてきたが……。
「じゃあ、ウチにくるか?」
「ハイ!」
 こうして、室江高校剣道部の同窓会は静かに幕を閉じるのであった。





【サヤと音楽番組】

「では、今日のゲスト! 小説に歌に、マルチな才能を発揮している桑原サヤコさんです」
「えへへへへ、どうもー」
 照れ笑いを続けながら、サヤが会場に足を踏み入れた。
「今回の新曲MY TRACKは、高校生の頃に作曲したそうですね」
 司会のひとことにサヤは思わず苦笑いする。
「えっと、アハハハハ。まあ、色々あってしばらく封印してたんですけどアハハ」
「それでは、歌っていただきましょう。MY TRACK」

「いやー、サヤのやつ何でもやりたいやりたい騒いでたが
本当に何でもやりだすとは思わなかったなー」
 ズルズルとラーメンをすすりながら、コジローはTVを見てつぶやいた。
「あの子、無茶苦茶ですけど意外と何でも才能あるんですよね~」
 お茶を入れながら、キリノがほうっと息を吐く。

「桑原サヤコさんでしたー。いやー、相変わらず美声ですね~」
「いえいえいえいえいえいえ、そんなアタシなんて」
「次は、スニャップのみなさんです」
「たっくーん! たっくーん!」
「どもどもー」
 スニャップのメンバーが会場に入ると、笑顔でファンに手を振り出した。
「そういえば、サヤコさんとたっくんは幼馴染だとか」
「ええと、まあそうですね。アタシのほうが年上なんですけど」
「よく、今でも2人でカラオケ行くんですよ」
 たっくんの一言でえええーっと会場がざわめいた。
 
「あー、バカだね。あの子も。まーた週刊誌に騒がれるよ」
 キリノがお茶を啜りながら、ため息をつく。
「まあ、平凡が一番だな」
 コタツに手を突っ込み、コジローはみかんに手を伸ばした。
「そっすねえ」
 だらだらとした時間が続いていくのであった。