283 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 19:03:07 ID:J0Z01YiG
寒くなってきたので、胡坐かいてるてんてーの膝の上にちょんとのっかるきりのんきりのん。
310 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 08:27:30 ID:ox7y73fC
おはようきりのん。
>>283からの電波が。
「なあキリノ」
「んっ、どうしたんすかセンセー」
「どうしたもこうしたもないんだが…」
――――膝の上の子猫。もといキリノ。
さっきまで正座をし、あれやこれやと考え事を一つにまとめているうちに、こいつはそこにいた。
(なんつうんだ)
あの鎌崎高での一戦以来、自分は主観的に見ても――――考え事をする事が多くなった、気がする。
しかも客観的には、自分で思うよりもっと酷いものらしい。何かと最近、生徒にもよく突っ込まれる。
「先生なにボーっとしてんの」に始まり、授業中いつの間にか単元の範囲を超えてしまっていたり、
この間など生徒に突っ込まれるまで終了のチャイムにも気付かなかった程だ。
そして今日は、黙想の途中で俺の膝の上にちょこんと座るこいつの重みにも―――気付かなかった、ほど。
(別に何の悩みがあるってわけでもないのにな…)
強いて言うならば、深さ、だろうか。
「大人の強さ」―――そういう言葉を自分の中で定義して、更に深く、突き詰めて行けば。
その作業の中で、今更ながらに教師と言う職業の奥深さに、そして背負うものの多さに気付かされる。
しかもそのいずれもが、一つのことに感けていられず、並行に処理されなくてはならないものばかり。
気が滅入りそうになるが、これは自分だけの物ではない、誰しもの物なのだ、と思う事で、
どうにかなけなしの責任感を搾り出し、脳裏に描いた、処理を続ける。
そして膝の上にキリノを乗せたまま、再びそうした瞑想の世界に飛び立とうとする所へ―――
ぐい、と現実に引き戻すかのように、下から目線をくれつつ、呼びかける声がする。
「またなにか、考え事っすか?」
「…お前の心配するこっちゃ…」
(―――いや、そういう事でもあるのか?)
「???」
思えば、一番シンプルで手っ取り早い未解決の問題が今ここにはある。
こいつと…俺が。教師と生徒の枠組みを超えて―――いわば過剰に。
そのいう、男女の関係だと誤解を受けそうな程に…親密である、なんてことは。
(分かっては、いる。分かってはいるんだが―――)
自分からは、どうする事も、いやどうしてやる事も出来ない。
断る、と言うのも変な話だ。そもそも自分は告白などされていない。
では撥ね付けてみてはどうか?―――その場合、こいつはどんな顔をするのだろう。
その情景を想像するに、何となくそれは憚られるような気がしてしまう。
では懇々と説くか?何をだ?教師と生徒の正しい有り方を?俺が?こいつに?
「センセー…?」
この場で余計に増えた悩み事を嘲笑うかのように、再び心配そうな、無邪気な顔でこちらを見上げるキリノ。
ああもう、こいつときたら。
(――――食っちまう、ぞ?)
思いながらも、首を振る。
それが出来れば、どんなに楽だろうか。
今この膝の上でいるこいつの無防備さは、きっと自分に対してだけのものではない。
誰に対しても優しいこいつが、たまたま今は自分に心を開いてくれているだけにすぎない。
(…と、思う。)
いずれはこの屈託の無さが、自分以外の他の誰かに向けられる日が――――来てしまうのかも、知れない。
それならば、いっそ。
………
……
…
「なあキリノ」
「だからなんすか?」
「お前さ」
「???」
「お前…」
「はい」
そのまま、正座したまま肩を抱き寄せると、きゅっ、と下唇をかむ音がする。
触れ合った背中と胸で、互いの早まらせた心音同士を伝え合う。
ドクンドクン、と高まるふたつの鼓動が、どんどん大きく、早くなって行く―――
「お前…」
「………」
「…ちょっと太っただろ」
「…にゃ。………つきー、されたいんすか?」
はっはっは。
笑う以外に、すべを持たない。他に何が出来るだろう。
未だに落ち着きを取り戻さないふたつの心音が教えてくれる。
”一番シンプルで手っ取り早い未解決の問題”どころではない。
これはもう、俺の人生にとって、もしかすると一番大切な――――
「…悪い。もーちょっとだけ、待っててくれな」
「わかってますよ…」
―――だから、こそ。
あとしばらくは、このままで。
最終更新:2008年10月30日 00:24