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500 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/18(土) 23:04:51 ID:zU9cXMiU
キリノのお母さんが突然若返ってキリノの制服を着て学校へ行くという電波をキャッチしたが別に形にしなくていい


586 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/20(月) 22:46:56 ID:g4t0QIAF
>>500
折角だからなんとなく頂戴してみた



「あら、ま…やっぱり案外着られるものよねえ」
 仕方なく。
 高一の頃の娘の制服に袖を通し、鏡に映る自分の姿を確認しながら、キリノではないその人はつぶやいた。
 年の頃は17~8歳といった所だろうか。髪は長い金髪で、パッと見では自分の娘と殆ど区別がつかない。
 何故なのかはわからないが、お昼の休憩中、少し疲れてウトウトとしているうちに目が覚めると…
 そこには若い頃のままの自分がいた、という事になる。
 当然体型も当時のままであり、今とは着る物も合わず、それでは、という苦肉の策ではあったのだが。
(イケるイケる。ふふ)
 鏡の前で笑顔を作って一人ごちると、さて、とりもなおさずこの異常事態。
 まずは誰かに話さなくては、と、好奇心の方が首をもたげお店のカウンターに行くと。
 おばさん…もとい、自分の妹が相変わらずお手伝いで店番をしてくれている。
「あれ、キリノちゃん?もう学校終わったの?」
「あ、う、うん…」
「お母さん、家の方にいなかった?急に居なくなっちゃったんだけど」
「あ、あははは、えーっと…買い物行くからお店見ててね、だって~」
「あら、そう…うん、わかったわ」
「お、お願いしまーす…」
 その当たり前と言えば当たり前の反応に、何とか誤魔化せた、と安堵すると同時に。
 まずいまずい、これはいけないと思い、そのまま家を後にする。
 しかしさて、どこに向かったものか――――
 この、自分の妹にさえ判別がつかない、自分の娘そっくりの姿を抱えて。

 その口元が少し怪しく緩むと、キリノのようでキリノではないその少女の行く先は、ひとつであった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 一方の、その頃。

「ほい先生、タルトできたよー」
「うおうっ!サンキューなキリノ!待ってたぜ!」
「はいはい、慌てなくても沢山ありますよー」
 職員室の一角で芳ばしささえ漂うやり取りを交わす二人。
 キリノがタルトをその場で切り分け始めると――――
「んっ、うめえっ」
「あーもう、急がなくてもいいですってばー」
 切り分けるよりも早く、こぼれた欠片を摘み上げ口に運ぶコジロー。
 それに不満を零しながらも、その喜びようについ自分の顔まで綻んでしまうキリノ。
 さて、と、切り分けられたタルトを一緒に食べながら。
「そういえばセンセー、こないだの話ですけど…」
「お、バニッシュ学園の事か?」
「なんか…噂になっちゃってるみたいっすねえ。あたしら剣道部がTVに出るって」
「なんだかな…吹聴して回ってる奴がいるみたいなんだけどな…」
「まあ、大体誰なのかは見当ついてるんすけどね…」
「まーな…ま、でも、手荒なマネはやめとけよ?それこそまだ、本決まりですらないんだから」
「いえっさー!」

 ビシ、と敬礼をしながら、笑顔を絶やさない。
 しかし、そういえば、とそこで何か思い出した様にキリノがもじもじとし始めると。
「そういやコジロー先生は、松本アナ派でしたよね?」
「ん?あ、ああ…ま、そうだけど。何で改めて聞くんだ?」
「いやー、可愛い子にはあんまし興味ないのかなーって思っちゃって」
「んーむ、そんな事もないけどな。どっちかっちゅーと俺もお前と同じ派だし」
「エリナちゃんっすか?」
「おう、可愛いよなあの子。なんかちょっと、最近ケバいけど」
「そんな事ないっすよぉ…めっちゃかわいいのに…」
 そのまま少し、押し黙ってしまうと。互いに少し空気を変えようと、
 いつの間にか最後の一片になってしまったタルトを摘もうとする手が同期する。
「……ん」
「あっ、ど、どうぞ」
「い、いや育ち盛りなんだからお前が食えよ。元々お前のなんだし」
「でも………あ」

 キンコン、カンコン。
 昼休みの終わりを告げる、予鈴のチャイムが鳴り渡る。
 少し残念そうに顔を見合わせ、コジローがしょうがないな、という顔を浮かべると。
「んーむ…じゃあ、まあ、不本意ながら俺が平らげといてやるよ」
「そ、そうしてもらえます?お皿は後で取りに来ますから…」
「おう、任せとけって。……さて、次の授業、島先生だろ?――――急いだ急いだ!」
「はいっす!」
 そう言って、威勢良く職員室を出て行こうとするキリノに一言。
「あ、ちょい待った」
「なんすか?」
「ごっそーさん。うまかったぜ、タルト」
「……――――うん!」
 そのまま飛んで行ったキリノの背姿を追いながら、心の中で思いつつ。
(何か、訊きたそうだったのは…何だったんだ?)
 残ったタルトを眺め、後頭部を掻く。
 そのまま、よくわからんな、と一人ごちると。
「………んぁむっ、んっ、んっ、んぐっ……」

 最後のタルトは、それまでのどれよりも甘い気がした。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 少女は困っていた。
 いや、正確には身から出た錆、なのだが―――
(何よ何よ何よTV出演って!?あの子ったら、何も言わないんだから…!)
 もとい。少女は楽しんでいた。
 娘の学び舎、ここ室江高校に辿り着いて以来、引っ切り無しに尋ねられる声、また声。
 どうやら掃除の時間らしいというのに、それをほっぽり出してキリノの姿の自分に押し寄せる質問の数々。
「ねーキリノ、うちにバニ学の取材がくるってマジなん!?マジなん!?」
「先輩本当にテレビに出るんですか?」
「戸田涼子ちゃん達もくるって本当ですかー!?」
 初めは、何の事やら意味不明だった言葉も、数を重ねればその輪郭が浮かび上がる。
 家では家族で見ている事の多いあの番組――――熱血バニッシュ学園。
 どうやらあの子の所属している剣道部が、その出演依頼を受けている、らしい。

 そしてそのうちに、また一人。
 次はひとりの男の子が―――物珍しげに、声を掛けて来る。
 しかしその声の調子が、今までの物とは少し違って聞こえたのを少女は聞き漏らさなかった、のだが。
「あの、千葉さん…ちょっと話があるんだけど…」
「ん?なーに?バニ学の事ならあたし、知らないよー?」
「そうじゃないんだけど…」
「???場所変えよっか」
 そう言って、比較的静かそうな校舎裏まで移動しつつ、あれやこれやと考え事を並べる。
(ふっふー、これはこれは。あの子ってばああ見えて結構モテるのねー…)
(でも、残念だけど…お受けできないのよねえ、この話)
(勝手に受けちゃったら流石にマズいだろうし…)
(何より、ねえ…)
 キリノが家で家族に話す、楽しい学校生活。
 そのエピソードの端々に現れる”ある先生”の存在。
 その人の事を話すとき、いつもキリノの顔が綻んでいる事は――――
 当人を除く家族の中で、気付いてない者は誰も居なかった。
(どう言って、お断りしたものかしら?)
 そう考える内に辿り着き、人気の少ない校舎裏に、壁を背にして立つ少女。

「…で、何のオハナシー?」
「えっと、その…」
 おどおどしたその態度とは裏腹に、自分の前に立つその男の子の背は高く、自分より10cm以上はある。
 見たところ顔もそれ程悪くはない。ジョニーズでいうと、Jrの山口諒輔くらいだろうか。まあ、言い過ぎにしても。
(こんな子を袖にしちゃうなんて、我が娘ながら、罪作りな子ねえ…ふふふ)
 そんな妄想を垂れ流しつつ、続く相手の言葉を待つ、と。
「こんな話、千葉さんにしか出来なくて…その…」
「ウンウン、なになにー?」
「…えっと!」
 言葉を荒げると共に、こちらにうなだれこむ様に背後の壁に手をつき、顔を近付ける男の子。
 それまでの態度とのギャップにどきり、と心音が上がる。
「千葉さん、僕…いや俺…」
「ちょっ、ちょっと待っ…」
「欲しいんだ!」
(うにゃ~!!)
 娘と同じく猫口を浮かべ、そのまま流されそうになるが――――
 冷静に言葉を振り返り相手の方を見ると、どうもそういう様子ではない。
(…「欲しい」?ハテ?)
「一生のお願いだからっ…」
「沢宮エリナと戸田涼子のサイン、貰って来てくれないかな?」
「な……!!」

 ――――なに、それ。
 そう思い、内心ズッコケそうになる気持ちを抑えるのに必死になっていると。
 さっきまで自分に覆い被さっていた男の子の背後に、更にもう一回り大きな人影が現れる。
「……おー、それなら俺が貰って来といてやるよ」
 そう言って彼の差し出した色紙をつかんだその大きな人影は、背広にネクタイ。
 学校で見れば明らかに先生だとわかる格好で、何故かこちらを睨んでいる。
「ほ、ホントっすか石田先生!?」
「ああ、ホントに取材が来たら、な。―――ホラ、行った行った」
「あざーす!!」
 そう言ってペコリ、と頭を下げ、去って行く男の子。
 それに手を振り返しつつ、相変わらずこちらを睨め付ける、先生。
 その剣幕に思わず、素の感情が漏れる。
「あ、ありがとうございました…」
「いや…こっちこそ悪いな、出歯亀するつもりは無かったんだが…」
 む、この反応。
「気になりました?」
「……いやまあ…見えたんで、な」
 そのやり取りと、毎日のキリノの話に出て来る人物像を照合するだけで……自ずと、理解は近付く。
 おそらくはこの人が――――

「ねえ、コジロー先生?」
「なんだよ?」
「…ふふ♪助けてくれて、ありがとうございまーっす」
 そのままその腕に、ギュっと抱き付いてみる。思うに。
(あの子ってば、きっと奥手なんだから。せめてこの位は、やっておいてあげないと、ね)
 しかしその期待と裏腹に―――相手の反応は、鈍い。
「別に…ああそうか。タルトのお礼だお礼」
(…タルト?ハテ?)
(…意外と、意識されてないのかしら?でもさっきのは…)
 じゃあ、と再度口元を怪しく緩めると、上目遣いに見上げつつ。
「あの、先生…聞いてみたい事があるんですけど…」
「あ」
「え?」
「…いや、何でもない。それで何だ?」
「えっと…コホン。あたしって………可愛いですか?」
「ん……ああ!そういうことか!」
「え?え?え?」
 何がなにやら、ワケがわからない。
 しかし先生は、何やら得心がいったと言う顔でこちらの方を見、ニヤニヤと微笑を浮かべている。
「なんだよお前、そんな事気にしてたのか?」
「え?え?…えーと」
 おじけるこちらに、次は眉をしかめるように困り顔を作ると。

「って言うか、お前。なんか…さっきから少し変だぞ、何となく」
「そ、そんな事ないですよ!」
「敬語だし」
「うえっ…そ、そんな事、ない、っすよ?」
「そもそもなんで髪降ろしてんだ?」
「えーと、えーとこれは…気分転換?」
「大体がさ、えーっと…」
「な、なんですか…?」
「雰囲気が違う。お前…ホントにキリノか?」
「あ、あたしはキリノですってば!」
(ダメ…バレてるのかしら?)
 強引に否定し、目を見つめ合わせると、するり。
 フッと視線をかわされ、背中を向ける先生。
「まぁいいや…それよか今日は皆でバニ学のビデオ見るからな。遅れずに来いよ」
「は…はいっすー!」
 そのまま助かった、と胸を撫で下ろし、そそくさと立ち去ってしまう少女、その後方で。
「…ああ、それとだけどな、お前だって十分…」
 振り返りざまに、そう告げようとするも既に相手はおらず。
 空振ってしまった言葉の行方を虚空へと飛ばし、教師は頭を掻くのであった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 ―――――まとめると。
 見た目は中の上、贔屓目に見れば上の下、くらいだろうか。
 とりあえず、ジョニーズとは縁の無さそうな顔立ち。
(高過ぎず低過ぎずってとこかしら…でも、通好みな高校生くらいの女の子にはそこそこモテそうね)
 身に着けているもの。ネクタイ、緩そう。腕時計、していない。シャツ、よれてた。
(お金持ちじゃない、とは聞いてたけど…まぁここも、大した問題じゃない、か)
 性格。優しいのかも知れない。でもどこか頼りなげではあった。
 意識されているのかどうかについては―――
(よくわかんない、ってとこかしら。でもあの子、普段はどんな風に接しているんだろう)
 まあ家でのしっかり者ぶりを見れば、外でもそんなには大差無いんでしょうね。
 と。一先ずは結論付け、少女は既に放課後となった道場の中を覗き込んだ。

 中にはもうほとんどの部員が揃い踏みしているらしく、勿論キリノもいる。
 家によく遊びに来る友達のサヤちゃんが頭のハリセン跡をさすっているのも見える。
 息を殺し、全員の死角になっている風通しの格子戸のひとつからそっと覗き込み、聞き耳を立てていると―――
「あ、始まりましたよ」
「よかった…間違えてなかった…」
「ん、さとりん何か言った?」
「いっ、いえ何でもないです。…なんか学校で見るのもいい感じですね!」
「新鮮だ!」
 わく一同。更に高校生らしい熱狂と興奮は続く。
「最近前より面白くなってるよね!」
「あれだよね、最初チョイ役だった沢宮エリナが前に出るようになって」
「あの子いいよねー…でも、あたしはやっぱ戸田涼子ちゃん派だな~」
「どっちも、めーっちゃかわいいよね~」
 そしてその最中。
「あー、あたしもあんな風に可愛くなりたいよ~」
(…あれれ?)
 家で居るときとは異なる種類の、その余りにも素直な感情の吐露に違和感を覚える間も無く。
 それを受け、今度は間髪置かず、先程のんだ言葉を吐き出す顧問。
「何言ってんだキリノ!十分お前も可愛いぞ!」
(ちょっとちょっと)
「…本当?コジロー先生」
(…どうなってんのかしら)
 よちよち歩きの赤子のように、先生にすりより、その顔を朱に染め上げるキリノ。
「ああ、とても可愛いぞ。…オレンジタルトくれるしな」
「…やったあ!」
 ぱやあああ。
 その、余りに幸せ過ぎる光景に。
(あの子のあんな顔、家でも見た事あったかしらねえ…)
 記憶を紐解けば、自分が倒れた最近以降は特に、キリノはああした緩やかな表情を見せていない、ような気がする。
 大人の自覚、と言えば聞こえはいいが――――それは裏返せば、自身の子離れのタイミング、という事でもある。
 ともかくもそれが家の外で、さらに意中の人の前で、発揮されている、という事であるならば。

 ――――これは、何も手伝うことがないわ。
 そう思い、「確認」と「サポート」という当初の目的が(ほぼ何もせずに)達せられた事を実感すると。
 ペコリ、とひとつ丁寧なお辞儀をし、道場を後にする少女。
(娘を、お願いしますわね、先生)
 その表情は最早キリノの顔とは異なっており、完全な母親のそれであった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

【エピローグ】

 足取りも軽く、家へと戻る――――がその前に。
(どうやって、説明した物かしらね…)
 とりあえずは店番をしてくれている妹と、厨房に居るであろう夫の二人に。
 続いては帰って来る息子や娘たちに、どう言えばこの状況は納得してもらえるだろう。
 まさかキスしないと若返る病気になっちゃった、とかのメルヘンで片付けられるお話でもなし――――
(そう言えば、忘れてたけど…)
 ”コジロー先生”という人の実像を知り、その分析をするにあたって。
 どうしても喉元を通り過ぎずに引っかかり続けている事が一つだけある。
 それはかなり直截的で、具体的な事であり、一目見てすぐに気付いた事であり、
 少なくとも、キリノを任せられる、という点にあたって、かなりの安心感をもたらした物であったはずなのだが。
(何でかしらね…昔から知ってるみたいな事、なんだけど…)
 確かに優しそうではあった。でもそれだけではない。
 もっと、こう。とても身近な何かと結び付けられる物だった様な気がするのだが。
 漠然とその形を描き、イメージを具象化しながら、家路を急ぐ――――
 そしてやがてその像が形を結ぶと、今まさに店の軒先で心配そうに自分の帰りを待っている夫の姿が重なる。
(ああ、そっか…!そうね。似てるわ、たぶん)
 その発見の勢いに任せ、心配顔の夫に駆け寄ると。
 相変わらずキリノのままであろう自分の姿を気にもせず、夫の胸に飛びつく妻。
 そのままゴシゴシと胸に顔をなすりつけながら。
「あなた、ただいまー!」
「おお、よくわからんがおかえり、はっはっは。……しかし、その格好はどうしたんだい?」
「………え?」
 気がつけば。
 小さいスカートはぎゅうぎゅうとお腹をしめつけ、ブラウスのボタンも外れそうだ。
 心なしか、胸も少し苦しい。ハテ、と自分の姿を見てみれば。
(ありゃ…戻ってる、わ、ね…)
「って、ウワー!!」
 明らかな公衆の面前で、明らかにお客さん達のいる前で。
 キツキツの娘の制服を着て夫に抱き付く妻のいる総菜屋、とはどんな物であろうか。
 さらに間の悪いことに、そこへ学校から帰ってきたばかりの家族の一人が、ぽつり。
「…あたし、妹がいいなあ~~」
 そう言って、家宅の方へと消えていくいもーと。
 顔を可能な限り真っ赤にしてその場にうずくまる母。
 はっはっは、と笑うほかにない父。
 もはやニヤニヤとその光景を見守るしかない、常連のお客様方。

 ――――それから、およそ10分後。
 降りた惣菜ちばのシャッターに 【本日はお休みします】 の貼り紙がされたのは、言うまでもない。