「つらぬけーッ ハァーッ!」
「ゲェーッ! なんということだ……これほど、愛が痛いとは……フ……フフフ……
お前の愛のほうが私の愛より勝っていたということか……」
「100万ラブ+100万ラブで200万ラブ!!
いつもの2倍の愛がくわわって200万×2の400万ラブ!!
そしていつもの3倍不倫すれば400万×3の…おまえをうわまわる1200万ラブだーっ!!」

「……」
 邦画ってホントにつまんねーの多いな。とコジローは、心の中で思った。
隣ではキリノが爆笑している。この「愛をつらぬけ」という映画にキリノから誘われたときは驚いたものだ。
「せんせー、なんかチケット手に入ったんですけど見にいってくれる人がいなくて~
いっしょに見てみません? なんかバカバカしそうですし」
 そんな感じで軽く誘われたものの、最初は断ろうと思っていた。
教師と生徒が夏休みにプライベートで会っていていいものか、と少し悩んだのも事実だ。
ただ、断ろうとしたらキリノがなんだか泣きそうな感じになり、
別にやましいことはないからと自分に言い聞かせて結局なし崩し的にきてしまった。
 しかし……ほんとつまんねえな、これ。

「お前の愛が、俺の胸にぽっかりと穴を開けるとは……な……」
「愛の痛みに耐えられるかしら?」
 画面では多分シリアスなシーンなのだろう。だが、観客は爆笑しているしキリノも笑っている。
つまらなすぎて面白いというやつだろうか。
試写会では、あの実写デビル○ンを超えた超駄作という評判だったらしいが
まさにその通りだと思う。だいたい、あなたが好きだから胸に穴が開いたって、
本当にCGで開けてどうするんだよ。愛が痛いってなんで物理的にダメージ受けるんだ。
コジローは、1人で画面に突っ込みを続けていた。


「あなたが悪いのよ……気づかないフリをして……」
「なんという愛の重さだ……グフッ」
愛の重みに耐えられず重力崩壊を起こした地球を背景に、エンドロールが流れる。
「いやー、バカバカしかったっすね~」
 上映が終わって、キリノが笑いながら立ち上がった。
「あれ? つまんなかったっすか?」
「いや、シュールすぎて突っ込みつかれたというか……にしてもさ、
サヤとか友達を誘ってくれば良かったのに、なんで俺なんだ?」
「先生、アタシと映画見るのはイヤだったんですか?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
 突然、キリノは下を向いた。
「キ、キリノ? どうした?」
「つらぬけーっ! ハァーッ!」
「ちょ、キリノ、おい。キリノ」
「つらぬけーっ! つらぬけーッ!」
「おい、ふざけるのはやめろ、キリ」
 コジローは言いかけて、キリノが目に涙をためていることに気づいた。
そうか、友人とじゃなくて俺と来たかったってことだったのか……。
「……スマン。キリノ。鈍いヤツで」
「わかってくれたならいいっす。その代わり……」
 キリノはニヤリと笑って舌を出した。あれ、涙がない? まさか、嘘泣きじゃ。
「こっち見に行きたいんですけど……」
 そう言って、甘ったるい恋愛映画のチケットをおずおずと差し出した。
「もしかして、こっちが本命だったのか?」
「え、へへへへ。あと、実はここに予約を取ってるんですけど……」
 そう言って、高級スイートルームがあるホテルを、
「って待て待て待て! なんかおかしいぞ!オイ」
「もうおそいっすよ。先生は、とっくにアタシの愛につらぬかれてるんですから」
「エェーッ!?」
「あなたが悪いのよ……気づかないフリをして……」
「なんという愛の重さだ……グフッ」
 2人は、顔を見合わせて笑ったのだった。
最終更新:2008年09月22日 21:09