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 朝練が終わりHRを待つ教室に、底無しに明るく元気な声がとどろく。
「おはよー!おはよ、おっはよー!」
 ほとんど日課となっている、クラス全員への挨拶を終えたキリノが席に着くと、
同じくソフト部の朝練を終えたキリノの親友二人が隣と前の席から声をかける。
まずは、髪の短い女の子から。

「オハヨー。なんか今日はいつもにも増してご機嫌だね、キリノ?」
 まあこの子は大体いつもこうなんだけどね、とそれに追従しながら、長い髪の女の子が続ける。
「でも今日は鼻唄まで鳴らしちゃって、ほんとどうしたの?何かいいことあった?」
「たはー、そうなんだよね。やっぱ、わかっちゃうか~」
 そう言いながら喜色を消そうともしないキリノに、これは相当なことだ、と察したショートの子が尋ねる。
「…じゃあ、昨日のタルト作戦が上手くいったってわけね?」
「あー、あの馬鹿でかい…」
 キリノと二人とは班が分かれており後に知った事なのだが、
昨日の調理実習でキリノが作った莫大な大きさのオレンジタルトは実は一人前で、
もともと誰か一人にあげる為の物であったらしい。
 それを知った食欲旺盛な男子勢が次々とくずおれていったのも記憶には新しく、
そしてまたキリノの事をよく知る二人にとって、その人物が誰であるかは想像に容易い。
「で、で?どうなん?反応は?」
「まああんたの作るものなら喜んで食べてくれたでしょうね、だって…」
 お昼休みに、わざわざあんたのエビフライをかっぱらいに来るくらいですもの。
 とは繋げられないロングの子が語尾を濁してキリノにひとつ視線を送ると。
「うんうん、ふつーにおいしかったって」
「えっ、へ?」
「それだけ…?」
 その余りに期待とは異なる回答に落胆を隠せない二人。しかし。
「でね、でね、うふふふ…」
 相変わらず笑顔を隠そうともしない(それどころか、膨らみ続けてさえいるような)キリノは、
その満面の笑みを最高潮にまで高めて、こう続ける。
「コジロー先生がねえ、あたしの事”かわいいぞ”ってー」
 その言葉を聞いた二人は一瞬呆け、数秒後にどうにか意味を解すると、
「……おおっ!!」
「それ…すごいじゃない!」
 ショートの子は席から立ち上がり、キリノの席を横から叩く。
 ロングの子は形相を変え、キリノの眼前へとにじり寄る。
 その興奮は、無理もない。
 長らくキリノの親友を続けている二人にとっては、キリノと”先生”の交流(?)に触れる機会も多く、
それは当初はキリノの事をその趣味の悪さから「彼氏がいない」と断じていた見方を変えさせるのに十分な期間であった。
 「いない」というよりは「できない」――――いやむしろ、あれは彼氏なのだろうか?
 その疑問に、ともすれば終止符が打たれようというのだ。
「で?で?あんたは?どうしたの?」
「抱き付いちゃったりとか、キスされちゃったりとか?」
 興奮状態で息も絶え絶えの二人のにじり寄りにも、溢れ輝かんばかりの笑顔を絶やさないキリノ。
 ひといき息を吸い込むと。
「もちろん、すっっっごくうれしかったよー」
 二人がその回答の意味を正確に理解するまでに、また数秒。
 その反応に少しきょとんとすると、再び笑顔に戻ってニヤニヤと昨日の言葉を反芻するキリノ。
「ふんでねー、サヤも、タマちゃんも、さとりんも、勿論ミヤミヤも、うちの部員はみんな可愛いぞ!ってー言っててえ」
「ちょ、ちょっとキリノ?」
「それって、意味が…」
 かなり違う。いや根本的に異なる。しかしキリノはもじもじと、幼女のような屈託の無さで。
「なでなでしてくれて、あたしの事かわいい、かわいいって…えへへへ…」
 そのまま、どこか異世界へのトリップを続けるキリノに大きく溜息をつきながら二人。
「…なんか、あんたさ」
「症状、重くなってきたんじゃない?」
 片方は額に手をやり、片方は頭を抱える―――――
 二人の疑問と心労はまだまだ、解けそうにもない。一方で。
「かわいい…かわいいぞ……かわいいよ……にょへへへー…」
(ぱやぁぁぁぁぁぁぁ)
 猫口の少女は、わけもわからずただ満面の笑みを浮かべていた。